WZW Notes

6.1 基礎事項

平坦な空間の自由ボソンでは、運動方程式 ∂∂ˉX=0\partial\bar\partial X=0 から ∂ˉ(∂X)=0\bar\partial(\partial X)=0 と ∂(∂ˉX)=0\partial(\bar\partial X)=0 が従う。左と右の振動を、それぞれ正則・反正則なカレントで記録できる。

三次元球面 S3S^3 を動く弦でも、左右を別々に記録できるだろうか。自由ボソンの作用を球面の計量へ置き換え、運動方程式を調べてみよう。左右を分離できない項が残るなら、その項を打ち消すように作用を変えればよい。ここからWess–Zumino項の必要な形を探っていく。

6.1.1 作用とカイラル対称性

自由ボソンでは、運動方程式を微分の保存則として読めた。球面上でも、弦の位置を微分して運動項を作りたい。球面の各点をSU(2)の行列で表すと、どんな式になるだろうか。まず、その点の対応を定めよう。

群値場と主カイラル模型

弦の位置を表す四つの実座標を、SU(2)の行列 gg にまとめる。Pauli行列 σa\sigma_a を用いると

g=y01+i∑a=13yaσa,(y0)2+∑a=13(ya)2=1g=y^0\mathbf1+i\sum_{a=1}^3y^a\sigma_a, \qquad (y^0)^2+\sum_{a=1}^3(y^a)^2=1

と一意に書ける。四つの実数 y0,y1,y2,y3y^0,y^1,y^2,y^3 にこの制約を課した集合が単位三次元球面なので、SU(2)≃S3SU(2)\simeq S^3 である。これは点の対応であり、物理的な半径は作用の係数で定まる。

世界面を複素座標 (z,zˉ)(z,\bar z) をもつ二次元面 Σ\Sigma とする。以下はEuclid作用であり、向きは dz∧dzˉ=i d2zdz\wedge d\bar z=i\,d^2z に固定する。具体的には z=σ1−iσ2z=\sigma^1-i\sigma^2、d2z=2dσ1dσ2d^2z=2d\sigma^1d\sigma^2 と取る。この規約を計量項とWess–Zumino項で共通に用いる。場を

g:Σ⟶SU(2)g:\Sigma\longrightarrow SU(2)

とする。単位元の近くでは

g(z,zˉ)=exp⁡(iXa(z,zˉ)ta),a=1,2,3,g(z,\bar z) =\exp\bigl(iX^a(z,\bar z)t_a\bigr), \qquad a=1,2,3,

と書ける。XaX^a は標的空間の局所座標、ta=σa/2t_a=\sigma_a/\sqrt2 はHermitianな生成子で、itait_a が su(2)\mathfrak{su}(2) の接ベクトルになる。gg の微分は点 gg における接ベクトルなので、左から g−1g^{-1} を掛けて単位元の接空間へ移すと、異なる点でも同じLie代数の基底で比較できる。

群値場の微分を単位元へ移して得るLie代数値1形式を A:=g−1dgA:=g^{-1}dg と書く。これが世界面へ引き戻した左不変Maurer–Cartan形式である。複素座標での成分は、対応する座標を添字にして

A=Az dz+Azˉ dzˉ,Az=g−1∂g,Azˉ=g−1∂ˉg\boxed{ A=A_z\,dz+A_{\bar z}\,d\bar z, \qquad A_z=g^{-1}\partial g,\quad A_{\bar z}=g^{-1}\bar\partial g }

と表す。外微分や外積には1形式 AA を使い、座標微分や交換子の計算では成分 Az,AzˉA_z,A_{\bar z} を使う。AA は恒等的に

dA+A∧A=0d{A}+{A}\wedge{A}=0

を満たす。

dz∧dzˉdz\wedge d\bar z 成分を取れば

∂Azˉ−∂ˉAz+[Az,Azˉ]=0(MC)\boxed{ \partial{A_{\bar z}}-\bar\partial A_z+[A_z,{A_{\bar z}}]=0 } \tag{MC}

を得る。これは運動方程式ではない。AzA_z と Azˉ{A_{\bar z}} が同じ群値場 gg から作られていることを表す恒等式である。

Maurer–Cartan恒等式が任意の群値場で成り立つ理由

g−1g=1g^{-1}g=1 を微分し、右から g−1g^{-1} を掛けると

(dg−1)g+g−1dg=0,dg−1=−g−1(dg)g−1.(dg^{-1})g+g^{-1}dg=0, \qquad dg^{-1}=-g^{-1}(dg)g^{-1}.

d2g=0d^2g=0 と外微分の積の法則から

dA=d(g−1dg)=(dg−1)∧dg+g−1d2g=−g−1(dg)g−1∧dg=−A∧A.\begin{aligned} d{A} &=d(g^{-1}dg)=(dg^{-1})\wedge dg+g^{-1}d^2g\\ &=-g^{-1}(dg)g^{-1}\wedge dg=-{A}\wedge{A}. \end{aligned}

行列の積の順序を保ち、dzˉ∧dz=−dz∧dzˉd\bar z\wedge dz=-dz\wedge d\bar z を使えば

dA=(∂Azˉ−∂ˉAz) dz∧dzˉ,A∧A=(AzAzˉ−AzˉAz) dz∧dzˉ.\begin{aligned} d{A}&=(\partial{A_{\bar z}}-\bar\partial A_z)\,dz\wedge d\bar z,\\ {A}\wedge{A} &=(A_z{A_{\bar z}}-{A_{\bar z}} A_z)\,dz\wedge d\bar z. \end{aligned}

したがって dz∧dzˉdz\wedge d\bar z の係数が零になる条件が、本文の恒等式である。

主カイラル模型の作用

自由ボソンの運動項は、場の一階微分の二次式だった。球面上でも、同じ接空間へ移した二成分 Az,AzˉA_z,A_{\bar z} をSU(2)の不変計量で組み合わせる。こうしてまず作れる作用は

S0[g]=−k4π∫Σd2z tr⁡ ⁣(g−1∂g g−1∂ˉg)=−k4π∫Σd2z tr⁡(AzAzˉ).(6.1)S_0[g] =-\frac{k}{4\pi} \int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}\!\left( g^{-1}\partial g\,g^{-1}\bar\partial g \right) =-\frac{k}{4\pi} \int_\Sigma d^2z\,\operatorname{tr}(A_z{A_{\bar z}}). \tag{6.1}

左移動 g↦hgg\mapsto hg では AA が変わらず、右移動 g↦ghg\mapsto gh では A↦h−1AhA\mapsto h^{-1}Ah になる。トレースは共役変換で不変なので、この作用は定数 h∈SU(2)h\in SU(2) による左右移動の下で

S0[gh]=S0[hg]=S0[g]S_0[gh]=S_0[hg]=S_0[g]

を満たす。

ここで k>0k>0 は正の運動項を選ぶための無次元係数であり、tr⁡\operatorname{tr} は不変双線形形式を定める。以下では基本表現のトレース tr⁡=Tr⁡2\operatorname{tr}=\operatorname{Tr}_{\mathbf2} に固定する。これは Tr⁡ad/4\operatorname{Tr}_{\mathrm{ad}}/4 と同じ不変双線形形式である。kk が標的空間の半径とカレント代数のレベルを同時に表すことは、後で導く。

単位元近傍では Az=ita∂Xa+O(X2)A_z=i t_a\partial X^a+O(X^2)、Azˉ=ita∂ˉXa+O(X2)A_{\bar z}=i t_a\bar\partial X^a+O(X^2) なので、i2=−1i^2=-1 が作用の負号を打ち消し、正の自由ボソン運動項になる。高次には行列の非可換性から相互作用が残る。

単位元の近くで、作用が自由ボソンの運動項になる理由

X=XataX=X^at_a、g=eiXg=e^{iX} とする。ここでは tat_a はHermitianで、XX と dXdX をともに場の一次と数える。

eiX=1+iX−12X2+O(X3),d(eiX)=i dX−12(dX X+X dX)+O(X3).e^{iX}=1+iX-\frac12X^2+O(X^3), \qquad d(e^{iX})=i\,dX-\frac12(dX\,X+X\,dX)+O(X^3).

左から e−iX=1−iX−12X2+⋯e^{-iX}=1-iX-\tfrac12X^2+\cdots を掛け、二次まで残すと

e−iXd(eiX)=i dX−12(dX X+X dX)+X dX+O(X3)=i dX+12[X,dX]+O(X3).\begin{aligned} e^{-iX}d(e^{iX}) &=i\,dX-\frac12(dX\,X+X\,dX)+X\,dX+O(X^3)\\ &=i\,dX+\frac12[X,dX]+O(X^3). \end{aligned}

したがって κab:=tr⁡(tatb)\kappa_{ab}:=\operatorname{tr}(t_at_b) と置けば、i2=−1i^2=-1 によって

tr⁡(AzAzˉ)=−κab∂Xa∂ˉXb+O(X3),S0(2)=k4π∫d2z κab∂Xa∂ˉXb.\operatorname{tr}(A_z{A_{\bar z}}) =-\kappa_{ab}\partial X^a\bar\partial X^b+O(X^3), \qquad S_0^{(2)}=\frac{k}{4\pi}\int d^2z\, \kappa_{ab}\partial X^a\bar\partial X^b.

Hermitian基底ではこの二次形式を正定値に取る。anti-Hermitian基底 Ta=itaT_a=it_a を用いるなら g=eXaTag=e^{X^aT_a} と書き、正定値内積は −tr⁡(TaTb)=κab-\operatorname{tr}(T_aT_b)=\kappa_{ab} になる。基底の変更と指数の ii の有無を同時に変えることで、同じ正の運動項を得る。

運動方程式

閉じた世界面、または境界で変分が消える場合を考える。変分を同じLie代数へ移した量を η=g−1δg\eta=g^{-1}\delta g とする。逆行列の変分 δg−1=−ηg−1\delta g^{-1}=-\eta g^{-1} と積の法則から、δAz=∂η+[Az,η]\delta A_z=\partial\eta+[A_z,\eta]、δAzˉ=∂ˉη+[Azˉ,η]\delta A_{\bar z}=\bar\partial\eta+[A_{\bar z},\eta] となる。作用の変分では交換子の二項がトレースの巡回性で相殺し、微分を部分積分すると

δS0=k4π∫Σd2z tr⁡ ⁣[η(∂Azˉ+∂ˉAz)]\delta S_0=\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}\!\left[\eta(\partial A_{\bar z}+\bar\partial A_z)\right]

を得る。任意の η\eta に対する停留条件は

∂Azˉ+∂ˉAz=0(PCM)\boxed{\partial{A_{\bar z}}+\bar\partial A_z=0} \tag{PCM}

となる。これは二成分の微分の和が零という条件であり、各微分が個別に零だとはまだいえない。

主カイラル模型の運動方程式を、作用の変分から求める

Lie代数値の微小変分

η:=g−1δg\eta:=g^{-1}\delta g

を導入する。δg=gη\delta g=g\eta および δg−1=−ηg−1\delta g^{-1}=-\eta g^{-1} だから

δAz\displaystyle \delta A_z=
δ(g−1∂g)\displaystyle \delta(g^{-1}\partial g)
=
−ηAz+g−1∂(gη)\displaystyle -\eta A_z+g^{-1}\partial(g\eta)
=
[Az,η]+∂η\displaystyle [A_z,\eta]+\partial\eta

和の順序を入れ替えれば δAz=∂η+[Az,η]\delta A_z=\partial\eta+[A_z,\eta] である。同様に

δAzˉ=∂ˉη+[Azˉ,η].\delta{A_{\bar z}}=\bar\partial\eta+[{A_{\bar z}},\eta].

したがって

δS0=−k4π∫Σd2z tr⁡(δAz Azˉ+Az δAzˉ)=−k4π∫Σd2z tr⁡((∂η)Azˉ+[Az,η]Azˉ+Az(∂ˉη)+Az[Azˉ,η]).\begin{aligned} \delta S_0 &=-\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}(\delta A_z\,{A_{\bar z}}+A_z\,\delta{A_{\bar z}})\\ &=-\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}\Bigl( (\partial\eta){A_{\bar z}} +[A_z,\eta]{A_{\bar z}} +A_z(\bar\partial\eta) +A_z[{A_{\bar z}},\eta] \Bigr). \end{aligned}

交換子を展開すると、相殺に必要なのは行列を交換する操作ではなくトレースの巡回性である。

tr⁡([Az,η]Azˉ)=tr⁡(AzηAzˉ−ηAzAzˉ)=tr⁡(ηAzˉAz−ηAzAzˉ),tr⁡(Az[Azˉ,η])=tr⁡(AzAzˉη−AzηAzˉ)=tr⁡(ηAzAzˉ−ηAzˉAz).\begin{aligned} \operatorname{tr}([A_z,\eta]{A_{\bar z}}) &=\operatorname{tr}(A_z\eta{A_{\bar z}}-\eta A_z{A_{\bar z}})\\ &=\operatorname{tr}(\eta{A_{\bar z}} A_z-\eta A_z{A_{\bar z}}),\\ \operatorname{tr}(A_z[{A_{\bar z}},\eta]) &=\operatorname{tr}(A_z{A_{\bar z}}\eta-A_z\eta{A_{\bar z}})\\ &=\operatorname{tr}(\eta A_z{A_{\bar z}}-\eta{A_{\bar z}} A_z). \end{aligned}

従って二項は符号が逆になり、

tr⁡([Az,η]Azˉ)=−tr⁡(η[Az,Azˉ]),tr⁡(Az[Azˉ,η])=+tr⁡(η[Az,Azˉ]).\begin{aligned} \operatorname{tr}([A_z,\eta]{A_{\bar z}}) &=-\operatorname{tr}(\eta[A_z,{A_{\bar z}}]),\\ \operatorname{tr}(A_z[{A_{\bar z}},\eta]) &=+\operatorname{tr}(\eta[A_z,{A_{\bar z}}]). \end{aligned}

∂tr⁡(ηAzˉ)=tr⁡((∂η)Azˉ+η∂Azˉ)\partial\operatorname{tr}(\eta{A_{\bar z}})=\operatorname{tr}((\partial\eta){A_{\bar z}}+\eta\partial{A_{\bar z}}) より、境界項を除くと

∫tr⁡((∂η)Azˉ)=−∫tr⁡(η∂Azˉ),∫tr⁡(Az∂ˉη)=−∫tr⁡(η∂ˉAz).\int\operatorname{tr}((\partial\eta){A_{\bar z}}) =-\int\operatorname{tr}(\eta\partial{A_{\bar z}}), \qquad \int\operatorname{tr}(A_z\bar\partial\eta) =-\int\operatorname{tr}(\eta\bar\partial A_z).

ここでは世界面が閉じているか、η\eta が境界で零になることを仮定する。二つを作用の変分に戻すと

δS0=k4π∫Σd2z tr⁡ ⁣[η(∂Azˉ+∂ˉAz)].\delta S_0 =\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}\!\left[ \eta\bigl(\partial{A_{\bar z}}+\bar\partial A_z\bigr) \right].

よって運動方程式は

∂Azˉ+∂ˉAz=0.\boxed{ \partial{A_{\bar z}}+\bar\partial A_z=0 }.

左右分離を妨げる交換子

と運動方程式 を連立すると

∂Azˉ=−12[Az,Azˉ],∂ˉAz=12[Az,Azˉ].\partial{A_{\bar z}}=-\frac12[A_z,{A_{\bar z}}], \qquad \bar\partial A_z=\frac12[A_z,{A_{\bar z}}].

一般には交換子が消えないので、主カイラル模型の運動項だけでは自由ボソンの分離を再現できない。可換群なら交換子は零になるが、SU(2)ではその条件を任意の場に課せない。必要なのは、交換子を零と仮定することではなく、運動方程式に現れる交換子を作用の別の寄与で打ち消すことである。

実際、Maurer–Cartan恒等式を使うと、計量項の変分に現れる ∂Azˉ+∂ˉAz\partial A_{\bar z}+\bar\partial A_z は 2∂Azˉ+[Az,Azˉ]2\partial A_{\bar z}+[A_z,A_{\bar z}] になる。追加する項の変分が −[Az,Azˉ]-[A_z,A_{\bar z}] を与えれば、同じ群値場の運動方程式を ∂Azˉ=0\partial A_{\bar z}=0 にできる。得られる左右のカレントには、左不変形式と右不変形式をそれぞれ使う。そのため、正則になる量は AzA_z そのものとは限らない。

曲率とフラックス

左右のカレントが分離しないことは分かった。量子補正を含めた後も、球面の計量だけで共形対称性を保てるだろうか。弦が計量とともに結合する反対称テンソル場も加え、二つの寄与を調べよう。

Kalb–Ramond場との結合

弦の背景場には、計量 GμνG_{\mu\nu} のほかに反対称テンソル

B=12Bμν(X) dXμ∧dXνB=\frac12B_{\mu\nu}(X)\,dX^\mu\wedge dX^\nu

がある。これをKalb–Ramond場、または単に BB-field と呼ぶ。点粒子が1形式ゲージ場 Aem=AμemdXμA^{\mathrm{em}}=A^{\mathrm{em}}_\mu dX^\mu に世界線積分

∫worldlineAem\int_{\text{worldline}}A^{\mathrm{em}}

で結合するのに対し、一次元の弦は2形式 BB に世界面積分で結合する。Euclid作用では

SB=i2πα′∫ΣX∗B=i4πα′∫Σd2σ εαβBμν(X)∂αXμ∂βXν.(B-coupling)S_B =\frac{i}{2\pi\alpha'} \int_\Sigma X^*B =\frac{i}{4\pi\alpha'} \int_\Sigma d^2\sigma\, \varepsilon^{\alpha\beta} B_{\mu\nu}(X) \partial_\alpha X^\mu \partial_\beta X^\nu . \tag{B-coupling}

ここで α′\alpha' は長さの二乗の次元をもち、弦の張力を T=1/(2πα′)T=1/(2\pi\alpha') と定める。εαβ\varepsilon^{\alpha\beta} は世界面の向きを表す反対称テンソルであり、X∗BX^*B は標的空間の2形式 BB を世界面へ引き戻したものである。BB には、標的空間上の1形式 Λ\Lambda を用いた

B⟼B+dΛB\longmapsto B+d\Lambda

というゲージ対称性があり、閉じた世界面では

∫ΣX∗(dΛ)=∫Σd(X∗Λ)=0\int_\Sigma X^*(d\Lambda) =\int_\Sigma d(X^*\Lambda) =0

なので作用は変わらない。局所的に意味をもつゲージ不変量は

H:=dB\boxed{H:=dB}

という3形式である。これは電磁気学で AemA^{\mathrm{em}} に対する F=dAemF=dA^{\mathrm{em}} が物理的な場の強さになることの2形式版である。

BB が定数なら H=0H=0 なので、閉弦のバルク運動方程式には寄与しない。第1章で定数 BB が主に開弦端点へ影響したのはこのためである。WZW模型で必要なのは H≠0H\neq0 の背景であり、BB そのものより3形式フラックス HH が本質になる。

曲率とフラックスの釣り合い

量子論では、短い距離の揺らぎを含めると作用中の計量や結合係数が観測尺度に応じて変わりうる。この変化率がベータ関数である。共形対称性を保つには、その流れが止まる背景を選ぶ必要がある。

ここでは、原著第2章のボソニックシグマ模型の1-loop結果(式 (2.14)–(2.15))を使う。dilaton(弦結合の強さを定める背景スカラー)を一定にすると、量子補正の最初の次数である1-loopでは

βabG=α′(Rab−14HacdHbcd)+O(α′2).\beta^G_{ab}=\alpha'\left(R_{ab}-\frac14H_{acd}H_b{}^{cd}\right)+O(\alpha'^2).
導出:球面上の自由場の縮約から、曲率とフラックスの相殺を求める

半径 RR の丸い S3S^3 と、一定の強さ hh をもつ H=h volSR3H=h\,\mathrm{vol}_{S^3_R} を考える。球面の対称性を保つ計量の補正は、元の計量の定数倍になる。従って、その係数を一つの接方向で求めればよい。以下では、曲率の相互作用を一回、フラックスの相互作用を二回挿入し、自由場の縮約から対数発散を計算する。

これは短距離での1-loop計算であり、α′/R2≪1\alpha'/R^2\ll1、α′h2≪1\alpha'h^2\ll1 の範囲で制御される。dilatonは一定、世界面は境界を持たないものとし、実Euclid座標 σ1,σ2\sigma^1,\sigma^2 と ε12=1\varepsilon^{12}=1 を使う。

二つの相互作用だけを取り出す

背景の写像 Xˉ\bar X を、σ1\sigma^1 方向に速さ vv で球面上の測地線を進み、σ2\sigma^2 方向には変化しないものに取る。接空間の第3方向をその速度に合わせると、直交フレームで ∂1Xˉa=vδa3\partial_1\bar X^a=v\delta^{a3}、∂2Xˉa=0\partial_2\bar X^a=0 となる。フレームを測地線に沿って平行移動すれば、この背景上の接続を消せる。

背景からの測地線変位を 2πα′ ξa\sqrt{2\pi\alpha'}\,\xi^a と規格化する。三つの実揺らぎ ξa\xi^a(a=1,2,3a=1,2,3)の自由作用は

Sfree=12∫d2σ ∂αξa∂αξa.S_{\mathrm{free}}=\frac12\int d^2\sigma\, \partial_\alpha\xi^a\partial_\alpha\xi^a.

1-loopの有効作用には、揺らぎの二次までの展開が必要になる。球面の断面曲率が 1/R21/R^2、直交フレームで Habc=hεabcH_{abc}=h\varepsilon_{abc} であることを使うと、相互作用は

SR=−v22R2∫d2σ [(ξ1)2+(ξ2)2],SH=−ihv2∫d2σ (ξ1∂2ξ2−ξ2∂2ξ1)=−ihv∫d2σ ξ1∂2ξ2.\begin{aligned} S_R&=-\frac{v^2}{2R^2}\int d^2\sigma\, \bigl[(\xi^1)^2+(\xi^2)^2\bigr],\\ S_H&=-\frac{ihv}{2}\int d^2\sigma\, (\xi^1\partial_2\xi^2-\xi^2\partial_2\xi^1) =-ihv\int d^2\sigma\,\xi^1\partial_2\xi^2. \end{aligned}

最後の等号では部分積分を使った。SRS_R は進行方向に垂直な二つの揺らぎに作用し、SHS_H はその二つを結び付ける。進行方向の ξ3\xi^3 はこの計算では自由なままである。

二次の相互作用がこの形になる理由

計量作用の測地線変分では、二次部分が

12∫d2σ [(Dαξ)2−Riajb∂αXˉi∂αXˉjξaξb]\frac12\int d^2\sigma\, \left[(D_\alpha\xi)^2 -R_{iajb}\partial_\alpha\bar X^i\partial_\alpha\bar X^j\xi^a\xi^b\right]

となる。DαD_\alpha は背景に沿う共変微分である。これは測地線のエネルギーの第二変分で、二つの共変微分を交換した項が曲率を与える。球面では R3a3b=(δab−δa3δb3)/R2R_{3a3b}=(\delta_{ab}-\delta_{a3}\delta_{b3})/R^2 なので、選んだ背景で曲率項は SRS_R になる。

BB の結合は、全微分を除く一回の変分で H=dBH=dB にまとめられる。さらに変分すると、二次部分は

i2∫d2σ εαβHabjξaDαξb∂βXˉj+i4∫d2σ εαβ∇aHbijξaξb∂αXˉi∂βXˉj.\frac i2\int d^2\sigma\, \varepsilon^{\alpha\beta}H_{abj}\xi^aD_\alpha\xi^b\partial_\beta\bar X^j +\frac i4\int d^2\sigma\, \varepsilon^{\alpha\beta}\nabla_aH_{bij}\xi^a\xi^b \partial_\alpha\bar X^i\partial_\beta\bar X^j.

最初の項は背景の微分を変分した寄与、第二項は HH 自身を変分した寄与である。一定の hh と球面の体積形式から作る HH は共変一定なので、第二項はゼロになる。第一項に ∂βXˉj=vδβ1δj3\partial_\beta\bar X^j=v\delta_{\beta1}\delta^{j3} と ε21=−1\varepsilon^{21}=-1 を入れれば、本文の SHS_H を得る。

曲率は一回の縮約で寄与する

自由場の運動量空間の伝播関数は δab/p2\delta^{ab}/p^2 である。背景の変化より短い距離の揺らぎを積分するため、運動量を μ<∣p∣<Λ\mu<|p|<\Lambda に制限する。同一点の縮約は

⟨ξaξb⟩0=δabI,I:=∫μ<∣p∣<Λd2p(2π)2p2=12πlog⁡Λμ.\langle\xi^a\xi^b\rangle_0=\delta^{ab}I, \qquad I:=\int_{\mu<|p|<\Lambda}\frac{d^2p}{(2\pi)^2p^2} =\frac1{2\pi}\log\frac\Lambda\mu.

Λ\Lambda は紫外cutoff、μ\mu は有効作用を読む尺度である。二つの横方向がそれぞれ II を寄与するので、

⟨SR⟩0=−v22R2∫d2σ (I+I)=−v2IR2∫d2σ.\langle S_R\rangle_0 =-\frac{v^2}{2R^2}\int d^2\sigma\,(I+I) =-\frac{v^2 I}{R^2}\int d^2\sigma.

ここでの係数 22 は、三次元球面の一つの接方向に対して横方向が二つあることから出る。

フラックスは二回の縮約で寄与する

SHS_H の一回挿入は、異なる自由場 ξ1,ξ2\xi^1,\xi^2 の縮約がゼロなので消える。最初の寄与は、−log⁡⟨e−SH⟩0-\log\langle e^{-S_H}\rangle_0 の二次項

−12⟨SH2⟩0,c-\frac12\langle S_H^2\rangle_{0,c}

である。添字 cc は連結した縮約を表す。必要な積は一つだけで、

⟨(ξ1∂2ξ2)(σ)(ξ1∂2ξ2)(σ′)⟩0,c=⟨ξ1(σ)ξ1(σ′)⟩0⟨∂2ξ2(σ)∂2ξ2(σ′)⟩0.\begin{aligned} &\langle(\xi^1\partial_2\xi^2)(\sigma) (\xi^1\partial_2\xi^2)(\sigma')\rangle_{0,c}\\ &\qquad= \langle\xi^1(\sigma)\xi^1(\sigma')\rangle_0 \langle\partial_2\xi^2(\sigma)\partial_2\xi^2(\sigma')\rangle_0. \end{aligned}

相対位置 σ−σ′\sigma-\sigma' を積分すると、二つの伝播関数が 1/(p2)21/(p^2)^2、二つの微分が p22p_2^2 を与える。二次元の角度平均 p22↦p2/2p_2^2\mapsto p^2/2 より、対数部分は

∫d2p(2π)2p22(p2)2=I2.\int\frac{d^2p}{(2\pi)^2}\frac{p_2^2}{(p^2)^2} =\frac I2.

従って

−12⟨SH2⟩0,c=−12(−ihv)2I2∫d2σ=h2v2I4∫d2σ.-\frac12\langle S_H^2\rangle_{0,c} =-\frac12(-ihv)^2\frac I2\int d^2\sigma =\frac{h^2v^2I}{4}\int d^2\sigma.

Euclid作用の i2=−1i^2=-1 が、二次展開の負号を打ち消す。このためフラックスの寄与は曲率の寄与と逆符号になる。1/41/4 は二次展開の 1/2!1/2! と角度平均の 1/21/2 の積である。SRS_R を二回以上挿入する項は背景の微分を四つ以上含むため、ここで求める二微分の対数発散には入らない。

対数発散を計量の走りに読み替える

二つの寄与を足すと、対数発散は

Γlog⁡=−log⁡(Λ/μ)4π(2R2−h22)∫d2σ v2.\Gamma_{\log} =-\frac{\log(\Lambda/\mu)}{4\pi} \left(\frac2{R^2}-\frac{h^2}2\right) \int d^2\sigma\,v^2.

球面の対称性により、一般の背景では v2v^2 が Gij∂αXˉi∂αXˉjG_{ij}\partial_\alpha\bar X^i\partial_\alpha\bar X^j に戻る。元の計量作用の係数は 1/(4πα′)1/(4\pi\alpha') なので、この発散を打ち消すための裸の計量は

Gij0=Gij(μ)+α′log⁡Λμ(2R2−h22)Gij(μ).G^0_{ij}=G_{ij}(\mu) +\alpha'\log\frac\Lambda\mu \left(\frac2{R^2}-\frac{h^2}2\right)G_{ij}(\mu).

G0G^0 と Λ\Lambda を固定して log⁡μ\log\mu で微分する。補正項の中の R,h,GR,h,G の走りは次のループ次数なので、1-loopでは

βijG:=μdGijdμ=α′(2R2−h22)Gij+O(α′2).\boxed{ \beta^G_{ij}:=\mu\frac{dG_{ij}}{d\mu} =\alpha'\left(\frac2{R^2}-\frac{h^2}2\right)G_{ij} +O(\alpha'^2). }

従って h=±2/Rh=\pm2/R で計量の走りが止まる。これは球面の Rij=2Gij/R2R_{ij}=2G_{ij}/R^2 と HiabHjab=2h2GijH_{iab}H_j{}^{ab}=2h^2G_{ij} により、本文の α′(Rij−HiabHjab/4)\alpha'(R_{ij}-H_{iab}H_j{}^{ab}/4) と一致する。

BB の走りはこの背景でゼロになる

反対称な結合の補正を見るには、背景の二方向の微分を保って、上に示した ∇H\nabla H の頂点を縮約する。⟨ξaξb⟩0=δabI\langle\xi^a\xi^b\rangle_0=\delta^{ab}I より、その対数項は

ΓB,log⁡=iI4∫d2σ εαβ∇aHaij∂αXˉi∂βXˉj.\Gamma_{B,\log} =\frac{iI}{4}\int d^2\sigma\, \varepsilon^{\alpha\beta}\nabla^aH_{aij} \partial_\alpha\bar X^i\partial_\beta\bar X^j.

計量の場合と同じく、元の BB 結合の係数 i/(4πα′)i/(4\pi\alpha') と比較すれば

βijB=−α′2∇aHaij+O(α′2).\beta^B_{ij}=-\frac{\alpha'}2\nabla^aH_{aij}+O(\alpha'^2).

今回の H=h volSR3H=h\,\mathrm{vol}_{S^3_R} は ∇H=0\nabla H=0 なので、βB\beta^B の1-loop項はゼロである。従ってこの次数で必要な条件は h2=4/R2h^2=4/R^2 にまとまる。有限の kk での厳密な共形対称性は、後にカレント代数から調べる。

この計算の自由場の縮約は、短距離OPEを積分する計算でもある。曲率の項は一つの複合演算子の正規順序化から、H2H^2 の項は二つの挿入の積から生じる。背景場展開は、その相互作用を曲率とフラックスで表すために用いた。

二次の背景場展開の参照:Bonezzi–Codina–Hohm、§3.2–3.3と式 (4.49)。ここではその局所頂点を丸い S3S^3 に特殊化して計算した。

ここで RabR_{ab} は計量 GG のRicci曲率、添字の上げ下げには GG を使う。丸い三次元球面の幾何の結果 Rab=2Gab/R2R_{ab}=2G_{ab}/R^2 を用いると、H=0H=0 のままでは曲率の寄与が残る。RR は球面の半径である。その大きさを評価するために、作用の係数から半径を読み取ろう。

SU(2)≃S3SU(2)\simeq S^3 という同一視だけでは、物理的な長さは決まらない。基本表現のトレースでは単位球面の計量が dsunit2=−12tr⁡(g−1dg)2ds^2_{\mathrm{unit}}=-\tfrac12\operatorname{tr}(g^{-1}dg)^2 である。半径 RR ならこの計量を R2R^2 倍する。弦の計量作用 SG=(4πα′)−1∫d2σ Gμν∂αXμ∂αXνS_G=(4\pi\alpha')^{-1}\int d^2\sigma\,G_{\mu\nu}\partial_\alpha X^\mu\partial_\alpha X^\nu は、上の複素座標規約では

SG=−R24πα′∫d2z tr⁡(AzAzˉ)S_G=-\frac{R^2}{4\pi\alpha'}\int d^2z\,\operatorname{tr}(A_zA_{\bar z})

となる。作用 と係数を比較すると

R2=kα′,ℓs=α′,R/ℓs=k.(radius-level)\boxed{R^2=k\alpha'},\qquad \ell_s=\sqrt{\alpha'},\qquad R/\ell_s=\sqrt{k}. \tag{radius-level}

つまり、kk が大きいほど弦の長さを単位とした球面が大きくなる。

作用の係数 kk から半径 R2=kα′R^2=k\alpha' を読み取る

Pauli行列を用いて g=y01+iyaσag=y^0\mathbf1+i y^a\sigma_a、(y0)2+∑a(ya)2=1(y^0)^2+\sum_a(y^a)^2=1 と書く。σaσb=δab1+iεabcσc\sigma_a\sigma_b=\delta_{ab}\mathbf1+i\varepsilon_{abc}\sigma_c と制約の微分 y0dy0+yadya=0y^0dy^0+y^ady^a=0 から

g−1dg=iσaea,ea=y0dya−yady0+εabcybdyc.g^{-1}dg=i\sigma_a e^a, \qquad e^a=y^0dy^a-y^ady^0+\varepsilon_{abc}y^bdy^c.

y=(y1,y2,y3)\boldsymbol y=(y^1,y^2,y^3) とまとめると、交差積 y×dy\boldsymbol y\times d\boldsymbol y は y\boldsymbol y と dyd\boldsymbol y に直交するので

∑a(ea)2=(y0)2∣dy∣2+∣y∣2(dy0)2−2y0dy0 y⋅dy+∣y×dy∣2=∣dy∣2+(dy0)2.\begin{aligned} \sum_a(e^a)^2 &=(y^0)^2|d\boldsymbol y|^2+|\boldsymbol y|^2(dy^0)^2 -2y^0dy^0\,\boldsymbol y\cdot d\boldsymbol y +|\boldsymbol y\times d\boldsymbol y|^2\\ &=|d\boldsymbol y|^2+(dy^0)^2. \end{aligned}

最後に ∣y×dy∣2=∣y∣2∣dy∣2−(y⋅dy)2|\boldsymbol y\times d\boldsymbol y|^2=|\boldsymbol y|^2|d\boldsymbol y|^2-(\boldsymbol y\cdot d\boldsymbol y)^2 と y⋅dy=−y0dy0\boldsymbol y\cdot d\boldsymbol y=-y^0dy^0 を代入した。これは単位球面に誘導される計量である。tr⁡(σaσb)=2δab\operatorname{tr}(\sigma_a\sigma_b)=2\delta_{ab} より

dsunit2=∑a(ea)2=−12tr⁡(g−1dg g−1dg),ds2=R2dsunit2.ds_{\mathrm{unit}}^2=\sum_a(e^a)^2 =-\frac12\operatorname{tr}(g^{-1}dg\,g^{-1}dg), \qquad ds^2=R^2ds_{\mathrm{unit}}^2.

係数を比較するため、複素座標の積分規約も固定する。z=σ1−iσ2z=\sigma^1-i\sigma^2、∂=(∂1+i∂2)/2\partial=(\partial_1+i\partial_2)/2、∂ˉ=(∂1−i∂2)/2\bar\partial=(\partial_1-i\partial_2)/2、d2z=2dσ1dσ2d^2z=2d\sigma^1d\sigma^2 とする。対称な計量 GG との縮約では交差項が消えるので

Gμν∂Xμ∂ˉXν=14Gμν(∂1Xμ∂1Xν+∂2Xμ∂2Xν).G_{\mu\nu}\partial X^\mu\bar\partial X^\nu =\frac14G_{\mu\nu} \left(\partial_1X^\mu\partial_1X^\nu+\partial_2X^\mu\partial_2X^\nu\right).

ここで Az:=g−1∂gA_z:=g^{-1}\partial g、Azˉ:=g−1∂ˉg{A_{\bar z}}:=g^{-1}\bar\partial g と書く。従って実座標のシグマ模型作用は

SG=14πα′∫dσ1dσ2 Gμν∑α=12∂αXμ∂αXν=12πα′∫d2z Gμν∂Xμ∂ˉXν=−R24πα′∫d2z tr⁡(AzAzˉ).\begin{aligned} S_G&=\frac{1}{4\pi\alpha'}\int d\sigma^1d\sigma^2\, G_{\mu\nu}\sum_{\alpha=1}^2\partial_\alpha X^\mu\partial_\alpha X^\nu\\ &=\frac{1}{2\pi\alpha'}\int d^2z\,G_{\mu\nu}\partial X^\mu\bar\partial X^\nu\\ &=-\frac{R^2}{4\pi\alpha'}\int d^2z\,\operatorname{tr}(A_z{A_{\bar z}}). \end{aligned}

式 の係数 −k/(4π)-k/(4\pi) と比較すれば R2/α′=kR^2/\alpha'=k である。無次元の群座標を同じだけ変えたとき、距離は k\sqrt{k}、作用は kk に比例する。計量のトレース規約と、世界面の面積要素の規約を一緒に固定することで、この比較が一意に定まる。

球面の左右移動の対称性を保つ3形式は体積形式の定数倍なので、H=h volSR3H=h\,\mathrm{vol}_{S^3_R} と置く。hh は単位体積当たりのフラックスの強さである。正規直交フレームでは Habc=hεabcH_{abc}=h\varepsilon_{abc} であり、∑c,dεacdεbcd=2δab\sum_{c,d}\varepsilon_{acd}\varepsilon_{bcd}=2\delta_{ab} を使うと

HacdHbcd=2h2Gab,βabG=α′(2R2−h22)Gab+O(α′2).H_{acd}H_b{}^{cd}=2h^2G_{ab},\qquad \beta^G_{ab}=\alpha'\left(\frac2{R^2}-\frac{h^2}2\right)G_{ab}+O(\alpha'^2).

従って曲率とフラックスの寄与が釣り合う条件は

H=h volSR3,h=±2R\boxed{H=h\,\mathrm{vol}_{S^3_R},\qquad h=\pm\frac2R}

となる。同じシグマ模型の結果を BB に用いると、βabB=−α′∇cHcab/2+O(α′2)\beta^B_{ab}=-\alpha'\nabla^cH_{cab}/2+O(\alpha'^2) である。∇\nabla は計量 GG のLevi–Civita接続による共変微分で、隣り合う点のテンソルを基底の変化も含めて比較する。この接続が計量の体積形式を保つことを使うと、一定の hh に対する H=h volSR3H=h\,\mathrm{vol}_{S^3_R} も ∇H=0\nabla H=0 となり、βB\beta^B の1-loop項は零になる。符号は球面の向きの選択に対応し、以下では h=2/Rh=2/R を選ぶ。

この1-loop近似の小さなパラメータは α′/R2=1/k\alpha'/R^2=1/k なので、大きな kk での見通しを与える。有限 kk の厳密な共形対称性には、後の量子カレント代数を使う。

フラックスの強さを 2/R2/R にすると、なぜベータ関数が消えるのか?

上で導いたボソニックシグマ模型の1-loop結果を球面に適用する。dilaton Φ\Phi を一定にした場合の計量ベータ関数は

βabG=α′(Rab−14HacdHbcd)+O(α′2)\beta^G_{ab} =\alpha'\left( R_{ab}-\frac14H_{acd}H_b{}^{cd} \right) +O(\alpha'^2)

である。H=dBH=dB はKalb–Ramond 2形式 BB の場の強さである。

半径 RR の丸い nn 次元球面では Rab=(n−1)Gab/R2R_{ab}=(n-1)G_{ab}/R^2 なので、n=3n=3 では

Rab=2R2Gab.R_{ab}=\frac{2}{R^2}G_{ab}.

H=0H=0 ならベータ関数は消えない。SU(2)の等長変換を保つ3形式は体積形式に比例するので

H=h volS3H=h\,\mathrm{vol}_{S^3}

と置く。直交フレームでは Habc=hεabcH_{abc}=h\varepsilon_{abc} だから

HacdHbcd=h2εacdεbcd=2h2Gab.H_{acd}H_b{}^{cd} =h^2\varepsilon_{acd}\varepsilon_b{}^{cd} =2h^2G_{ab}.

縮約の係数2を確認する。直交フレームで a=b=1a=b=1 なら、非零なのは (c,d)=(2,3),(3,2)(c,d)=(2,3),(3,2) の二項で、それぞれ ε1cd2=1\varepsilon_{1cd}^2=1 である。a≠ba\neq b なら、同じ組 (c,d)(c,d) に対して二つのLevi–Civita記号がともに非零になることはない。従って ∑c,dεacdεbcd=2δab\sum_{c,d}\varepsilon_{acd}\varepsilon_{bcd}=2\delta_{ab} となり、一般のフレームでは 2Gab2G_{ab} と書ける。

したがって

βabG∝(2R2−h22)Gab,\beta^G_{ab} \propto \left( \frac{2}{R^2}-\frac{h^2}{2} \right)G_{ab},

となり、1-loopの計量ベータ関数が消える条件は

h2=4R2\boxed{ h^2=\frac{4}{R^2} }

である。

BB 自身の1-loopベータ関数は、dilatonが一定なら

βabB=−α′2∇cHcab+O(α′2)\beta^B_{ab} =-\frac{\alpha'}{2}\nabla^cH_{cab} +O(\alpha'^2)

である。∇\nabla は計量 GG のLevi–Civita共変微分である。H=h volS3H=h\,\mathrm{vol}_{S^3} では体積形式が共変一定であり、hh も定数なので

∇cHcab=0.\nabla^cH_{cab}=0.

したがって、この背景は h2=4/R2h^2=4/R^2 を満たすとき、計量と BB の両方のベータ関数を1-loopで消す。

球面の体積形式はSU(2)の左右移動で不変なので、選んだフラックスもこの対称性を保つ。式 の係数は半径を定め、曲率との釣り合いがフラックスの大きさを定める。次に、このフラックスと弦の結合を作用に組み込む。

この議論が直接確認するのは、計量と BB のベータ関数が1-loopで消えることである。WZW模型が量子論として厳密なCFTになることは、6.1.2でカレント代数とSugawara構成から確認される。

Wess–Zumino項とレベル量子化

曲率と釣り合うフラックス H=(2/R)volSR3H=(2/R)\mathrm{vol}_{S^3_R} を作用に組み込みたい。局所的には H=dBH=dB と書け、弦との結合は SB,E=i2πα′∫Σg∗BS_{B,E}=\frac{i}{2\pi\alpha'}\int_\Sigma g^*B である。しかし ∫S3H≠0\int_{S^3}H\neq0 なので、BB は球面全体で滑らかには定義できない。もし定義できれば、境界のない S3S^3 にStokesの定理を使って ∫S3H=∫S3dB=0\int_{S^3}H=\int_{S^3}dB=0 となり、矛盾する。

そこで、世界面 Σ\Sigma を境界にもつ三次元多様体 MM と、場の延長 g~:M→SU(2)\widetilde g:M\to SU(2)、g~∣Σ=g\widetilde g|_\Sigma=g を選ぶ。BB が g~(M)\widetilde g(M) を含む領域全体で定義されていれば、境界で g~=g\widetilde g=g であることと、引き戻しが外微分と交換することから

∫Σg∗B=∫∂Mg~ ∗B=∫Md(g~ ∗B)=∫Mg~ ∗H\int_\Sigma g^*B =\int_{\partial M}\widetilde g^{\,*}B =\int_M d(\widetilde g^{\,*}B) =\int_M\widetilde g^{\,*}H

となる。中央の等号は MM 上の通常のStokesの定理、最後は d(g~ ∗B)=g~ ∗(dB)d(\widetilde g^{\,*}B)=\widetilde g^{\,*}(dB) と H=dBH=dB による。この一致をもとに、大域的に存在する HH を使って結合を

SWZ,E[g;M,g~]:=i2πα′∫Mg~ ∗HS_{\mathrm{WZ},E}[g;M,\widetilde g] :=\frac{i}{2\pi\alpha'}\int_M\widetilde g^{\,*}H

と定義する。これがWess–Zumino項である。ここでは閉じた向き付け可能な世界面を扱い、そのような曲面が三次元多様体の境界になるという位相の結果を使う。

さらに、S3S^3 ではループも二次元球面も一点へ縮められるという位相の結果を使う。これを π1(S3)=π2(S3)=0\pi_1(S^3)=\pi_2(S^3)=0 と書く。曲面を頂点・辺・面に分けて写像を縮めると、この二つの消失が、辺と面を縮める際の障害をなくす。そのため、曲面上の写像 gg 全体も定数写像へ連続変形できる。その変形を Σ×[0,1]\Sigma\times[0,1] 上の写像とみなし、定数写像側を三次元領域で塞げば、内部に同じ定数値を与えられる。これが、元の gg を境界に保つ延長になる。

三次元への延長は補助的な選択なので、同じ世界面の場 gg に割り当てる量子振幅は、その選び方によらなければならない。 この条件を調べるため、二つの拡張の作用を引き算する。共通の境界上では場が一致するので、第2の拡張の向きを反転して貼り合わせると、境界が消えた三次元多様体 NN と、二つの場の延長をつないだ写像 g^:N→S3\widehat g:N\to S^3 ができる。積分の差を、この NN 上の一つの積分として扱える。

同じ世界面を境界に持つ二つの三次元延長領域のうち、第二の向きを反転し、共通の境界で貼り合わせて境界のない三次元領域を作る模式図

図は Σ=S2\Sigma=S^2、二つの延長領域が三次元球体 B3B^3 の場合を示し、貼り合わせた領域は N=S3N=S^3 になる。一般の世界面でも同じ操作で境界が消えるが、NN が球面になるとは限らない。必要なのは、NN が閉じた向き付き三次元多様体であり、二つの写像が共通の境界で一致することである。この写像に使う位相の結果を先に述べる。閉じた向き付き三次元多様体から S3S^3 への写像には、標的の一般の点を向き込みで何回覆うかを数える整数が付く。この整数を「次数」nn と呼ぶ。次数は写像の連続変形で変わらず、3形式の引き戻しの積分は、標的全体の積分の nn 倍になるという次数の積分公式を使う。従って、作用の差は

ΔSE=i2πα′∫Ng^ ∗H=in2πα′∫S3H,n∈Z.\Delta S_E =\frac{i}{2\pi\alpha'}\int_N\widehat g^{\,*}H =\frac{i n}{2\pi\alpha'}\int_{S^3}H, \qquad n\in\mathbb Z.

この公式は、向きを保つ枝の +1+1 回分と、反転する枝の −1-1 回分を合わせて数える。単に重なりの個数を数えるのではなく、符号付きの和が作用の差に入る。

丸い三次元球面の体積公式 Vol⁡(SR3)=2π2R3\operatorname{Vol}(S^3_R)=2\pi^2R^3 を用いる。既出の H=(2/R)volSR3H=(2/R)\mathrm{vol}_{S^3_R} と R2=kα′R^2=k\alpha' を合わせると、球面全体のフラックスは

∫S3H=2R 2π2R3=4π2α′k.\int_{S^3}H =\frac2R\,2\pi^2R^3 =4\pi^2\alpha' k.

したがって ΔSE=2πikn\Delta S_E=2\pi i k n であり、Euclid経路積分の重み e−SEe^{-S_E} は拡張を変えると e−2πikne^{-2\pi i k n} 倍される。n=1n=1 の差も作れる。延長領域の内部に小さな三次元球体を取り、その近くの写像を連続変形して一定値にそろえておく。表面を一点に潰した球体 B3/∂B3B^3/\partial B^3 は S3S^3 なので、この球体の内側だけに、標的球面を一回覆う写像を入れられる。外側の写像は変えないため、世界面の gg を保ったまま次数を1だけ変えられる。この場合に重みを変えない条件 e−2πik=1e^{-2\pi i k}=1 は k∈Zk\in\mathbb Z と同値であり、整数 kk なら全ての nn で重みが一致する。よって

14π2α′∫S3H=R2α′=k∈Z.(H-flux)\boxed{ \frac1{4\pi^2\alpha'}\int_{S^3}H =\frac{R^2}{\alpha'}=k\in\mathbb Z. } \tag{H-flux}

これがレベル量子化である。作用には 2πi2\pi i の整数倍の差があっても、その指数は一意になる。また nn は連続変形で変わらず δΔSE=0\delta\Delta S_E=0 なので、局所的な運動方程式だけでは整数条件は得られない。正の運動項を持つSU(2) WZW模型では k>0k>0 を選ぶ。同じ整数がフラックスを数え、曲率との釣り合いを通じて半径を定める。

次に作用を変分できるよう、HH を群値の場で書き表す。単位球面で g−1dg=iσaeag^{-1}dg=i\sigma_a e^a と書くと、eae^a は左不変な正規直交1形式であり、Pauli行列のトレースから tr⁡(g−1dg)3=12 e1∧e2∧e3=12 volSunit3\operatorname{tr}(g^{-1}dg)^3=12\,e^1\wedge e^2\wedge e^3=12\,\mathrm{vol}_{S^3_{\mathrm{unit}}} を得る。一方 H=(2/R)volSR3=2R2volSunit3H=(2/R)\mathrm{vol}_{S^3_R}=2R^2\mathrm{vol}_{S^3_{\mathrm{unit}}} なので、フラックスの引き戻しは

g~ ∗H=kα′6tr⁡ ⁣((g~−1dg~)3)\widetilde g^{\,*}H =\frac{k\alpha'}6 \operatorname{tr}\!\left((\widetilde g^{-1}d\widetilde g)^3\right)

となる。三乗は行列の積と1形式の外積を同時に取る記号である。これをWess–Zumino項に代入すると、全作用は

SE[g;M,g~]=S0,E[g]+ik12π∫Mtr⁡ ⁣((g~−1dg~)3).(6.2)\boxed{ S_E[g;M,\widetilde g] =S_{0,E}[g]+\frac{ik}{12\pi} \int_M\operatorname{tr}\!\left((\widetilde g^{-1}d\widetilde g)^3\right) }. \tag{6.2}

次節ではこの作用の変分から、左右のカレントが独立に保存されることを導く。

π1(S3)=π2(S3)=0\pi_1(S^3)=\pi_2(S^3)=0 が拡張を可能にする理由

世界面を頂点・辺・面に分ける。S3S^3 は道でつながっており、π1(S3)=0\pi_1(S^3)=0 でループを、π2(S3)=0\pi_2(S^3)=0 で二次元球面を縮められるため、世界面からの写像 gg を定数写像へ連続変形できる。その変形を Σ×[0,1]\Sigma\times[0,1] 上の写像とみなし、定数写像側を三次元領域で塞ぐ。内部に同じ定数値を割り当てれば、境界に gg を持つ拡張を得る。ここでは閉じた向き付け可能な曲面が三次元多様体の境界になることを使った。非コンパクトな世界面では無限遠の条件も指定する。

トレースの積分が 24π2n24\pi^2n になる理由

単位球面のMaurer–Cartan形式を iσaeai\sigma_a e^a と書く。σa\sigma_a はPauli行列、eae^a は単位球面の左不変な正規直交1形式である。基本表現のトレース tr⁡(σaσbσc)=2iεabc\operatorname{tr}(\sigma_a\sigma_b\sigma_c)=2i\varepsilon_{abc} より

tr⁡((iσaea)3)=2εabcea∧eb∧ec=12 e1∧e2∧e3.\operatorname{tr}\bigl((i\sigma_a e^a)^3\bigr) =2\varepsilon_{abc}e^a\wedge e^b\wedge e^c =12\,e^1\wedge e^2\wedge e^3.

向きは e1∧e2∧e3e^1\wedge e^2\wedge e^3 が正の単位球面の体積形式となるように選ぶ。半径 RR の球面では体積形式が R3R^3 倍になるので、既出の H=(2/R)volSR3H=(2/R)\mathrm{vol}_{S^3_R} は H=2R2e1∧e2∧e3H=2R^2e^1\wedge e^2\wedge e^3 と書ける。上式の係数 1212 と比べると 2R2/12=R2/6=kα′/62R^2/12=R^2/6=k\alpha'/6 であり、g~\widetilde g による引き戻しが本文の式を与える。

また ∫S3e1∧e2∧e3=2π2\int_{S^3}e^1\wedge e^2\wedge e^3=2\pi^2 なので、次数 nn の写像に対するCartan 3形式の積分は 24π2n24\pi^2n であり、式 からも ΔSE=(ik/12π)24π2n=2πikn\Delta S_E=(ik/12\pi)24\pi^2n=2\pi i k n と確かめられる。生の行列トレースを別の表現で取ると周期も変わるため、レベルを比べるときは不変双線形形式の規格化を揃える。

運動方程式とカイラル対称性

Wess–Zumino項を作用に組み込めた。これが主カイラル模型に残った交換子を消すか、同じ群値場 gg の変分で確かめよう。既出の A=g−1dg{A}=g^{-1}dg と変分パラメータ η=g−1δg\eta=g^{-1}\delta g を、延長した場 g~\widetilde g から同じ方法で作る:

A~:=g~−1dg~,η~:=g~−1δg~,A~∣Σ=A,η~∣Σ=η.\widetilde{A}:=\widetilde g^{-1}d\widetilde g, \qquad \widetilde\eta:=\widetilde g^{-1}\delta\widetilde g, \qquad \widetilde{A}|_\Sigma={A},\quad \widetilde\eta|_\Sigma=\eta.

チルダは三次元領域上の量を表し、境界への引き戻しが世界面上の量になる。この対応のもとで、δA~=dη~+[A~,η~]\delta\widetilde A=d\widetilde\eta+[\widetilde A,\widetilde\eta] を三乗の各因子へ代入する。トレースの巡回性で三項が等しくなり、交換子の項は相殺する。さらにMaurer–Cartan恒等式から d(A~2)=0d(\widetilde A^2)=0 なので、3形式の変分は全微分になる:

δtr⁡(A~3)=3dtr⁡(η~ A~2).\delta\operatorname{tr}(\widetilde{A}^3) =3d\operatorname{tr}(\widetilde\eta\,\widetilde{A}^2).

従ってStokesの定理により、作用の変分は三次元領域の境界 Σ\Sigma だけで決まる。世界面では A=Az dz+Azˉ dzˉ{A}=A_z\,dz+{A_{\bar z}}\,d\bar z なので、外積の反対称性から A2=[Az,Azˉ]dz∧dzˉ{A}^2=[A_z,{A_{\bar z}}]dz\wedge d\bar z となる。作用 の係数と向き dz∧dzˉ=i d2zdz\wedge d\bar z=i\,d^2z を使うと

δSWZ,E=ik4π∫Σtr⁡(ηA2)=−k4π∫Σd2z tr⁡(η[Az,Azˉ]).\delta S_{\mathrm{WZ},E} =\frac{ik}{4\pi}\int_\Sigma\operatorname{tr}(\eta{A}^2) =-\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}(\eta[A_z,{A_{\bar z}}]).

こうして得た交換子の項を、計量項の変分と合わせる。反正則なカレントを得るには、運動方程式を ∂Azˉ=0\partial{A_{\bar z}}=0 の形にする必要がある。Maurer–Cartan恒等式 ∂ˉAz=∂Azˉ+[Az,Azˉ]\bar\partial A_z=\partial{A_{\bar z}}+[A_z,{A_{\bar z}}] を計量項の変分に代入すると、交換子 [Az,Azˉ][A_z,{A_{\bar z}}] が残る。Wess–Zumino項の変分が与える −[Az,Azˉ]-[A_z,{A_{\bar z}}] がこれを打ち消す。冒頭で定めた Az=g−1∂gA_z=g^{-1}\partial g、Azˉ=g−1∂ˉg{A_{\bar z}}=g^{-1}\bar\partial g を用いると、全作用の変分に現れる組合せは

∂Azˉ+∂ˉAz−[Az,Azˉ]=2∂Azˉ.\partial{A_{\bar z}}+\bar\partial A_z-[A_z,{A_{\bar z}}]=2\partial{A_{\bar z}}.

最後の等号はMaurer–Cartan恒等式による。従って運動方程式は

∂(g−1∂ˉg)=0.(6.3)\boxed{\partial(g^{-1}\bar\partial g)=0}. \tag{6.3}

Wess–Zumino項の相対係数が、左右の運動を結び付けていた交換子をちょうど消すため、このカイラルな形になる。

3形式の変分から、交換子の相殺までを追う

三次元内部で A~=g~−1dg~\widetilde{A}=\widetilde g^{-1}d\widetilde g、η~=g~−1δg~\widetilde\eta=\widetilde g^{-1}\delta\widetilde g と置く。主カイラル模型と同じ逆行列の変分を使うと

δA~=dη~+[A~,η~].\delta\widetilde{A}=d\widetilde\eta+[\widetilde{A},\widetilde\eta].

η~\widetilde\eta は0形式である。三つの1形式の積を変分すると、トレースの巡回性によって三項が等しくなる。1形式を残り二つの後ろへ移す符号は (−1)1⋅2=1(-1)^{1\cdot2}=1 で、交換子の項はtraceの中で相殺する。また、Maurer–Cartan恒等式から d(A~2)=0d(\widetilde{A}^2)=0 なので

δtr⁡(A~3)=3tr⁡(dη~ A~2)=3dtr⁡(η~ A~2).\delta\operatorname{tr}(\widetilde{A}^3) =3\operatorname{tr}(d\widetilde\eta\,\widetilde{A}^2) =3d\operatorname{tr}(\widetilde\eta\,\widetilde{A}^2).

積には外積を含む。これが全微分になるため、三次元積分の変分はStokesの定理で世界面上の積分になる。Euclid作用 の係数と、冒頭で固定した向き dz∧dzˉ=i d2zdz\wedge d\bar z=i\,d^2z を使えば

δSWZ,E=ik4π∫Σtr⁡(ηA2)=−k4π∫Σd2z tr⁡(η[Az,Azˉ]).\begin{aligned} \delta S_{\mathrm{WZ},E} &=\frac{ik}{4\pi}\int_\Sigma\operatorname{tr}(\eta{A}^2)\\ &=-\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}(\eta[A_z,{A_{\bar z}}]). \end{aligned}

ここでは A2=[Az,Azˉ]dz∧dzˉ{A}^2=[A_z,{A_{\bar z}}]dz\wedge d\bar z を用いた。計量項の変分を足すと

δSE=k4π∫Σd2z tr⁡ ⁣[η(∂Azˉ+∂ˉAz−[Az,Azˉ])].\delta S_E=\frac{k}{4\pi}\int_\Sigma d^2z\, \operatorname{tr}\!\left[\eta\bigl(\partial{A_{\bar z}}+\bar\partial A_z-[A_z,{A_{\bar z}}]\bigr)\right].

Maurer–Cartan恒等式 ∂Azˉ−∂ˉAz+[Az,Azˉ]=0\partial{A_{\bar z}}-\bar\partial A_z+[A_z,{A_{\bar z}}]=0 から括弧内は 2∂Azˉ2\partial{A_{\bar z}} になる。任意の変分 η\eta に対して作用が停留する条件が式 である。Wess–Zumino項の符号を反転すると括弧内は 2∂ˉAz2\bar\partial A_z となり、左右のカイラルセクターが交換される。

正則カレントと反正則カレント

左右の運動を別々に記録するには、一方に左不変形式、他方に右不変形式を使う。原著のカレントは

J:=−k ∂g g−1=−k gAzg−1,Jˉ:=k g−1∂ˉg=kAzˉ.(6.4)J:=-k\,\partial g\,g^{-1}=-k\,gA_zg^{-1}, \qquad \bar J:=k\,g^{-1}\bar\partial g=k{A_{\bar z}}. \tag{6.4}

である。Jˉ\bar J は左不変成分 Azˉ{A_{\bar z}} の定数倍であり、JJ は AzA_z を gAzg−1=∂g g−1gA_zg^{-1}=\partial g\,g^{-1} により右不変成分へ移してから −k-k を掛けたものである。

反正則側は ∂Jˉ=k∂Azˉ=0\partial\bar J=k\partial A_{\bar z}=0 である。正則側には、同じ恒等式と逆行列の微分から

∂ˉ(gAzg−1)=g(∂ˉAz−[Az,Azˉ])g−1=g(∂Azˉ)g−1=0\bar\partial(gA_zg^{-1}) =g\bigl(\bar\partial A_z-[A_z,A_{\bar z}]\bigr)g^{-1} =g(\partial A_{\bar z})g^{-1}=0

が成り立つ。従って

∂ˉJ=0,∂Jˉ=0\boxed{\bar\partial J=0,\qquad\partial\bar J=0}

が従う。JJ は zz、Jˉ\bar J は zˉ\bar z だけに依存する。

計算:右不変カレントの正則性を確かめる

Jˉ=kAzˉ\bar J=k{A_{\bar z}} なので、式 から

∂Jˉ=0\boxed{ \partial\bar J=0 }

が直ちに従う。したがって Jˉ\bar J は zˉ\bar z のみに依存する反正則場である。

JJ には ∂g g−1\partial g\,g^{-1} が現れるので、Az=g−1∂gA_z=g^{-1}\partial g の微分が零だと仮定することはできない。まず Azˉ=g−1∂ˉg{A_{\bar z}}=g^{-1}\bar\partial g から ∂ˉg=gAzˉ\bar\partial g=g{A_{\bar z}}、逆行列の微分から ∂ˉg−1=−Azˉg−1\bar\partial g^{-1}=-{A_{\bar z}} g^{-1} を得る。右不変形式と左不変形式の関係

∂g g−1=gAzg−1\partial g\,g^{-1}=gA_zg^{-1}

を使う。両辺を ∂ˉ\bar\partial で微分すると

∂ˉ(gAzg−1)=(∂ˉg)Azg−1+g(∂ˉAz)g−1+gAz(∂ˉg−1)=gAzˉAzg−1+g(∂ˉAz)g−1−gAzAzˉg−1=g(∂ˉAz−[Az,Azˉ])g−1.\begin{aligned} \bar\partial(gA_zg^{-1}) &=(\bar\partial g)A_zg^{-1} +g(\bar\partial A_z)g^{-1} +gA_z(\bar\partial g^{-1})\\ &=g{A_{\bar z}}A_zg^{-1} +g(\bar\partial A_z)g^{-1} -gA_z{A_{\bar z}}g^{-1}\\ &=g\bigl( \bar\partial A_z-[A_z,{A_{\bar z}}] \bigr)g^{-1}. \end{aligned}

から

∂ˉAz−[Az,Azˉ]=∂Azˉ\bar\partial A_z-[A_z,{A_{\bar z}}]=\partial{A_{\bar z}}

なので

∂ˉ(gAzg−1)=g(∂Azˉ)g−1=0.\bar\partial(gA_zg^{-1}) =g(\partial{A_{\bar z}})g^{-1} =0.

したがって

∂ˉJ=0\boxed{ \bar\partial J=0 }

であり、JJ は zz のみに依存する正則場である。

各カレントはLie代数値なので

J(z)=Ja(z)ta,Jˉ(zˉ)=Jˉa(zˉ)ta.J(z)=J^a(z)t_a, \qquad \bar J(\bar z)=\bar J^a(\bar z)t_a.

保存則が正則性の形になっているため、JJ に正則な重みを掛けた輪郭積分は、その積の特異点をまたがない変形では変わらない。例えば、原点を囲む輪郭で ∮dz znJa(z)\oint dz\,z^nJ^a(z) を各整数 nn について作れる。n<0n<0 では重みも原点に極を持つので、原点も演算子挿入も横切らずに輪郭を変形する。こうして三成分の一つ一つから無限個の輪郭積分を取り出せる。反正則側でも同じことができる。これらの量が場にどう作用し、互いにどんな交換関係を満たすかを次節で調べる。

左右の保存則は得られた。では、量子化後も三成分を独立した自由ボソンのように扱えるだろうか。次節ではカレントのOPEを入力とし、その積にSU(2)の非可換な構造がどう現れるかを確かめる。

球面の計量だけでは残った交換子が、Wess–Zumino項の変分によって消えた。その結果、曲がった球面上でも ∂ˉJ=0\bar\partial J=0 と ∂Jˉ=0\partial\bar J=0 を得て、左右それぞれの保存量を輪郭積分で取り出せる。フラックスの係数 kk は、拡張を変えても量子振幅が一致する条件で整数になった。この整数を持つ保存カレントは得られたが、その対称性に従う量子状態の種類はまだ決めていない。次に量子OPEを入力として、その選択を調べる。

6.1.2 アフィン su^(2)\widehat{\mathfrak{su}}(2) の表現論

保存カレントを量子演算子として扱い、その対称性のもとで可能な状態と場の結合を求める。カレント代数からエネルギーと許容表現を定め、characterで状態を数え、fusionとfusing行列で結合を記述する。

current代数とエネルギー

量子論では、カレントの輪郭積分が挿入した場に及ぼす変換をcurrent Ward恒等式で定める。ここでは、輪郭内の場との積の留数がその場の変化を与えるという対応を採用する(原著 第3章・式 (3.44)、§6.1.2)。これが、輪郭積分を対称変換の生成子として扱う根拠になる。左右に同じレベル kk の独立なカレント代数があることも、WZW量子化の結果として採用する(原著 §6.1.2)。以下では正則側の成分 Ja(z)J^a(z) を用い、その交換関係と状態のエネルギーの変化を調べる。原点のまわりで

Ja(z)=∑n∈ZJnaz−n−1\boxed{ J^a(z)=\sum_{n\in\mathbb Z}J_n^a z^{-n-1} }

とLaurent展開する。指数を −n−1-n-1 とするのは、Ja(z) dzJ^a(z)\,dz が座標変換で1形式として振る舞うカレントの規約である。この共形ウェイト1の性質と整合するエネルギー運動量テンソルを後のSugawara構成で求める。逆に各モードは

Jna=12πi∮0dz znJa(z)\boxed{ J_n^a =\frac{1}{2\pi i}\oint_0 dz\,z^nJ^a(z) }

で取り出される。

円筒座標 w=τ+iσw=\tau+i\sigma と平面座標 z=ewz=e^w を対応させると、1形式の変換 Jcyl(w)=zJ(z)J_{\mathrm{cyl}}(w)=zJ(z) により Jcyl=∑nJne−nwJ_{\mathrm{cyl}}=\sum_nJ_ne^{-nw} となる。したがって nn は空間円周 σ\sigma 方向のFourierモード番号であり、零モードは円周に沿って一定な変換を生成する。正負のモードが状態のエネルギーをどう変えるかは、エネルギー運動量テンソルを得た後で決まる。

カレントOPEと中心項

量子化したWZWカレントの局所積は、特異部分だけを書くと

Ja(z)Jb(w)∼k δab(z−w)2+ifabcJc(w)z−w\boxed{ J^a(z)J^b(w) \sim \frac{k\,\delta^{ab}}{(z-w)^2} +\frac{i f^{ab}{}_{c}J^c(w)}{z-w} }

である。このOPEと、「作用の係数 kk が二重極の係数にもなる」という対応は、整数レベルのWZW作用を量子化したWard恒等式の結果として使う(原著 §6.1.2・式 、WittenのWZW量子化)。ここで導くのは、この局所積からモード代数と表現の制限が生じる過程である。fabcf^{ab}{}_{c} は

[ta,tb]=ifabctc[t_a,t_b]=if^{ab}{}_{c}t_c

で定めた su(2)\mathfrak{su}(2) の構造定数である。記号 ∼\sim は、z→wz\to w で特異になる項だけを残したことを表す。

前節と同じ基本表現トレースに対し、生成子を ta=σa/2t_a=\sigma_a/\sqrt2 と取れば tr⁡(tatb)=δab\operatorname{tr}(t_at_b)=\delta_{ab}、fabc=2εabcf^{abc}=\sqrt2\varepsilon^{abc} となる。σa\sigma_a はPauli行列、ε123=1\varepsilon^{123}=1 は完全反対称記号である。この直交基底での二重極を kδabk\delta^{ab} と書いているので、ここに現れる kk は作用の整数レベルと同じである。

モードの交換子は、二つの動径積の順序を入れ替えた輪郭の差である。その差は z=wz=w を囲む小円へ縮められる。二重極では Res⁡z=wzn/(z−w)2=nwn−1\operatorname{Res}_{z=w}z^n/(z-w)^2=nw^{n-1}、一重極では Res⁡z=wzn/(z−w)=wn\operatorname{Res}_{z=w}z^n/(z-w)=w^n なので、残る ww 積分からそれぞれ knδabδn+m,0kn\delta^{ab}\delta_{n+m,0} と ifabcJn+mcif^{ab}{}_{c}J_{n+m}^c が出る。

カレントOPEからモードの交換関係 (6.5) を導く

動径量子化では、積 JnaJmbJ_n^aJ_m^b は zz の輪郭を ww の輪郭より外側に取り、逆順の積は内側に取る。この外側と内側の輪郭の差を変形すると、z=wz=w だけを正向きに囲む小円になる。原点に関する寄与は二つの輪郭で相殺する。したがってモードの交換子は

[Jna,Jmb]=1(2πi)2∮0dw wm∮wdz znJa(z)Jb(w)[J_n^a,J_m^b] = \frac{1}{(2\pi i)^2} \oint_0dw\,w^m \oint_wdz\,z^n J^a(z)J^b(w)

から読める。まず二重極の寄与を段階ごとに追う。

([Jna,Jmb])double pole\displaystyle \left([J_n^a,J_m^b]\right)_{\mathrm{double\ pole}}=
kδab(2πi)2∮0dw wm∮wdz zn(z−w)2\displaystyle \frac{k\delta^{ab}}{(2\pi i)^2}\oint_0dw\,w^m\oint_wdz\,\frac{z^n}{(z-w)^2}
=
knδab2πi∮0dw wn+m−1\displaystyle \frac{kn\delta^{ab}}{2\pi i}\oint_0dw\,w^{n+m-1}
=
knδabδn+m,0\displaystyle kn\delta^{ab}\delta_{n+m,0}

一重極については

Res⁡z=wznz−w=wn\operatorname*{Res}_{z=w} \frac{z^n}{z-w} =w^n

だから

ifabc2πi∮0dw wn+mJc(w)=ifabcJn+mc.\begin{aligned} \frac{if^{ab}{}_{c}}{2\pi i} \oint_0dw\,w^{n+m}J^c(w) &= if^{ab}{}_{c}J_{n+m}^c. \end{aligned}

ここで nn が負でも、小円の中心 ww は原点ではないため、znz^n はその小円内で正則である。したがって二重極の留数公式は全整数 nn に使える。OPEの正則項は小円積分で零となり、上の二種類の寄与だけが残る。

二つを合わせると

[Jna,Jmb]=ifabcJn+mc+knδabδn+m,0(6.5)\boxed{ [J_n^a,J_m^b] =if^{ab}{}_{c}J_{n+m}^c +kn\delta^{ab}\delta_{n+m,0} } \tag{6.5}

を得る。これがレベル kk のアフィンLie代数

su^(2)k\widehat{\mathfrak{su}}(2)_k

である。

n=m=0n=m=0 では中心項が消え、

[J0a,J0b]=ifabcJ0c[J_0^a,J_0^b]=if^{ab}{}_{c}J_0^c

となる。したがって通常の su(2)\mathfrak{su}(2) は、無限個あるモードの零モード部分として埋め込まれている。一方、n+m=0n+m=0 かつ n≠0n\neq0 では knkn が残る。この数はすべての生成子と可換なので「中心項」と呼ばれる。

Wess–Zumino項を含む量子振幅 e−SEe^{-S_E} が延長の選び方によらないことから、その係数 kk は整数に量子化される。量子論では同じ kk がカレント二点関数、すなわち の二重極の強さになる。

Sugawara構成とエネルギー

どの状態がどれだけのエネルギーを持つかを知るには、共形変換を生成するエネルギー運動量テンソル T(z)T(z) が必要になる。古典的な運動項は gg の微分の二次式であり、カレントもその微分から作られる。そこで、量子論でもカレントの二次式から TT を作ることを試す。SU(2)の方向を特別扱いしないよう添字を縮約する。積のコロンは、二つのモードの番号を比べ、大きい方を右へ置くnormal orderingを表す。零モードもこの規約に含める。この順序で作る ∑a:JaJa:\sum_a:J^aJ^a: が候補になる。

これがSugawara構成である。T(z)=∑nLnz−n−2T(z)=\sum_nL_nz^{-n-2} のモードを作るため、係数を決める前の二次式を

Qn:=12∑a,m:JmaJn−ma:Q_n:=\frac12\sum_{a,m}:J_m^aJ_{n-m}^a:

と置く。モードの番号が nn に合計する二つのカレントを、この順序で掛けて足す。

候補を作るだけでは、その係数は決まらない。LnL_n がカレントの座標変換を正しく生成することを要求して決める。SU(2)SU(2) では QnQ_n を k+2k+2 で割る必要があり、22 の部分は同じ点の量子カレントを並べ替える際の交換子から生じる。

Sugawara二次式とnormal orderingの定義

まず

Qn:=12∑a=13∑m∈Z:JmaJn−ma:Q_n := \frac12 \sum_{a=1}^{3} \sum_{m\in\mathbb Z} :J_m^aJ_{n-m}^a:

と置く。コロンはnormal orderingを表し、二個のモードのうち添字が大きいものを右へ置く。特に正のモード、すなわち消滅演算子は生成演算子より右に来る。こうしないと、無限個の真空寄与が同じ場所に積み重なってしまう。

以下のモード和は、有限個の負モードを基底状態へ作用させた有限grade状態上で評価する。gradeとは、作用させた J−naJ_{-n}^a の正整数 nn の総和である。後で [L0,J−na]=nJ−na[L_0,J_{-n}^a]=nJ_{-n}^a を得るので、これは基底状態からの L0L_0 固有値の増分に等しい。この領域では十分大きな正モードが状態を消すため、各和は実際には有限項しか寄与しない。したがって無限和の添字移動は、共通のカットオフを入れて有限和として操作し、最後にカットオフを外すことと同値である。

Sugawara構成の量子補正

この補正は、normal orderingしたモード和の添字をずらすと、相殺されない有限個の項が残ることから生じる。

モード和の端に残る項から k+2k+2 を導く

一般論へ進む前に、SU(2)SU(2) で量子補正の 22 が生じる場所を直接見る。式 の直交基底を J1,J2,J3J^1,J^2,J^3 とし、su(2)\mathfrak{su}(2) の構造定数を

fabc=2 εabcf^{abc}=\sqrt2\,\varepsilon^{abc}

と規格化する。εabc\varepsilon^{abc} は完全反対称で ε123=1\varepsilon^{123}=1 とする。Cartan–Weyl基底を

Jn0:=Jn32,Jn±:=Jn1±iJn22\boxed{ J_n^0:=\frac{J_n^3}{\sqrt2}, \qquad J_n^\pm:=\frac{J_n^1\pm iJ_n^2}{\sqrt2} }

と定めると

[Jn0,Jm0]=k2nδn+m,0,[Jn0,Jm±]=±Jn+m±,[Jn+,Jm−]=2Jn+m0+knδn+m,0(affine-su2)\begin{aligned} [J_n^0,J_m^0] &=\frac{k}{2}n\delta_{n+m,0},\\ [J_n^0,J_m^\pm] &=\pm J_{n+m}^\pm,\\ [J_n^+,J_m^-] &=2J_{n+m}^0+kn\delta_{n+m,0} \end{aligned} \tag{affine-su2}

となる。例えば最初の式の k/2k/2 は、J0=J3/2J^0=J^3/\sqrt2 によって中心項が半分になるためである。同じ基底変換により、不変な二次式は

12∑a=13:JaJa:=:J0J0:+12:J+J−:+12:J−J+:\frac12\sum_{a=1}^3:J^aJ^a: = :J^0J^0: +\frac12:J^+J^-: +\frac12:J^-J^+:

となる。

Q0Q_0 をnormal orderingして正モードを右へ置くと

Q0=(J00)2+12(J0+J0−+J0−J0+)+∑m=1∞(2J−m0Jm0+J−m+Jm−+J−m−Jm+).\begin{aligned} Q_0 = &(J_0^0)^2 +\frac12(J_0^+J_0^-+J_0^-J_0^+)\\ &+\sum_{m=1}^{\infty} \left( 2J_{-m}^0J_m^0 +J_{-m}^+J_m^- +J_{-m}^-J_m^+ \right). \end{aligned}

量子補正の由来を、最初の正モード J10J_1^0 との交換子で確かめる。J0J^0 だけを含む部分を Q0(0)=(J00)2+2∑m>0J−m0Jm0Q_0^{(0)}=(J_0^0)^2+2\sum_{m>0}J_{-m}^0J_m^0 と書くと、m=1m=1 の中心項だけが寄与するので

[Q0(0),J10]=2[J−10,J10]J10=−kJ10.[Q_0^{(0)},J_1^0]=2[J_{-1}^0,J_1^0]J_1^0=-kJ_1^0.

残りを Q0(±)=Q0−Q0(0)Q_0^{(\pm)}=Q_0-Q_0^{(0)} と書く。その正負モードの積には、 から

[J−m+Jm−,J10]=−J1−m+Jm−+J−m+Jm+1−,[J−m−Jm+,J10]=+J1−m−Jm+−J−m−Jm+1+\begin{aligned} [J_{-m}^+J_m^-,J_1^0]&=-J_{1-m}^+J_m^-+J_{-m}^+J_{m+1}^-,\\ [J_{-m}^-J_m^+,J_1^0]&=+J_{1-m}^-J_m^+-J_{-m}^-J_{m+1}^+ \end{aligned}

が成り立つ。第一式の第一項で m≥2m\ge2 に p=m−1p=m-1 と置くと、第二項の和と同じ積が逆符号で現れる。第二式も同様に相殺し、それぞれ m=1m=1 の端だけが残る:

∑m>0[J−m+Jm−,J10]=−J0+J1−,∑m>0[J−m−Jm+,J10]=+J0−J1+.\begin{aligned} \sum_{m>0}[J_{-m}^+J_m^-,J_1^0]&=-J_0^+J_1^-,\\ \sum_{m>0}[J_{-m}^-J_m^+,J_1^0]&=+J_0^-J_1^+. \end{aligned}

和は先に定めた有限grade状態上で評価している。一方、零モード部分の交換子は

12[J0+J0−+J0−J0+,J10]=12(−J1+J0−+J0+J1−+J1−J0+−J0−J1+).\begin{aligned} \frac12[J_0^+J_0^-+J_0^-J_0^+,J_1^0] =\frac12\bigl(-J_1^+J_0^-+J_0^+J_1^-+J_1^-J_0^+-J_0^-J_1^+\bigr). \end{aligned}

これに端の二項を足すと、積が交換子にまとまる:

[Q0(±),J10]=12[J0−,J1+]+12[J1−,J0+]=12(−2J10)+12(−2J10)=−2J10.\begin{aligned} [Q_0^{(\pm)},J_1^0] &=\tfrac12[J_0^-,J_1^+]+\tfrac12[J_1^-,J_0^+]\\ &=\tfrac12(-2J_1^0)+\tfrac12(-2J_1^0)=-2J_1^0. \end{aligned}

最後の交換子には中心項がなく、SU(2)SU(2) の非可換性が寄与している。先ほどの中心項と合わせれば

[Q0,J10]=−(k+2)J10.\boxed{[Q_0,J_1^0]=-(k+2)J_1^0}.

カレントの共形ウェイト1に対応する条件は [L0,J10]=−J10[L_0,J_1^0]=-J_1^0 なので、Q0Q_0 を k+2k+2 で割る規格化が必要になる。この 22 は、和の添字を一つずらしたときに端に残る交換子から生じた。

補足では n=0,r=1n=0,r=1 の交換子を直接計算できる。一般のモードについては、標準的なSugawara計算の結果

[Qn,Jra]=−(k+2)rJn+ra(Sugawara-key)\boxed{ [Q_n,J_r^a] =-(k+2)rJ_{n+r}^a } \tag{Sugawara-key}

を第3章の式 (3.7) から採用する。係数の kk はcurrent交換子の中心項、22 は SU(2)SU(2) の非可換交換子から来る。

一般の単純Lie代数 g\mathfrak g では、この 22 の代わりに双対Coxeter数 h∨h^\vee が現れる:

[Qn,Jra]=−(k+h∨)rJn+ra.[Q_n,J_r^a] =-(k+h^\vee)rJ_{n+r}^a.

h∨h^\vee は随伴表現の二次Casimirから決まるLie代数固有の数であり、SU(2)SU(2) では h∨=2h^\vee=2 である。可換な U(1)U(1) では構造定数が零なので、この寄与も h∨=0h^\vee=0 である。

カレントの共形ウェイト1という条件は

[Ln,Jra]=−rJn+ra(weight-one)[L_n,J_r^a]=-rJ_{n+r}^a \tag{weight-one}

である。

共形ウェイト1のOPEをモード交換子へ移す

共形ウェイト1であるとは、エネルギー運動量テンソルとのOPEが

T(z)Ja(w)∼Ja(w)(z−w)2+∂Ja(w)z−wT(z)J^a(w) \sim \frac{J^a(w)}{(z-w)^2} +\frac{\partial J^a(w)}{z-w}

となることである。これをモードへ移すと

[Ln,Jra]=−rJn+ra[L_n,J_r^a]=-rJ_{n+r}^a

と変換しなければならない。 Ln=(2πi)−1∮dz zn+1T(z)L_n=(2\pi i)^{-1}\oint dz\,z^{n+1}T(z) を用いると、内側の小円積分は

(n+1)wnJa(w)+wn+1∂Ja(w)(n+1)w^nJ^a(w)+w^{n+1}\partial J^a(w)

となる。外側で wrw^r を掛けて積分する。閉曲線上で全微分の積分は零なので

12πi∮dw wn+r+1∂Ja(w)=−(n+r+1)12πi∮dw wn+rJa(w)=−(n+r+1)Jn+ra.\begin{aligned} \frac1{2\pi i}\oint dw\,w^{n+r+1}\partial J^a(w) &=-(n+r+1)\frac1{2\pi i}\oint dw\,w^{n+r}J^a(w)\\ &=-(n+r+1)J_{n+r}^a. \end{aligned}

二重極からの (n+1)Jn+ra(n+1)J_{n+r}^a と足すと、係数は (n+1)−(n+r+1)=−r(n+1)-(n+r+1)=-r となる。

と比較すると、正しい規格化は

Ln=Qnk+h∨=12(k+h∨)∑a,m:JmaJn−ma:(6.6)\boxed{ L_n =\frac{Q_n}{k+h^\vee} = \frac{1}{2(k+h^\vee)} \sum_{a,m}:J_m^aJ_{n-m}^a: } \tag{6.6}

に一意に決まる。SU(2)SU(2) では

Ln=12(k+2)∑a,m:JmaJn−ma:.\boxed{ L_n = \frac{1}{2(k+2)} \sum_{a,m}:J_m^aJ_{n-m}^a: }.

ここで用いるSugawara定理は、単純Lie代数の正整数レベルのカレント代数に対し、式 が

[Ln,Lm]=(n−m)Ln+m+c12(n3−n)δn+m,0[L_n,L_m]=(n-m)L_{n+m}+\frac{c}{12}(n^3-n)\delta_{n+m,0}

というVirasoro代数を満たすことを保証する(原著式 (3.7)、)。この閉性が、カレント代数から共形対称性を得るための外部入力である。その中心電荷は

c=k dim⁡gk+h∨\boxed{ c=\frac{k\,\dim\mathfrak g}{k+h^\vee} }

となる。SU(2)SU(2) では dim⁡su(2)=3\dim\mathfrak{su}(2)=3 なので

c=3kk+2.\boxed{ c=\frac{3k}{k+2} }.
真空の二次励起から中心電荷を計算する

標準的なSugawara定理は、LnL_n がVirasoro代数を満たすことを保証する。その中心電荷の値は真空 ∣0⟩|0\rangle だけで求められる。Jma∣0⟩=0J_m^a|0\rangle=0(m≥0m\geq0)および L0∣0⟩=0L_0|0\rangle=0 を使うと

L−2∣0⟩=12(k+h∨)∑aJ−1aJ−1a∣0⟩.L_{-2}|0\rangle=\frac1{2(k+h^\vee)}\sum_a J_{-1}^aJ_{-1}^a|0\rangle.

[L2,J−1a]=J1a[L_2,J_{-1}^a]=J_1^a により

L2L−2∣0⟩=12(k+h∨)∑a(J1aJ−1a+J−1aJ1a)∣0⟩=12(k+h∨)∑a[J1a,J−1a]∣0⟩=kdim⁡g2(k+h∨)∣0⟩.\begin{aligned} L_2L_{-2}|0\rangle &=\frac1{2(k+h^\vee)}\sum_a \left(J_1^aJ_{-1}^a+J_{-1}^aJ_1^a\right)|0\rangle\\ &=\frac1{2(k+h^\vee)}\sum_a[J_1^a,J_{-1}^a]|0\rangle\\ &=\frac{k\dim\mathfrak g}{2(k+h^\vee)}|0\rangle. \end{aligned}

同じ添字の交換子では構造定数の項が零なので、最後には各 aa について kk だけが残る。一方、Virasoro代数では [L2,L−2]=4L0+c/2[L_2,L_{-2}]=4L_0+c/2 である。真空上で両者を比較すると c=kdim⁡g/(k+h∨)c=k\dim\mathfrak g/(k+h^\vee) を得る。この計算は中心電荷の値を確認するもので、Virasoro代数への閉性そのものにはSugawara定理を使っている。

k→∞k\to\infty では c→3c\to3 となり、標的空間 S3S^3 の三つの局所座標に対応する自由ボソンの値へ近づく。有限の kk では c<3c<3 であり、曲がった群多様体上の理論は三個の自由ボソンと同じではない。

基底状態の共形ウェイト

得られた L0L_0 を基底状態に作用させ、共形ウェイトを求める。スピンを扱いやすいよう、fabc=2εabcf^{abc}=\sqrt2\varepsilon^{abc} の直交基底から

Jn0=Jn32,Jn±=Jn1±iJn22(Cartan-Weyl-basis)J_n^0=\frac{J_n^3}{\sqrt2},\qquad J_n^\pm=\frac{J_n^1\pm iJ_n^2}{\sqrt2} \tag{Cartan-Weyl-basis}

へ移る。零モードは [J00,J0±]=±J0±[J_0^0,J_0^\pm]=\pm J_0^\pm、[J0+,J0−]=2J00[J_0^+,J_0^-]=2J_0^0 を満たす。正エネルギー表現とは、L0L_0 の固有値が下から有界な表現である。ここでは最小固有値が存在し、その固有空間に有限次元のSU(2)既約多重項を一つ選び、そこから負モードで状態を生成するクラスを構成する(原著 §6.1.2)。エネルギーを下げる正モードはこの最下層を消し、エネルギーを変えない零モードは最下層の中でSU(2)として作用する。選んだ多重項のスピンを jj とし、その基底状態を

∣j;ℓ⟩,j∈12Z≥0,ℓ=−j,−j+1,…,j|j;\ell\rangle, \qquad j\in\frac12\mathbb Z_{\geq0}, \qquad \ell=-j,-j+1,\ldots,j

として選ぶ。定義は

Jna∣j;ℓ⟩=0(n>0),J00∣j;ℓ⟩=ℓ∣j;ℓ⟩,J0+∣j;j⟩=0\begin{aligned} J_n^a|j;\ell\rangle&=0 && (n>0),\\ J_0^0|j;\ell\rangle&=\ell|j;\ell\rangle,\\ J_0^+|j;j\rangle&=0 \end{aligned}

である。

式 の L0L_0 でnormal orderingした正モードは右端で基底状態を消す。従って残るのは零モードのCasimirだけであり、

L0∣ground=1k+2[(J00)2+12(J0+J0−+J0−J0+)]=j(j+1)k+21L_0\big|_{\mathrm{ground}} =\frac1{k+2}\left[(J_0^0)^2+\frac12(J_0^+J_0^-+J_0^-J_0^+)\right] =\frac{j(j+1)}{k+2}\mathbf1

となる。角括弧は通常のスピン jj 表現の二次Casimirである。

基底状態のウェイトが j(j+1)/(k+2)j(j+1)/(k+2) になる理由

L0=Q0/(k+2)L_0=Q_0/(k+2) である。「の量子補正」の補足で展開した Q0Q_0 のうち、正モードを含む項が基底状態上で消えることを使う。

右側にある正モード JnaJ_n^a はすべて基底状態を消すため、無限和は寄与しない。残る零モード部分は通常の SU(2)SU(2) Casimir演算子

C2:=(J00)2+12(J0+J0−+J0−J0+)C_2 := (J_0^0)^2 +\frac12(J_0^+J_0^-+J_0^-J_0^+)

であり、スピン jj 表現上で

C2∣j;ℓ⟩=j(j+1)∣j;ℓ⟩C_2|j;\ell\rangle =j(j+1)|j;\ell\rangle

と作用する。 固有値 j(j+1)j(j+1) も最高ウェイト状態上で確認できる。[J0+,J0−]=2J00[J_0^+,J_0^-]=2J_0^0 と J0+∣j;j⟩=0J_0^+|j;j\rangle=0 より

C2∣j;j⟩=((J00)2+12[J0+,J0−]+J0−J0+)∣j;j⟩=(j2+j)∣j;j⟩.\begin{aligned} C_2|j;j\rangle &=\left((J_0^0)^2+\frac12[J_0^+,J_0^-]+J_0^-J_0^+\right)|j;j\rangle\\ &=(j^2+j)|j;j\rangle. \end{aligned}

C2C_2 は全零モードと可換なので、J0−J_0^- を作用させて得る全ての ∣j;ℓ⟩|j;\ell\rangle に同じ固有値が引き継がれる。

したがって

L0∣j;ℓ⟩=hj∣j;ℓ⟩,hj=j(j+1)k+2(6.7)\boxed{ L_0|j;\ell\rangle =h_j|j;\ell\rangle, \qquad h_j=\frac{j(j+1)}{k+2} } \tag{6.7}

を得る。

また で n=0n=0 と置けば

[L0,Jra]=−rJra.[L_0,J_r^a]=-rJ_r^a.

よって

[L0,J−na]=nJ−na(n>0)[L_0,J_{-n}^a]=nJ_{-n}^a \qquad(n>0)

である。J−naJ_{-n}^a はエネルギーを nn だけ上げるため、負のモードが生成演算子、正のモードが消滅演算子だというモード展開の説明が確認できた。

可積分表現

負のカレントモードはエネルギーを上げる。そこで、通常のSU(2)表現と同じようにスピン jj の基底状態を選び、全ての負モードで励起を作ることを試す。この候補の状態空間を Vj\mathcal V_j と書く。零モードのSU(2)の関係とカレントの交換関係は満たすが、どの jj でも物理的な状態空間になるとはまだ分からない。

確率解釈を保つには、基底状態だけでなく、そこから作った全ての励起のノルムが非負でなければならない。この条件と候補 Vj\mathcal V_j を照合すれば、出発点に選べるスピンを制限できる。

最初に調べる励起として J−1+∣j;j⟩J_{-1}^+|j;j\rangle を選ぶ。[L0,J−1+]=J−1+[L_0,J_{-1}^+]=J_{-1}^+ と [J00,J−1+]=J−1+[J_0^0,J_{-1}^+]=J_{-1}^+ により、エネルギーと磁気量子数をともに1だけ増やす状態である。ユニタリーな表現では (Jn+)†=J−n−(J_n^+)^\dagger=J_{-n}^- なので、そのノルムは

∥J−1+∣j;j⟩∥2=⟨j;j∣J1−J−1+∣j;j⟩=⟨j;j∣[J1−,J−1+]∣j;j⟩=(k−2j)∥∣j;j⟩∥2.\begin{aligned} \|J_{-1}^+|j;j\rangle\|^2 &=\langle j;j|J_1^-J_{-1}^+|j;j\rangle\\ &=\langle j;j|[J_1^-,J_{-1}^+]|j;j\rangle\\ &=(k-2j)\||j;j\rangle\|^2. \end{aligned}

二行目では J1−∣j;j⟩=0J_1^-|j;j\rangle=0、三行目では [J1−,J−1+]=k−2J00[J_1^-,J_{-1}^+]=k-2J_0^0 を使った。基底状態のノルムを正に取ると、j>k/2j>k/2 ではこの一状態が負ノルムになる。通常のSU(2)では許されるスピンでも、その上にカレントの励起を作るとノルム条件を破る。この候補は物理的な表現から排除しなければならない。

残る j≤k/2j\leq k/2 で同じ励起を繰り返すと、どこで新しい関係が生じるか。繰り返す演算子を

E:=J−1+,F:=J1−,E†=FE:=J_{-1}^+, \qquad F:=J_1^-, \qquad E^\dagger=F

と置く。交換子 [E,F]=2J00−k[E,F]=2J_0^0-k に現れる零モードのずれを

Haff:=J00−k2H_{\mathrm{aff}}:=J_0^0-\frac{k}{2}

と書けば、三つの演算子だけで交換関係が閉じる。

E,F,HaffE,F,H_{\mathrm{aff}} が角運動量と同じ交換関係を満たす理由

から

[Haff,E]=[J00,J−1+]=J−1+=E,[Haff,F]=[J00,J1−]=−J1−=−F,[E,F]=[J−1+,J1−]=2J00−k=2Haff.\begin{aligned} [H_{\mathrm{aff}},E] &=[J_0^0,J_{-1}^+] =J_{-1}^+ =E,\\ [H_{\mathrm{aff}},F] &=[J_0^0,J_1^-] =-J_1^- =-F,\\ [E,F] &=[J_{-1}^+,J_1^-]\\ &=2J_0^0-k\\ &=2H_{\mathrm{aff}}. \end{aligned}

したがって E,F,HaffE,F,H_{\mathrm{aff}} は [Haff,E]=E[H_{\mathrm{aff}},E]=E、[Haff,F]=−F[H_{\mathrm{aff}},F]=-F、[E,F]=2Haff[E,F]=2H_{\mathrm{aff}} を満たす。これは通常の角運動量の上昇・下降演算子と同じ形の代数であり、複素化して sl2\mathfrak{sl}_2 と呼ぶ。中心項 −k-k が Haff=J00−k/2H_{\mathrm{aff}}=J_0^0-k/2 というずれを生むため、この組のノルム条件にはレベルが現れる。

状態空間 Vj\mathcal V_j とVerma加群の関係

Vj\mathcal V_j は有限次元の零モード表現から誘導した一般化Verma加群である。零モードの下降演算子には既に (J0−)2j+1∣j;j⟩=0(J_0^-)^{2j+1}|j;j\rangle=0 を課している。したがって通常のアフィンVerma加群で独立に扱う零モードの零ノルム状態はここでは除かれており、以下ではさらに負モードを含む関係を調べる。

J−1+J_{-1}^+ を繰り返した状態のノルム

有限次元スピン jj 表現の最高ウェイト状態 ∣j;j⟩|j;j\rangle から始める。F=J1−F=J_1^- は正モードなので

F∣j;j⟩=0.F|j;j\rangle=0.

また

Haff∣j;j⟩=(j−k2)∣j;j⟩.H_{\mathrm{aff}}|j;j\rangle =\left(j-\frac{k}{2}\right)|j;j\rangle.

ここで

N:=k−2jN:=k-2j

と置けば

Haff∣j;j⟩=−N2∣j;j⟩.H_{\mathrm{aff}}|j;j\rangle=-\frac{N}{2}|j;j\rangle.

ユニタリー表現では

(Jn+)†=J−n−(J_n^+)^\dagger=J_{-n}^-

なので

E†=F.E^\dagger=F.

rr 回励起した状態を

∣r⟩:=Er∣j;j⟩|r\rangle:=E^r|j;j\rangle

とする。随伴関係 E†=FE^\dagger=F と三生成子の交換子から、ノルムは

∥∣r⟩∥2=r(N−r+1)∥∣r−1⟩∥2(norm-recursion)\boxed{\lVert|r\rangle\rVert^2=r(N-r+1)\lVert|r-1\rangle\rVert^2} \tag{norm-recursion}

を満たす。この係数の符号が、スピンの上限と零ノルム状態の位置を同時に決める。

交換子を rr 回展開し、ノルム漸化式を導く

そのノルムを求めるため、まず FEr∣j;j⟩F E^r|j;j\rangle を計算する。[F,E]=−2Haff[F,E]=-2H_{\mathrm{aff}} より

[F,Er]=∑s=0r−1Es[F,E]Er−1−s=−2∑s=0r−1EsHaffEr−1−s.\begin{aligned} [F,E^r] &=\sum_{s=0}^{r-1}E^s[F,E]E^{r-1-s}\\ &=-2\sum_{s=0}^{r-1}E^sH_{\mathrm{aff}}E^{r-1-s}. \end{aligned}

[Haff,E]=E[H_{\mathrm{aff}},E]=E から

HaffEq=Eq(Haff+q)H_{\mathrm{aff}}E^q=E^q(H_{\mathrm{aff}}+q)

なので、Haff∣j;j⟩=−N2∣j;j⟩H_{\mathrm{aff}}|j;j\rangle=-\tfrac N2|j;j\rangle を使うと

EsHaffEr−1−s∣j;j⟩=Er−1(Haff+r−1−s)∣j;j⟩=(−N2+r−1−s)Er−1∣j;j⟩.\begin{aligned} E^sH_{\mathrm{aff}}E^{r-1-s}|j;j\rangle &= E^{r-1} \left(H_{\mathrm{aff}}+r-1-s\right)|j;j\rangle\\ &= \left( -\frac{N}{2}+r-1-s \right) E^{r-1}|j;j\rangle. \end{aligned}

s=0,…,r−1s=0,\ldots,r-1 について足すと

[F,Er]∣j;j⟩=−2[−rN2+∑s=0r−1(r−1−s)]Er−1∣j;j⟩=−2[−rN2+r(r−1)2]Er−1∣j;j⟩=r(N−r+1)Er−1∣j;j⟩.\begin{aligned} [F,E^r]|j;j\rangle &= -2\left[ -\frac{rN}{2} +\sum_{s=0}^{r-1}(r-1-s) \right]E^{r-1}|j;j\rangle\\ &= -2\left[ -\frac{rN}{2} +\frac{r(r-1)}{2} \right]E^{r-1}|j;j\rangle\\ &= r(N-r+1)E^{r-1}|j;j\rangle. \end{aligned}

F∣j;j⟩=0F|j;j\rangle=0 だから、左辺では [F,Er]∣j;j⟩=FEr∣j;j⟩[F,E^r]|j;j\rangle=FE^r|j;j\rangle である。したがって

F∣r⟩=r(N−r+1)∣r−1⟩.\boxed{ F|r\rangle =r(N-r+1)|r-1\rangle }.

これを用いると

∥∣r⟩∥2\displaystyle \lVert|r\rangle\rVert^2=
⟨j;j∣FrEr∣j;j⟩\displaystyle \langle j;j|F^rE^r|j;j\rangle
=
r(N−r+1)⟨j;j∣Fr−1Er−1∣j;j⟩\displaystyle r(N-r+1) \langle j;j|F^{r-1}E^{r-1}|j;j\rangle
=
r(N−r+1)∥∣r−1⟩∥2\displaystyle r(N-r+1) \lVert|r-1\rangle\rVert^2

すなわち

∥∣r⟩∥2=r(N−r+1)∥∣r−1⟩∥2.\boxed{ \lVert|r\rangle\rVert^2 =r(N-r+1)\lVert|r-1\rangle\rVert^2 }.

漸化式を繰り返せば

∥∣r⟩∥2=r!∏q=0r−1(N−q)∥∣j;j⟩∥2.\lVert|r\rangle\rVert^2 =r!\prod_{q=0}^{r-1}(N-q)\lVert|j;j\rangle\rVert^2.

r=0r=0 の空積は1とする。NN が非負整数なら r≤Nr\leq N では r!N!/(N−r)!r!N!/(N-r)!、r≥N+1r\geq N+1 では零となる。この一本の鎖についての計算だけで、任意の負モードを混ぜた状態の正定値性まで結論してはいない。

スピンの上限と零ノルム状態

一励起のノルムから得た必要条件を満たす場合、すなわち

0≤j≤k20\leq j\leq\frac{k}{2}

を考える。延長を変えても量子振幅が一致する条件から k∈Zk\in\mathbb Z であり、さらにユニタリーな正エネルギーWZW模型では k>0k>0 を選ぶ。また通常の SU(2)SU(2) 表現では 2j∈Z≥02j\in\mathbb Z_{\geq0} である。したがって N=k−2jN=k-2j は非負整数である。1≤r≤N1\leq r\leq N では

r(N−r+1)>0,r(N-r+1)>0,

だが、r=N+1r=N+1 で

(N+1)(N−(N+1)+1)=0(N+1)\bigl(N-(N+1)+1\bigr)=0

となる。よって

ψsingj=EN+1∣j;j⟩=(J−1+)k+1−2j∣j;j⟩\boxed{ \psi_{\mathrm{sing}}^j =E^{N+1}|j;j\rangle = \left(J_{-1}^+\right)^{k+1-2j}|j;j\rangle }

は零ノルム状態である。

この零ノルム状態は、新しい最高ウェイト状態でもある。まず零モード J0+J_0^+ と正モード Jn+J_n^+(n>0n>0)は E=J−1+E=J_{-1}^+ と可換であり、元の最高ウェイト基底状態 ∣j;j⟩|j;j\rangle を消す。Jn0J_n^0(n>0n>0)を EE のべきへ通すと Jn−1+J_{n-1}^+ が出るので、これも基底状態を消す。Jn−J_n^-(n≥2n\geq2)の場合は Jn−10J_{n-1}^0 と Jn−2+J_{n-2}^+ だけが残り、同様に零になる。残る J1−=FJ_1^-=F は、既出の漸化式の係数 (N+1)(N−(N+1)+1)=0(N+1)(N-(N+1)+1)=0 により消す。従って、全正モードと零モード上昇演算子に消される。

零ノルム状態が全ての最高ウェイト条件を満たすことを確かめる

実際、F∣r⟩=r(N−r+1)∣r−1⟩F|r\rangle=r(N-r+1)|r-1\rangle から

Fψsingj=0F\psi_{\mathrm{sing}}^j=0

である。さらに J0+J_0^+ は J−1+J_{-1}^+ と可換であり、J0+∣j;j⟩=0J_0^+|j;j\rangle=0 なので

J0+ψsingj=0.J_0^+\psi_{\mathrm{sing}}^j=0.

残りの正モードについても確認する。まず [Jn+,E]=0[J_n^+,E]=0 だから Jn+EN+1∣j;j⟩=EN+1Jn+∣j;j⟩=0J_n^+E^{N+1}|j;j\rangle=E^{N+1}J_n^+|j;j\rangle=0(n>0n>0)。次に

[Jn0,E]=Jn−1+,[Jn0,EN+1]=(N+1)ENJn−1+.[J_n^0,E]=J_{n-1}^+, \qquad [J_n^0,E^{N+1}]=(N+1)E^{N}J_{n-1}^+.

n=1n=1 なら右端の J0+J_0^+ が最高ウェイト状態を消し、n≥2n\geq2 なら正モードが消す。最後に Jn−J_n^- を考える。n=1n=1 はすでに Fψsingj=0F\psi_{\mathrm{sing}}^j=0 で確認した。n≥2n\geq2 では中心項がなく

[Jn−,E]=−2Jn−10,[Jn−10,E]=Jn−2+.[J_n^-,E]=-2J_{n-1}^0, \qquad [J_{n-1}^0,E]=J_{n-2}^+.

したがって

[Jn−,EN+1]=−2∑s=0NEsJn−10EN−s=−2(N+1)ENJn−10−(N+1)NEN−1Jn−2+.\begin{aligned} [J_n^-,E^{N+1}] &=-2\sum_{s=0}^{N}E^sJ_{n-1}^0E^{N-s}\\ &=-2(N+1)E^{N}J_{n-1}^0-(N+1)NE^{N-1}J_{n-2}^+. \end{aligned}

N=0N=0 では第二項を零と解する。第一項の右端は正モードであり、第二項の右端は n=2n=2 なら J0+J_0^+、n>2n>2 なら正モードなので、いずれも ∣j;j⟩|j;j\rangle を消す。

したがって

Jnaψsingj=0(n>0),J_n^a\psi_{\mathrm{sing}}^j=0 \qquad(n>0),

であり、ψsingj\psi_{\mathrm{sing}}^j は新しいアフィン最高ウェイト状態になっている。

スピンを j≤k/2j\leq k/2 に絞っても、候補 Vj\mathcal V_j にはこの零ノルム状態が残る。正定値の状態空間にするには、それを零と同一視する必要がある。さらに、零とした状態にカレントを作用させた結果も零でなければ、代表元の選び方で演算子の作用が変わってしまう。そのため ψsingj\psi_{\mathrm{sing}}^j だけでなく、そこから全てのカレントで作る状態の線形空間 Nj\mathcal N_j をまとめて除く。これが不変部分加群である。

具体的には、ψsingj\psi_{\mathrm{sing}}^j へ J0−J_0^- と全負モードを繰り返し作用させた状態の線形結合全体を Nj\mathcal N_j とする。負モードはエネルギーを上げ、J0−J_0^- は同じエネルギーの別のスピン成分を作る。こうして、その零ノルム状態から作る励起を一緒に除く。

正整数 kk と半整数 0≤j≤k/20\leq j\leq k/2 に対する可積分最高ウェイト表現の分類定理は、この Nj\mathcal N_j が全状態と内積ゼロになる部分を尽くし、それを除いた空間が既約で正定値の内積を持つことを保証する(原著 §6.1.2, p.239)。これは一本の励起鎖の計算を、全負モードを含む状態空間へ拡張するための外部入力である。この定理を使って、物理的な既約表現を

Hj:=Vj/Nj\boxed{ \mathcal H_j := \mathcal V_j/\mathcal N_j }

として定義する。商とは、Nj\mathcal N_j のベクトルだけ異なる二つの状態を、同じ物理状態とみなす操作である。

零ノルム状態を除いた内積が一意に定まる条件

自己ノルムが零でも、他の状態との内積が零とは限らない。不定値内積空間では特にこの区別が必要である。代表元 vv を v+nv+n(n∈Njn\in\mathcal N_j)に変えても ⟨v,w⟩\langle v,w\rangle が変わらないためには、全ての ww に対して ⟨n,w⟩=0\langle n,w\rangle=0 が必要になる。

ここで用いる分類定理は、Nj\mathcal N_j が全状態に直交する部分を尽くすことを保証する。そのため、Nj\mathcal N_j の成分を加えても内積は変わらず、商で一意に定まる。さらに、正整数 kk と 0≤j≤k/20\leq j\leq k/2 のもとで、商は既約で内積は正定値になる。

ここまでの直接計算が示したのは、j≤k/2j\leq k/2 がユニタリティの必要条件であること、E=J−1+E=J_{-1}^+ の鎖で最初にノルムが零になる位置、およびその状態がアフィン最高ウェイト条件を満たすことである。この誘導加群で除くべき最大真部分加群がこれで生成されること、この商が既約かつユニタリーになること、ユニタリーな正エネルギー最高ウェイト表現のラベルがこれで尽くされることには、上の分類定理を用いた。その結果、許されるラベルは

j=0,12,1,…,k2\boxed{ j=0,\frac12,1,\ldots,\frac{k}{2} }

に限られ、その個数は k+1k+1 個である。

k=2k=2 の可積分表現と零ノルム状態

k=2k=2 の場合、許されるスピンと E=J−1+E=J_{-1}^+ の鎖で最初に現れる零ノルム状態は

jN=k−2jψsingj02(J−1+)3∣0;0⟩121(J−1+)2∣12;12⟩10J−1+∣1;1⟩\begin{array}{c|c|c} j & N=k-2j & \psi_{\mathrm{sing}}^j\\ \hline 0 & 2 & (J_{-1}^+)^3|0;0\rangle\\ \frac12 & 1 & (J_{-1}^+)^2|\frac12;\frac12\rangle\\ 1 & 0 & J_{-1}^+|1;1\rangle \end{array}

となる。次の候補 j=32j=\frac32 では

N=2−3=−1N=2-3=-1

なので、最初の励起だけで

∥J−1+∣32;32⟩∥2=−∥∣32;32⟩∥2<0.\left\lVert J_{-1}^+\left|\frac32;\frac32\right\rangle \right\rVert^2 = -\left\lVert \left|\frac32;\frac32\right\rangle \right\rVert^2 <0.

これが j=32j=\frac32 を排除する直接の理由である。

三つの許容基底状態の共形ウェイトは

h0=0,h12=316,h1=12,h_0=0, \qquad h_{\frac12}=\frac{3}{16}, \qquad h_1=\frac12,

中心電荷は

c=3⋅22+2=32c=\frac{3\cdot2}{2+2}=\frac32

である。

これで、与えられた正整数レベル kk に対して、出発点に選べるスピンと、零として除くべき励起を指定できる。k=2k=2 なら三つのラベル 0,12,10,\frac12,1 が残り、次の 32\frac32 が落ちる理由も、一励起の負ノルムとして確かめられた。

一本の励起鎖から直接分かったのは上限の必要性と零ノルム状態の位置であり、全ての負モードを含めた商の正定値性と既約性には、先ほどの分類定理を使った。また、制限されたのは各表現の出発点のラベル jj である。各表現には無限個の励起があり、j≤k/2j\leq k/2 は全励起のエネルギーやスピンに上限を課す条件ではない。この無限個の状態がどのエネルギーに何個あるかは、次にcharacterで数える。

作用で R2=kα′R^2=k\alpha' を決めた同じ整数 kk が、量子論では中心項と表現ラベルの上限にも現れた。この対応は幾何と状態の分類を結ぶ。半径・level・表現上限はどこでつながるか

半径と表現の上限を、なぜ同じ整数が決めるのか?

WZW作用では、計量項とフラックスの結合を同じ係数でそろえると左右のカレントが保存される。この共通係数が、作用の量子化とカレント代数を通じて表現の上限にも現れる。

計量項を通常の弦の作用と比較すると R2=kα′R^2=k\alpha' となり、Wess–Zumino項の位相を拡張の選び方に依らせない条件から kk は整数になる。同じ作用を量子化したカレントのOPEでは、この整数が二重極の係数になる。この最後の対応にはWZW量子化のWard恒等式を用いる。

カレント代数の中心項は、励起状態のノルムにも寄与する。スピン jj の最高成分に J−1+J_{-1}^+ を一回作用させると、そのノルムは元の k−2jk-2j 倍になる。これが負にならない条件が j≤k/2j\leq k/2 である。幾何を大きくする整数が、許される基底表現の種類も増やすのは、この連なりによる。

R2=kα′,∥J−1+∣j;j⟩∥2=(k−2j)∥∣j;j⟩∥2.R^2=k\alpha',\qquad \|J_{-1}^+|j;j\rangle\|^2=(k-2j)\||j;j\rangle\|^2.

参照:6.1 · 式 – とノルム漸化式

characterとmodular変換

レベル k=2k=2 では、基底状態のスピンが j=0,12,1j=0,\frac12,1 の三つの表現を得た。それぞれの中には無限個の励起状態がある。次に、各表現にどんなエネルギーの状態が何個あるかを調べる。

その状態数を一つの関数にまとめたものが character である。

レベル k∈Z>0k\in\mathbb Z_{>0} を固定する。正則側の既約可積分表現を Hj\mathcal H_j と書く。許されるラベルと、基底状態の共形ウェイト、中心電荷は

j=0,12,1,…,k2,hj=j(j+1)k+2,c=3kk+2j=0,\frac12,1,\ldots,\frac{k}{2}, \qquad h_j=\frac{j(j+1)}{k+2}, \qquad c=\frac{3k}{k+2}

である。Hj\mathcal H_j の状態は、スピン jj の基底状態へ負のカレントモードを作用させて作り、singular vectorが生成する零ノルム部分加群を商として除いたものである。

トーラスを

C/(Z+τZ),Im⁡τ>0\mathbb C/(\mathbb Z+\tau\mathbb Z), \qquad \operatorname{Im}\tau>0

と書き、

q:=e2πiτq:=e^{2\pi i\tau}

と定める。specialised characterは

χj(τ):=Tr⁡HjqL0−c/24\boxed{ \chi_j(\tau) := \operatorname{Tr}_{\mathcal H_j} q^{L_0-c/24} }

である。L0L_0 固有値が hj+Nh_j+N の状態数を dj(N)d_j(N) と書けば

χj(τ)=qhj−c/24∑N≥0dj(N)qN.\chi_j(\tau) =q^{h_j-c/24} \sum_{N\geq0}d_j(N)q^N.

つまり qq の指数はエネルギー、係数はその縮退度を記録する。NN は基底状態から加えたエネルギーであり、負モード J−naJ_{-n}^a の正整数 nn を足したgradeである。−c/24-c/24 は、平面から円筒へ写したときに現れる真空Casimirエネルギーである。

長方形トーラスで τ=it\tau=it(t>0t>0)なら q=e−2πtq=e^{-2\pi t} なので、重みは e−2πt(L0−c/24)e^{-2\pi t(L_0-c/24)} となる。これは円周を 2π2\pi に取った円筒上のEuclid時間発展をトレースしたものであり、characterがトーラスの分配関数を作る材料になる理由である。ここでは正則側の一表現だけを数えている。左右を組み合わせた理論全体の分配関数は6.2節で作る。grade 00 には通常のスピン jj 多重項があるので

dj(0)=2j+1.d_j(0)=2j+1.

k=2k=2、j=1j=1 の表現で第一励起まで数えてみよう。grade 11 の候補は、三つの基底状態 ∣1;m⟩|1;m\rangle(m=−1,0,1m=-1,0,1)に三成分の J−1aJ_{-1}^a を作用させた 3×3=93\times3=9 個である。零モードの SU(2)SU(2) で整理すると、これらは 1⊗1=0⊕1⊕21\otimes1=0\oplus1\oplus2 に分かれる。

前節で得た零ノルム状態 J−1+∣1;1⟩J_{-1}^+|1;1\rangle は、磁気量子数が 22 の最高成分である。J0−J_0^- はエネルギーを変えずに磁気量子数を下げるので、この状態からスピン 22 の五成分が生じる。それらも零ノルム部分加群に属し、まとめて除かれる。

grade 11 の状態状態数
カレントから作る候補:スピン 0,1,20,1,21+3+5=91+3+5=9
除かれる零ノルムのスピン 2255
残るスピン 0,10,11+3=41+3=4

ここでは h1=1/2h_1=1/2、c/24=1/16c/24=1/16 なので、 χ1(τ)=q7/16(3+4q+⋯ )\chi_1(\tau)=q^{7/16}(3+4q+\cdots) となる。characterの係数は、零ノルム状態を除いた後の独立な励起を数えている。

k=2k=2 の三つのcharacter:先頭の指数と係数を確かめる

例えば k=2k=2 では c=32c=\frac32 だから

χ0(τ)=q−1/16(1+⋯ ),χ12(τ)=q1/8(2+⋯ ),χ1(τ)=q7/16(3+⋯ ).\begin{aligned} \chi_0(\tau)&=q^{-1/16}(1+\cdots),\\ \chi_{\frac12}(\tau)&=q^{1/8}(2+\cdots),\\ \chi_1(\tau)&=q^{7/16}(3+\cdots). \end{aligned}

三つのcharacterは、それぞれ j=0,12,1j=0,\frac12,1 の表現の状態数を表す。

k+2=4k+2=4 と c/24=1/16c/24=1/16 を代入すると

h0=0,h1/2=(1/2)(3/2)4=316,h1=1⋅24=12.h_0=0,\qquad h_{1/2}=\frac{(1/2)(3/2)}4=\frac3{16},\qquad h_1=\frac{1\cdot2}4=\frac12.

各指数は順に 0−1/16=−1/160-1/16=-1/16、3/16−1/16=1/83/16-1/16=1/8、1/2−1/16=7/161/2-1/16=7/16 となる。先頭の係数は 2j+1=1,2,32j+1=1,2,3 であり、指数と係数は別々の情報を記録している。

電荷付きcharacter

同じエネルギーでも、回転軸方向のスピンが異なる状態がある。通常のcharacterはそれらをまとめて数えるが、回転に対する応答を調べるには電荷も記録しておくとよい。6.2節では、開弦の二つの端点で、左右のcurrentの反射の仕方を違える場合を考える。その違いは開弦のエネルギーにどう現れるだろうか。

characterに電荷の情報も含めるには?

L0L_0 とCartan零モード J03J_0^3 は同時対角化できる。ここでは直交規格化したカレント J3=2J0J^3=\sqrt2J^0 を用い、スピン基底 ∣j;m⟩|j;m\rangle 上で J03J_0^3 の固有値は 2m\sqrt2m である。そこでエネルギーだけでなく J03J_0^3 電荷も記録するunspecialised characterを

χj(z,τ,u):=e−2πikuTr⁡Hj(qL0−c/24e−2πizJ03)\boxed{ \chi_j(z,\tau,u) := e^{-2\pi iku} \operatorname{Tr}_{\mathcal H_j} \left( q^{L_0-c/24}e^{-2\pi izJ_0^3} \right) }

と定める。zz は J03J_0^3 電荷を数えるための変数であり、前節の場の位置座標とは役割が異なる。uu は独立な物理的電荷を表すのではなく、レベル kk の中心項を含むmodular変換を簡潔に書くための補助変数である。

z=u=0z=u=0 にすると通常のcharacterへ戻る。例えばスピン 11 の基底状態三成分は、通常なら係数 33 にまとめられるが、電荷を残すと

e2πi2z+1+e−2πi2ze^{2\pi i\sqrt2z}+1+e^{-2\pi i\sqrt2z}

として区別される。回転軸の両向きと電荷ゼロの成分が、異なる重みを持つことが見える。

補助変数 uu は全状態に共通の因子を記録する。後で扱うmodular変換では、電荷変数に応じてこの共通因子も変化する。その変換則を、原著の式 – に与えられたcharacterの結果として用いる。

参照用データ:零ノルム状態を除いて数えるcharacterの閉形式 (6.8), (6.10)

characterの閉形式には、負モードで作る候補から零ノルム部分加群を除く効果が含まれる。以下はWeyl–Kac character公式をSU(2)へ適用した表現論データとして採用する(原著 p.239, 式 , )。この無限和の機械的評価を、状態を構成した計算そのものとは区別する。

まず、電荷付きの式に使うtheta関数を定める。正整数 KK に対し、整数ラベル ℓ\ell の関数を

Θℓ(K)(z,τ,u):=e−2πiKu∑r∈Z+ℓ/(2K)qKr2e−2πi2Krz,q=e2πiτ\Theta_\ell^{(K)}(z,\tau,u) :=e^{-2\pi iKu}\sum_{r\in\mathbb Z+\ell/(2K)} q^{Kr^2}e^{-2\pi i\sqrt2Krz}, \qquad q=e^{2\pi i\tau}

とする。rr は整数格子を ℓ/(2K)\ell/(2K) だけ移した和の変数である。電荷を数える zz は、このノートの J03=2J00J_0^3=\sqrt2J_0^0 に結合する。従って原著Appendix Aで J00J_0^0 の磁気量子数に結合するtheta変数を、ここでは 2z\sqrt2z に置き換えた。補助変数 uu は全状態に共通するレベルの因子を記録する。

この規約で式 は

χj(z,τ,u)=e−2πikuTr⁡Hj(qL0−c/24e−2πizJ03)=Θ2j+1(k+2)−Θ−2j−1(k+2)Θ1(2)−Θ−1(2)(z,τ,u).(6.8)\chi_j(z,\tau,u) =e^{-2\pi iku}\operatorname{Tr}_{\mathcal H_j} \left(q^{L_0-c/24}e^{-2\pi izJ_0^3}\right) =\frac{\Theta_{2j+1}^{(k+2)}-\Theta_{-2j-1}^{(k+2)}} {\Theta_1^{(2)}-\Theta_{-1}^{(2)}}(z,\tau,u). \tag{6.8}

比の先頭の電荷依存性は sin⁡[π2(2j+1)z]/sin⁡(π2z)=∑m=−jje−2πi2mz\sin[\pi\sqrt2(2j+1)z]/\sin(\pi\sqrt2z)=\sum_{m=-j}^j e^{-2\pi i\sqrt2 mz} であり、零モードのスピン多重項と一致する。高次の qq 係数には励起と零ノルム状態の除去が含まれる。

電荷を記録しない式は、補助変数 u=0u=0 にし、z→0z\to0 の極限を取って得る。このとき分子・分母はともに零になるが、一階の微分の比は有限である。Dedekind関数を

η(q)=q1/24∏n=1∞(1−qn)\eta(q)=q^{1/24}\prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n)

とし、和に現れる整数を Nj(m):=2(k+2)m+2j+1N_j(m):=2(k+2)m+2j+1 と書くと、原著の式 は

χj(τ)=1η(q)3∑m∈ZNj(m)qNj(m)2/[4(k+2)](6.10)\boxed{\chi_j(\tau)=\frac1{\eta(q)^3} \sum_{m\in\mathbb Z}N_j(m)q^{N_j(m)^2/[4(k+2)]}} \tag{6.10}

である。Nj(m)N_j(m) は各項の係数と指数を決める整数であり、本文の励起gradeとは別の量である。m=0m=0 の項と η(q)−3\eta(q)^{-3} の先頭を合わせた指数は

(2j+1)24(k+2)−18=j(j+1)k+2−3k24(k+2)=hj−c24,\frac{(2j+1)^2}{4(k+2)}-\frac18 =\frac{j(j+1)}{k+2}-\frac{3k}{24(k+2)} =h_j-\frac c{24},

係数は 2j+12j+1 になる。したがって、本文で基底状態を数えて得た先頭項を再現する。無限和には符号の異なる項もあるが、候補から零ノルム状態を引いた結果のcharacter係数 dj(N)d_j(N) は非負整数である。

トーラスの周期交換とmodular SS

character χi(τ)\chi_i(\tau) は、一つの可積分表現の状態をEuclid時間発展の重みで数えていた。同じトーラスを別の方向に切って時間を定めたとき、この数え方はどう変わるだろうか。トーラスには、複素平面上の移動

w∼w+1,w∼w+τw\sim w+1, \qquad w\sim w+\tau

で定まる二つの基本周期がある。どちらを空間方向、どちらをEuclid時間方向として切るかは一意ではない。modular変換

S:τ⟼−1τS:\quad \tau\longmapsto-\frac1\tau

は、向きを保ちながら二周期の役割を交換する。例えば τ=it\tau=it なら −1/τ=i/t-1/\tau=i/t であり、長い時間方向と短い空間方向が入れ替わる。

交換前の χi(τ)\chi_i(\tau) と交換後の χi(−1/τ)\chi_i(-1/\tau) は、同じトーラスのカイラルな振幅を、異なる周期を時間に選んで表す。ここでは、原著 §6.1.3 の SU(2)kSU(2)_k characterの変換結果を使う。交換後の振幅は、交換前と同じ k+1k+1 個の可積分表現のcharacterの線形結合になる。この有限個での閉性はこの模型の表現論の性質であり、theta関数の変換則から確かめられる。全てのCFTで同じ有限和が使えるわけではない。

エネルギーだけを数えるspecialised characterについて

χi ⁣(−1τ)=∑jSijχj(τ)\boxed{ \chi_i\!\left(-\frac1\tau\right) = \sum_jS_{ij}\chi_j(\tau) }

となる。

電荷付きcharacterのmodular変換

「電荷付きcharacter」で定義した電荷変数 zz と補助変数 uu も含めると、変換則は

χi ⁣(zτ,−1τ,u+z22τ)=∑jSijχj(z,τ,u).\chi_i\!\left(\frac z\tau,-\frac1\tau,u+\frac{z^2}{2\tau}\right) =\sum_jS_{ij}\chi_j(z,\tau,u).

uu の移動は、電荷を含むtheta関数の変換で生じる z2/τz^2/\tau に比例した共通位相を吸収する。u=z=0u=z=0 とすればこの位相はなくなり、本文のspecialised characterの変換則が残る。

theta関数のPoisson再和公式から得られる SU(2)kSU(2)_k の行列は

Sij=2k+2sin⁡ ⁣[π(2i+1)(2j+1)k+2]i,j=0,12,…,k2.(6.9)\boxed{ S_{ij} = \sqrt{\frac{2}{k+2}} \sin\!\left[ \frac{\pi(2i+1)(2j+1)}{k+2} \right] } \qquad i,j=0,\frac12,\ldots,\frac k2. \tag{6.9}

この公式は特殊関数の変換公式として採用する。

行列要素 SijS_{ij} が、交換後の表現 ii のcharacterに、交換前の表現 jj のcharacterがどれだけ混ざるかを記録する。

SS 行列と離散正弦変換

半整数ラベルの代わりに

a:=2i+1,b:=2j+1a:=2i+1, \qquad b:=2j+1

を使う。i,j=0,12,…,k2i,j=0,\frac12,\ldots,\frac k2 なので、a,ba,b は飛び飛びではなく

1,2,…,k+11,2,\ldots,k+1

をすべて動く。すると、元の添字との対応を残して書けば

Sa−12,b−12=2k+2sin⁡πabk+2S_{\frac{a-1}{2},\frac{b-1}{2}} = \sqrt{\frac{2}{k+2}} \sin\frac{\pi ab}{k+2}

は、両端 a=0,k+2a=0,k+2 で零になる離散正弦波を並べた行列である。

これらの波の内積は

∑b=1k+1sin⁡πabk+2sin⁡πa′bk+2=k+22δaa′\sum_{b=1}^{k+1}\sin\frac{\pi ab}{k+2}\sin\frac{\pi a'b}{k+2} =\frac{k+2}{2}\delta_{aa'}

である。正弦の積を二つの余弦の差に直し、それぞれを有限等比級数で足すとこの値になる。従って異なる波は直交し、係数 2/(k+2)\sqrt{2/(k+2)} で各波の長さを1にそろえると

STS=1.S^{\mathsf T}S=\mathbf1.
有限和から正弦波の直交性と規格化を確かめる

L:=k+2L:=k+2 と置く。列の内積を計算するには、1≤a,a′≤L−11\leq a,a'\leq L-1 に対して

Taa′:=∑b=1L−1sin⁡πabLsin⁡πa′bLT_{aa'}:=\sum_{b=1}^{L-1}\sin\frac{\pi ab}{L}\sin\frac{\pi a'b}{L}

を求めればよい。積を和にする公式から

2Taa′=Ca−a′−Ca+a′,Cm:=∑b=1L−1cos⁡πmbL.2T_{aa'}=C_{a-a'}-C_{a+a'},\qquad C_m:=\sum_{b=1}^{L-1}\cos\frac{\pi mb}{L}.

まず C0=L−1C_0=L-1 である。m≠0m\neq0 かつ ∣m∣<2L|m|<2L の場合を、偶奇で分ける。

mm が奇数なら、bb と L−bL-b の項は

cos⁡πm(L−b)L=cos⁡(πm−πmbL)=−cos⁡πmbL\cos\frac{\pi m(L-b)}L =\cos\left(\pi m-\frac{\pi mb}L\right) =-\cos\frac{\pi mb}L

となり打ち消す。LL が偶数のときに残りうる中央の項も cos⁡(πm/2)=0\cos(\pi m/2)=0 なので、Cm=0C_m=0 となる。

mm が零でない偶数なら、r:=eiπm/Lr:=e^{i\pi m/L} は rL=1r^L=1、r≠1r\neq1 を満たす。有限等比級数を使うと

∑b=0L−1rb=1−rL1−r=0.\sum_{b=0}^{L-1}r^b=\frac{1-r^L}{1-r}=0.

b=0b=0 の項を除き実部を取ることで Cm=−1C_m=-1 を得る。負の mm についても余弦が偶関数なので同じである。

a≠a′a\neq a' なら、a−a′a-a' と a+a′a+a' は同じ偶奇を持ち、いずれもこの範囲の零でない整数になる。したがって二つの CC は等しく、Taa′=0T_{aa'}=0。a=a′a=a' なら a−a′=0a-a'=0、a+a′=2aa+a'=2a なので

2Taa=(L−1)−(−1)=L.2T_{aa}=(L-1)-(-1)=L.

両方をまとめると

∑b=1k+1sin⁡πabk+2sin⁡πa′bk+2=k+22δaa′.\sum_{b=1}^{k+1} \sin\frac{\pi ab}{k+2}\sin\frac{\pi a'b}{k+2} =\frac{k+2}{2}\delta_{aa'}.

SS の二つの成分にはそれぞれ 2/(k+2)\sqrt{2/(k+2)} が掛かるため、内積には 2/(k+2)2/(k+2) が掛かり、右辺が δaa′\delta_{aa'} になる。これはまず SST=1SS^{\mathsf T}=\mathbf1 を与え、正方行列の逆行列の一意性から STS=1S^{\mathsf T}S=\mathbf1 も従う。

SS は実対称行列でもあるため、直交性から

S−1=ST=S,S2=1S^{-1}=S^{\mathsf T}=S, \qquad S^2=\mathbf1

となる。

共役表現とは、群の変換行列を複素共役した変換則である。SU(2)の有限次元既約表現は次元 2j+12j+1 ごとに一種類なので、複素共役しても同じスピン jj になる。アフィン表現も、その零モード多重項を出発点に同じカレントで生成されるので、共役sectorのラベルは j+=jj^+=j である。この自己共役性は、一般のmodular関係 S2=CS^2=C の共役行列 CC がここでは単位行列であることに対応する。

個々のcharacterが周期交換で不変になるわけではない。変換されるのは k+1k+1 個のcharacterを一組にした振幅であり、SijS_{ij} は状態の縮退度ではなく、その混合係数である。縮退度は各characterの qq 展開の係数が数えている。

この二つの数え方を結ぶと、直接には多数の励起を足す問題を、低いエネルギーの状態から調べられる。空間の円周を固定して τ=it\tau=it の tt を小さくすると、高いエネルギーの状態も重みに寄与するが、交換後の i/ti/t ではEuclid時間が長く、真空が支配する。変換則に τ=i/t\tau=i/t を入れれば χi(it)=∑jSijχj(i/t)\chi_i(it)=\sum_jS_{ij}\chi_j(i/t) なので、高温側の振る舞いを低温側の真空データから読み取れる。

低温の真空から高温のcharacterを求める

上の変換則に τ=i/t\tau=i/t を入れると

χi(it)=∑jSijχj(i/t).\chi_i(it)=\sum_j S_{ij}\chi_j(i/t).

右辺の展開変数は q′=e−2π/tq'=e^{-2\pi/t} である。t→0+t\to0^+ で q′→0q'\to0 となり、j>0j>0 の基底状態には hj>0h_j>0、descendantにはさらに正のgradeがあるため、それらの寄与は真空に比べて指数的に小さくなる。真空の h0=0h_0=0 と d0(0)=1d_0(0)=1 を使うと

χ0(i/t)∼eπc/(12t),χi(it)∼Si0 eπc/(12t).\chi_0(i/t)\sim e^{\pi c/(12t)}, \qquad \chi_i(it)\sim S_{i0}\,e^{\pi c/(12t)}.

固定した kk に対し Si0>0S_{i0}>0 なので、すべてのcharacterが同じ主な指数増大を示し、表現ごとの違いは先頭係数 Si0S_{i0} に現れる。ここで高温・低温とは、空間の円周を固定した世界面のトレースの温度を指す。

k=2k=2 でラベルを 0,12,10,\frac12,1 の順に並べると

S=(121212120−1212−1212)\boxed{ S= \begin{pmatrix} \frac12&\frac1{\sqrt2}&\frac12\\ \frac1{\sqrt2}&0&-\frac1{\sqrt2}\\ \frac12&-\frac1{\sqrt2}&\frac12 \end{pmatrix} }

である。例えば中央の行を使えば、

χ12 ⁣(−1τ)=χ0(τ)−χ1(τ)2\chi_{\frac12}\!\left(-\frac1\tau\right) =\frac{\chi_0(\tau)-\chi_1(\tau)}{\sqrt2}

と、交換後の一つのcharacterを交換前の二つから再構成できる。負号があるのは、右辺が状態の部分集合の足し合わせではなく、切り方を変えるための振幅の線形結合だからである。もう一度交換すれば S2=1S^2=\mathbf1 により元のcharacterへ戻る。これで周期交換の前後を行き来できる。

この行列の各列は、三点の有限区間に許された三つの定在波でもある。周期交換による状態の数え直しは分かったが、二つの場を近づけたときに現れる表現はまだ求めていない。その局所的な結合を調べると、同じ正弦波がfusion行列の固有モードとして現れる。

周期交換を二度行うと元へ戻ることと、表現の自己共役性

一般の有理CFTでは、modular変換の関係 S2=CS^2=C に現れる CC は、各表現を共役表現へ送る行列である。ここで得た S2=1S^2=\mathbf1 は、SU(2)kSU(2)_k のすべてのsectorが自己共役であることと対応する。共役の意味を確認しておこう。この性質は、6.2節で左右の表現を組み合わせる際にも使う。

表現の共役とは、各群要素 gg に対応する変換行列 Dj(g)D_j(g) の成分を複素共役し、Dj(g)∗D_j(g)^* という変換則を作ることである。この共役表現のラベルを j+j^+ と書く。上付きの ++ は「共役を取った表現」を表す印である。

SU(2)SU(2) の有限次元既約表現はスピン jj で分類され、次元は 2j+12j+1 である。同じ次元の既約表現は、基底の選び方を除けば一種類しかない。複素共役しても既約性と次元は保たれるので、共役表現も同じスピンになる:

2j++1=dim⁡Vj‾=dim⁡Vj=2j+1⟹j+=j.2j^++1=\dim\overline{V_j}=\dim V_j=2j+1 \quad\Longrightarrow\quad j^+=j.

このように、複素共役した変換行列が、基底を取り直すと元の変換行列に一致する性質を自己共役という。等しいのは表現の種類を表すラベルであり、基底を固定した行列の各成分が実数である必要はない。

複素共役してもスピン 1/21/2 の表現が変わらない理由

基本表現の行列を

g=(ab−b∗a∗),∣a∣2+∣b∣2=1g=\begin{pmatrix}a&b\\-b^*&a^*\end{pmatrix}, \qquad |a|^2+|b|^2=1

と書く。二成分を交換し、片方の符号を変えるPauli行列の組合せ

iσ2=(01−10)i\sigma_2=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}

を用いると、直接の掛け算で

(iσ2)g(iσ2)−1=(a∗b∗−ba)=g∗(i\sigma_2)g(i\sigma_2)^{-1} =\begin{pmatrix}a^*&b^*\\-b&a\end{pmatrix} =g^*

となる。同じ iσ2i\sigma_2 がすべての gg に対して使えるため、複素共役した変換則全体が、一度の基底の取り直しで元の変換則に対応する。従って共役を取っても二次元のスピン 1/21/2 表現であり、(1/2)+=1/2(1/2)^+=1/2 となる。

SU(2)kSU(2)_k の可積分sectorも、このスピン jj でラベルされるため、共役sectorのラベルは同じ jj である。従って C=1C=\mathbf1 となり、正弦波の直交性から求めた S2S^2 と一致する。

fusionとfusing行列

ここまでは、一つの表現に属する状態を数え、その数え方がトーラスの周期交換でどう変わるかを調べた。次に、異なる表現の場を近づけたときに現れる表現を求める。この局所的な結合の問題も、先ほどの SS 行列とVerlinde公式によって結び付く。

表現 ii の場と表現 jj の場を近づけると、その積は別の局所場とその励起の和に展開される。この展開がOPEである。同じカレントの作用で結ばれる場を一つのfamilyにまとめ、対称性を保ったまま出力のfamily rr へ結ぶ独立な仕方の数を

Nijr∈Z≥0N_{ij}{}^r\in\mathbb Z_{\geq0}

と書く。この結び方をchiral intertwinerと呼び、途中に現れる表現の選択をchannelと呼ぶ。fusion積は

[i]⋆[j]=∑rNijr[r][i]\star[j] = \sum_rN_{ij}{}^r[r]

である。Nijr≠0N_{ij}{}^r\neq0 は、ii と jj のOPEに共形family rr が現れうることを意味するが、そのOPE係数の数値までは決めない。

これは通常の有限次元 SU(2)SU(2) 表現のtensor積ではない。通常のtensor積は零モード su(2)\mathfrak{su}(2) だけを見ているのに対し、fusionは全アフィン代数とsingular vectorによる商を尊重しなければならない。ただし、レベルの上端から十分離れたラベルでは両者は同じ分解則に見える。

固定した ii に対し

(Ni)jr:=Nijr(N_i)_j{}^r:=N_{ij}{}^r

と置けば、NiN_i は「[i][i] をfusionする」線形作用素である。

Verlinde公式とfusion行列

第3章で導入されたVerlinde公式は

Nijr=∑ℓSiℓSjℓSrℓ∗S0ℓ(3.76)\boxed{ N_{ij}{}^r = \sum_{\ell} \frac{ S_{i\ell}S_{j\ell}S_{r\ell}^{*} }{S_{0\ell}} } \tag{3.76}

である。和は全可積分表現 ℓ=0,12,…,k2\ell=0,\frac12,\ldots,\frac k2 を走り、00 は真空表現を表す。この定理は、トーラスの周期交換から得た同じ SS がfusion行列を対角化することを述べる。両者を結ぶのは、場を含む曲面を異なる順序で切り分け、途中状態を足し合わせても同じ振幅を得るというCFTの整合性である。局所的に二つの挿入をまとめればfusionの中間表現が現れ、トーラスの周期を入れ替えて状態を数えれば SS が現れる。この二つの計算を両立させる条件が、表現の数え方とOPEの結び方を結び付ける。ここでは有限個の既約表現で閉じるユニタリーな SU(2)kSU(2)_k に、この定理を適用している。大域的な切り方が局所OPEを知る理由

トーラスの周期交換から、なぜOPEの組合せが分かるのか?

同じ曲面上の相関関数は、途中状態をどの順序でまとめて計算しても一致しなければならない。その整合性が、局所的なfusionとトーラスの周期交換を結び付ける。

曲面を、二つの入口と一つの出口を持つ三つ穴の部分に分けて考える。それぞれの切り口で表現を指定し、内部の切り口では許される中間状態を足し合わせる。一つの部分でどの表現を結び付けられるかを数えるのがfusion係数である。

一方、トーラスを別の周期に沿って切ると、同じ状態の数え方が SS によって変換される。切り方を変えても相関関数が一致する条件を課すと、この SS がfusion行列も同時に対角化する。これがVerlinde定理の内容であり、有限個の可積分表現で閉じる SU(2)kSU(2)_k では、本文の式 として使える。SS が直接決めるのは許される表現とその多重度で、個々のOPE係数の数値にはさらに三点関数のデータが必要である。

Ni=S diag⁡ℓ ⁣(SiℓS0ℓ)S−1.N_i=S\,\operatorname{diag}_{\ell}\!\left(\frac{S_{i\ell}}{S_{0\ell}}\right)S^{-1}.

参照:6.1 · 式 – とVerlinde公式

Verlinde公式の和を三つの行列の積として読む。Siℓ/S0ℓS_{i\ell}/S_{0\ell} を対角成分に置くと

Ni=S diag⁡ℓ(SiℓS0ℓ)S−1\boxed{ N_i = S\,\operatorname{diag}_{\ell} \left(\frac{S_{i\ell}}{S_{0\ell}}\right)S^{-1} }

である。SS の ℓ\ell 列はすべてのfusion行列 NiN_i に共通の固有ベクトルであり、NiN_i のその固有値が Siℓ/S0ℓS_{i\ell}/S_{0\ell} になる。

modular SS がfusion行列を対角化することを式で確かめる

SU(2)kSU(2)_k では 0<π(2ℓ+1)/(k+2)<π0<\pi(2\ell+1)/(k+2)<\pi なので S0ℓ>0S_{0\ell}>0。以下の割り算に零の分母はない。

この式を行列の形へ書き直す。対角行列

(Di)ℓℓ′:=δℓℓ′SiℓS0ℓ(D_i)_{\ell\ell'} := \delta_{\ell\ell'} \frac{S_{i\ell}}{S_{0\ell}}

を定めると

(SDiS†)jr\displaystyle (S D_i S^{\dagger})_j{}^r=
∑ℓ,ℓ′Sjℓ(Di)ℓℓ′(S†)ℓ′r\displaystyle \sum_{\ell,\ell'} S_{j\ell} (D_i)_{\ell\ell'} (S^\dagger)_{\ell'r}
=
∑ℓ,ℓ′Sjℓδℓℓ′SiℓS0ℓ(S†)ℓ′r\displaystyle \sum_{\ell,\ell'} S_{j\ell} \delta_{\ell\ell'}\frac{S_{i\ell}}{S_{0\ell}} (S^\dagger)_{\ell'r}
=
∑ℓSjℓSiℓS0ℓ(S†)ℓr\displaystyle \sum_{\ell} S_{j\ell} \frac{S_{i\ell}}{S_{0\ell}} (S^\dagger)_{\ell r}
=
∑ℓSjℓSiℓS0ℓSrℓ∗\displaystyle \sum_{\ell} S_{j\ell} \frac{S_{i\ell}}{S_{0\ell}} S_{r\ell}^*
=
Nijr\displaystyle N_{ij}{}^r

行列の各成分がVerlinde公式に等しいので Ni=SDiS†N_i=SD_iS^\dagger である。ユニタリ性 S†=S−1S^\dagger=S^{-1} を使えば本文の対角化式になる。

さらに、SS の第 mm 列に NiN_i を作用させる計算を、省略せずに書くと

(NiS)jm=∑rNijrSrm=∑r∑ℓSiℓSjℓSrℓ∗S0ℓSrm=∑ℓSiℓSjℓS0ℓ(∑rSrℓ∗Srm)=∑ℓSiℓSjℓS0ℓδℓm=SimS0mSjm.\begin{aligned} (N_iS)_{jm} &=\sum_rN_{ij}{}^rS_{rm}\\ &=\sum_r\sum_\ell \frac{S_{i\ell}S_{j\ell}S_{r\ell}^{*}}{S_{0\ell}}S_{rm}\\ &=\sum_\ell\frac{S_{i\ell}S_{j\ell}}{S_{0\ell}} \left(\sum_rS_{r\ell}^{*}S_{rm}\right)\\ &=\sum_\ell\frac{S_{i\ell}S_{j\ell}}{S_{0\ell}}\delta_{\ell m}\\ &=\frac{S_{im}}{S_{0m}}S_{jm}. \end{aligned}

三行目では rr に依存しない因子を和の外へ出した。括弧の和は (S†S)ℓm(S^\dagger S)_{\ell m} なので δℓm\delta_{\ell m} となり、最後は ℓ=m\ell=m だけが残る。これが「第 mm 列を保ったまま Sim/S0mS_{im}/S_{0m} 倍する」という固有ベクトルの条件である。

これはVerlinde公式を入力として行った線形代数の計算であり、Verlinde定理自体の証明ではない。

基本表現とのfusionと有限鎖

k=2k=2 で得られる基本表現とのfusionを先に見る。0,12,10,\frac12,1 の順に行と列を並べると、結果は

N12=(010101010).N_{\frac12}=\begin{pmatrix}0&1&0\\1&0&1\\0&1&0\end{pmatrix}.

ラベルを 0⟷12⟷10\longleftrightarrow\frac12\longleftrightarrow1 と並べた鎖の、隣への移動を表している。中央の 12\frac12 からは両隣へ進めるが、両端からは中央へしか進めない。この端の存在が、通常の角運動量の合成との違いを生む。まず、この鎖が先ほどの SS 行列とどう結び付くかを一般の kk で確かめる。

一般の kk でも、Verlinde公式による固有値は正弦の倍角公式から

S12,ℓS0ℓ=sin⁡[2π(2ℓ+1)/(k+2)]sin⁡[π(2ℓ+1)/(k+2)]=2cos⁡π(2ℓ+1)k+2\frac{S_{\frac12,\ell}}{S_{0\ell}} =\frac{\sin[2\pi(2\ell+1)/(k+2)]}{\sin[\pi(2\ell+1)/(k+2)]} =2\cos\frac{\pi(2\ell+1)}{k+2}

となる。一方、許容ラベルの両隣だけを1で結ぶ行列 AA を Ajr=1A_j{}^r=1(∣j−r∣=1/2|j-r|=1/2)、それ以外は0と定める。この AA は表現ラベル間の接続を数える行列であり、前のMaurer–Cartan 1形式とは別の量である。正弦の加法定理によって

(AS)jℓ=Sj−12,ℓ+Sj+12,ℓ=2cos⁡π(2ℓ+1)k+2 Sjℓ(AS)_{j\ell}=S_{j-\frac12,\ell}+S_{j+\frac12,\ell} =2\cos\frac{\pi(2\ell+1)}{k+2}\,S_{j\ell}

が成り立つ。許容区間の外では S−1/2,ℓ=0S_{-1/2,\ell}=0、S(k+1)/2,ℓ=0S_{(k+1)/2,\ell}=0 なので、この等式は両端でも成立する。従って AA と N1/2N_{1/2} は、可逆な SS のすべての列で同じ固有値を持つ。AS=N1/2SAS=N_{1/2}S の右から S−1S^{-1} を掛けると A=N1/2A=N_{1/2} を得る。

基本表現とのfusionが、有限鎖の隣接行列になる理由

i=12i=\frac12 とする。各列を

xℓ:=π(2ℓ+1)k+2x_\ell := \frac{\pi(2\ell+1)}{k+2}

と置いてラベルすると、固有値は

S12,ℓS0ℓ=sin⁡ ⁣(2xℓ)sin⁡xℓ=2cos⁡xℓ.\begin{aligned} \frac{S_{\frac12,\ell}}{S_{0\ell}} &= \frac{ \sin\!\left(2x_\ell\right) }{ \sin x_\ell }\\ &=2\cos x_\ell. \end{aligned}

ここで、k+1k+1 個の点 a=1,…,k+1a=1,\ldots,k+1 を一列に並べる。点 aa はスピン

j=a−12j=\frac{a-1}{2}

を表す。隣接点だけを結ぶ行列 AA を

Aaa′={1,∣a−a′∣=1,0,otherwiseA_{aa'} = \begin{cases} 1,&|a-a'|=1,\\ 0,&\text{otherwise} \end{cases}

と定める。境界の外では v0=vk+2=0v_0=v_{k+2}=0 とし、

va(ℓ):=2k+2sin⁡(axℓ)=Sa−12,ℓv_a^{(\ell)} := \sqrt{\frac{2}{k+2}} \sin(ax_\ell) =S_{\frac{a-1}{2},\ell}

と置くと

(Av(ℓ))a\displaystyle (Av^{(\ell)})_a=
va−1(ℓ)+va+1(ℓ)\displaystyle v_{a-1}^{(\ell)} + v_{a+1}^{(\ell)}
=
2k+2sin⁡((a−1)xℓ)+va+1(ℓ)\displaystyle \sqrt{\frac{2}{k+2}}\sin((a-1)x_\ell) + v_{a+1}^{(\ell)}
=
2k+2sin⁡((a−1)xℓ)+2k+2sin⁡((a+1)xℓ)\displaystyle \sqrt{\frac{2}{k+2}}\sin((a-1)x_\ell) + \sqrt{\frac{2}{k+2}}\sin((a+1)x_\ell)
=
2k+2[sin⁡((a−1)xℓ)+sin⁡((a+1)xℓ)]\displaystyle \sqrt{\frac{2}{k+2}} \left[\sin((a-1)x_\ell)+\sin((a+1)x_\ell)\right]
=
2k+22cos⁡xℓ sin⁡(axℓ)\displaystyle \sqrt{\frac{2}{k+2}} 2\cos x_\ell\,\sin(ax_\ell)
=
2cos⁡xℓ va(ℓ)\displaystyle 2\cos x_\ell\, v_a^{(\ell)}

つまり AA は、N12N_{\frac12} と同じ完全な正規直交固有ベクトル系と同じ固有値を持つ。よって

N12=A\boxed{N_{\frac12}=A}

である。特に k=2k=2 では

x0=π4,x12=π2,x1=3π4x_0=\frac\pi4, \qquad x_{\frac12}=\frac\pi2, \qquad x_1=\frac{3\pi}{4}

なので、三つの固有値は 2,0,−2\sqrt2,0,-\sqrt2 である。実際、この小節のfusion行列と「SS 行列と離散正弦変換」で求めた k=2k=2 の SS 行列は

N12S=S diag⁡(2,0,−2)N_{\frac12}S =S\,\operatorname{diag}(\sqrt2,0,-\sqrt2)

を満たす。

境界条件も確認する。左端では sin⁡(0xℓ)=0\sin(0x_\ell)=0、右端では

sin⁡((k+2)xℓ)=sin⁡(π(2ℓ+1))=0\sin((k+2)x_\ell)=\sin(\pi(2\ell+1))=0

である。2ℓ+12\ell+1 は整数なので、右端の零はすべての列で成立する。したがって a=1a=1 では va−1v_{a-1}、a=k+1a=k+1 では va+1v_{a+1} が零となり、上の加法定理による計算は両端でも有効である。

「同じ固有ベクトルと固有値」から行列が等しいことも、AS=SD1/2AS=SD_{1/2} と書いて右から S−1S^{-1} を掛ければ

A=SD1/2S−1=N1/2A=SD_{1/2}S^{-1}=N_{1/2}

と直接確認できる。

一般の kk で半整数ラベルへ戻せば

12⋆j=(j−12)⊕(j+12)\boxed{ \frac12\star j = \left(j-\frac12\right) \oplus \left(j+\frac12\right) }

となる。ただし許容区間

0≤j≤k20\leq j\leq\frac k2

の外へ出る項は存在しない。したがって j=0j=0 では右へ一歩だけ、j=k/2j=k/2 では左へ一歩だけ動ける。

基本表現 j=12j=\frac12 とのfusionを表す N12N_{\frac12} は有限鎖の隣接行列になり、その固有ベクトルは正弦波である。一般のfusion行列 NiN_i は隣接行列そのものではないが、同じ SS によって同時に対角化される。一方、トーラスの周期交換から得た SS も同じ正弦波を列に持つ。したがって

modular S は、有限な表現鎖の固有モードを並べた行列である。\boxed{ \text{modular $S$ は、有限な表現鎖の固有モードを並べた行列である。} }
基本fusionから高いスピンのfusion行列を順に求める

fusion積の結合則と分配則により、[i]⋆[j]=∑rNijr[r][i]\star[j]=\sum_rN_{ij}{}^r[r] なら、対応する行列は

NiNj=∑rNijrNrN_iN_j=\sum_rN_{ij}{}^rN_r

を満たす。真空は積の単位元なので N0=1N_0=\mathbf1。A=N1/2A=N_{1/2} と合わせると、基本fusion則は内部のラベル 1/2≤j≤(k−1)/21/2\leq j\leq(k-1)/2 に対し

ANj=Nj−1/2+Nj+1/2,Nj+1/2=ANj−Nj−1/2AN_j=N_{j-1/2}+N_{j+1/2},\qquad N_{j+1/2}=AN_j-N_{j-1/2}

を与える。この引き算は行列の恒等式を解いているもので、fusion係数が負になるという意味ではない。許容範囲に各ラベルが存在するとき、順に

N0=1,N1/2=A,N1=A2−1,N3/2=A(A2−1)−A=A3−2A,N2=A(A3−2A)−(A2−1)=A4−3A2+1\begin{aligned} N_0&=\mathbf1,\qquad N_{1/2}=A,\\ N_1&=A^2-\mathbf1,\\ N_{3/2}&=A(A^2-\mathbf1)-A=A^3-2A,\\ N_2&=A(A^3-2A)-(A^2-\mathbf1)=A^4-3A^2+\mathbf1 \end{aligned}

と求められる。上端では [(k+1)/2][(k+1)/2] がないので、別途

ANk/2=N(k−1)/2AN_{k/2}=N_{(k-1)/2}

を満たさなければならない。この境界条件が行列 AA の多項式関係を与える。

例えば k=2k=2 なら N1=A2−1N_1=A^2-\mathbf1 と上端の AN1=AAN_1=A から A3=2AA^3=2A。さらに A4=2A2A^4=2A^2 なので

N12=(A2−1)2=A4−2A2+1=1=N0.N_1^2=(A^2-\mathbf1)^2=A^4-2A^2+\mathbf1=\mathbf1=N_0.

fusion行列は積の情報を失わない。真空行に作用させると (Ni)0r=Ni0r=δir(N_i)_0{}^r=N_{i0}{}^r=\delta_i{}^r となるため、行列の線形結合の各係数は真空行から読み取れる。従って N12=1=N0N_1^2=\mathbf1=N_0 は [1]⋆[1]=[0][1]\star[1]=[0] を意味する。

これが行列で見た 1⋆1=01\star1=0 である。右辺の 00 は真空のスピンラベルであり、零行列を意味しない。

k=2k=2 のfusion則

有限鎖から分かる 12⋆12=0⊕1\frac12\star\frac12=0\oplus1 と 12⋆1=12\frac12\star1=\frac12 を使って、残る 1⋆11\star1 を決めよう。通常の SU(2)SU(2) tensor積なら

1⊗1=0⊕1⊕21\otimes1=0\oplus1\oplus2

なので、上限を超えた 22 だけを消せば 0⊕10\oplus1 が残る。しかし、基本fusionとの結合則は、この候補をさらに制限する。

三つの表現を結合した結果は括り方に依らない。一方の括り方では

(12⋆12)⋆1=(0⊕1)⋆1=1⊕(1⋆1),\begin{aligned} \left(\frac12\star\frac12\right)\star1 &=(0\oplus1)\star1\\ &=1\oplus(1\star1), \end{aligned}

他方では

12⋆(12⋆1)=12⋆12=0⊕1.\begin{aligned} \frac12\star\left(\frac12\star1\right) &=\frac12\star\frac12\\ &=0\oplus1. \end{aligned}

ここで最初の候補 1⋆1=0⊕11\star1=0\oplus1 を一方の括り方へ戻すと、1⊕(0⊕1)=0⊕1⊕11\oplus(0\oplus1)=0\oplus1\oplus1 になる。他方の 0⊕10\oplus1 と比べ、スピン 11 が一コピー余る。個々のラベルが上限内でも、三つを結ぶ二つの結果は一致しない。

結合則を満たすには、二つの結果の各表現の多重度を一致させる。共通の 11 を除くと

1⋆1=01\star1=0

が強制される。この値を戻すと、一方は 1⊕01\oplus0、他方は 0⊕10\oplus1 となり、各表現が一コピーずつで一致する。候補にあった余分なスピン 11 が消えたことを、同じ括り方の比較で確かめられた。

有限鎖の端で 12⋆1\frac12\star1 が片方向にしか進めないことが、結合則を通じて 1⋆11\star1 の値まで決めた。これで k=2k=2 では、どの二つのchiral familyを結んでも、現れうるfamilyとその多重度を次の式から読める。

0⋆j=j,12⋆12=0⊕1,12⋆1=12,1⋆1=0.\begin{aligned} 0\star j&=j,\\ \frac12\star\frac12&=0\oplus1,\\ \frac12\star1&=\frac12,\\ 1\star1&=0. \end{aligned}

ここで決めたのは k=2k=2 のfusion係数であり、個々のOPE係数の数値ではない。また、一つの結合則の検算だけで一般の kk の全fusion則が得られたわけでもない。次に原著の一般式を使い、入力と出力をまとめて制限する条件を読む。

k=2k=2 で 1⋆1=01\star1=0 になることを係数で確かめる

fusion環では、基底 [0],[12],[1][0],[\frac12],[1] ごとに係数を比較できる。[1]⋆[1]+[1]=[0]+[1][1]\star[1]+[1]=[0]+[1] から

N110=1,N111/2=0,N111+1=1N_{11}{}^0=1,\qquad N_{11}{}^{1/2}=0,\qquad N_{11}{}^1+1=1

となり、[1]⋆[1]=[0][1]\star[1]=[0] を得る。後の式 からも j1=j2=1j_1=j_2=1 を代入して

0≤j3≤min⁡(2,2−1−1)=00\leq j_3\leq\min(2,2-1-1)=0

を得るため、出力は j3=0j_3=0 に限られる。

一般のfusion則とレベル壁

SU(2)kSU(2)_k の全fusion係数は

Nj1j2j3={1,∣j1−j2∣≤j3≤min⁡(j1+j2, k−j1−j2),j1+j2+j3∈Z,0,otherwise(6.11)\boxed{ N_{j_1j_2}{}^{j_3} = \begin{cases} 1, & |j_1-j_2|\leq j_3 \leq\min(j_1+j_2,\,k-j_1-j_2),\\ &j_1+j_2+j_3\in\mathbb Z,\\[2mm] 0,&\text{otherwise} \end{cases} } \tag{6.11}

である。個々の係数の網羅的な導出は行わず、原著の表現論データとして採用する。ただし、各条件の役割は区別できる。

  • ∣j1−j2∣≤j3≤j1+j2|j_1-j_2|\leq j_3\leq j_1+j_2 は通常の SU(2)SU(2) tensor積にもある三角条件である。
  • j1+j2+j3∈Zj_1+j_2+j_3\in\mathbb Z は、現れるスピンが1刻みであり、整数・半整数の偶奇が合うことを表す。
  • j3≤k−j1−j2j_3\leq k-j_1-j_2 はアフィン代数に固有のレベル壁であり、singular vectorを商で除く効果をfusionへ反映する。

最後の条件は三つのスピンの和 j1+j2+j3j_1+j_2+j_3 を kk 以下に制限する。各ラベルが個別に k/2k/2 以下でも、組合せがこの条件を破ることがある。null状態を零とする関係はOPEの中でも保たれなければならず、それが入力と出力をまとめた条件になる。先ほどの k=2k=2 の例では、この条件が 1⋆11\star1 の出力を真空だけに制限していた。

カイラル頂点演算子とfusing行列

fusion係数は、二つの表現からどの表現へ結べるかを数える。三つを結ぶ場合、最初の二つを先に結ぶ方法と、後ろの二つを先に結ぶ方法がある。同じ相関関数をどちらの順序でも計算するには、途中の表現を指定して選んだ二組の基底を対応させる必要がある。この対応を記録する行列がfusing行列 FF である。

Nijr≠0N_{ij}{}^r\ne0 のとき、chiral vertex operator(CVO)は、表現 ii の場の挿入によって、Hj\mathcal H_j の状態を Hr\mathcal H_r へ移す写像である:

ϕrji(v;z):Hj⟶Hr,v∈Hi.\phi^i_{rj}(v;z):\mathcal H_j\longrightarrow\mathcal H_r, \qquad v\in\mathcal H_i.

この写像は、入力状態・挿入する場・出力状態に対するカレントの作用をWard恒等式に従って両立させる。その意味でintertwinerと呼ぶ。CVOは左右を組み合わせる前の補助演算子であり、それだけで物理的な局所場ではない。CVOを連結して両端の状態との行列要素を取ると、局所的に正則な相関関数の一つの解ができる。途中に通る表現を指定して得るこの解がconformal blockである。blockを反正則側のblockと組み合わせて、一価な物理的bulk相関関数を作る。

括り方を具体化する。最初の二つの表現ラベルを I,JI,J と書く。I⋆JI\star J のfusion則が、この二つを結ぶ途中の候補を与える。

その候補から一つの表現 PP を選ぶ。I⋆J→PI\star J\to P と書けば、PP は最初の結合が通る中間表現である。

これに三つ目の表現 KK を結合し、最終的な表現を LL とする。これが ((I⋆J)P⋆K)L((I\star J)_P\star K)_L という順序である。

もう一方では J⋆KJ\star K を先に結び、その途中の表現を QQ とする。同じ外線と最終表現を保った二つの順序は

((I⋆J)P⋆K)L↔ F (I⋆(J⋆K)Q)L.(two-bracketings)\bigl((I\star J)_P\star K\bigr)_L \quad\xleftrightarrow{\ F\ }\quad \bigl(I\star(J\star K)_Q\bigr)_L. \tag{two-bracketings}

この二つの木が許される条件を並べると、FF の各添字がどの結合に属するか分かる。

中間表現先に行う結合次に行う結合
PPI⋆J→PI\star J\to PP⋆K→LP\star K\to L
QQJ⋆K→QJ\star K\to QI⋆Q→LI\star Q\to L

各行の二つのfusion係数がともに1である表現だけを、blockの基底に使う。SU(2)の表現は自己共役なので、最後の表現 LL を第四の外線 LL と結んで真空へ閉じると、これを四点blockとして表せる。

外線 I,J,K,LI,J,K,L の挿入点をそれぞれ 0,x,1,∞0,x,1,\infty に置くと、交差比 xx が残る。この配置で、PP を使う解の基底を FP(s)(x)\mathcal F_P^{(s)}(x)、QQ を使う解の基底を FQ(t)(x)\mathcal F_Q^{(t)}(x) と書く。上の表で固定した外線順序に対し、定義は

FP(s)(x)=∑QFPQ[JKIL]FQ(t)(x).\boxed{ \mathcal F_P^{(s)}(x) =\sum_QF_{PQ}\begin{bmatrix}J&K\\ I&L\end{bmatrix} \mathcal F_Q^{(t)}(x) }.

P,QP,Q は基底を数える添字であり、I,J,K,LI,J,K,L は変換中に固定する外線の表現である。FF は挿入点を動かす演算子ではなく、同じ解の空間で基底を取り替える定数行列である。解析接続の経路とCVOの規格化を固定することを含めて、この定義を使う。

例えば k=2k=2 で四つの外線をすべてスピン 1/21/2 にすると、1/2⋆1/2=0⊕11/2\star1/2=0\oplus1 なので P,QP,Q はそれぞれ 0,10,1 の二通りである。どちらも残るスピン 1/21/2 と結んで最終表現 L=1/2L=1/2 にでき、四点blockの空間は二次元になる。従ってこの場合の FF は二つの中間channelを混ぜる 2×22\times2 行列になる。

FF の数値を使うには、blockの基底の大きさと位相も選ばなければならない。次節では、上の表で固定した外線配置に対し、量子 6j6j から数値を与える規約を選ぶ。境界OPEへ同じ FF を使う場合にも、場の規格化をその選択とそろえる。

blockとCVOの規格化を変えると FF はどう変わるか

基底を FP′(s)=aPFP(s)\mathcal F_P^{\prime(s)}=a_P\mathcal F_P^{(s)}、FQ′(t)=bQFQ(t)\mathcal F_Q^{\prime(t)}=b_Q\mathcal F_Q^{(t)} と非零定数倍すると

FP′(s)=∑QaPFPQbQ−1FQ′(t),FPQ′=aPbQ−1FPQ.\mathcal F_P^{\prime(s)} =\sum_Qa_PF_{PQ}b_Q^{-1}\mathcal F_Q^{\prime(t)}, \qquad F'_{PQ}=a_Pb_Q^{-1}F_{PQ}.

結合 i⋆j→ri\star j\to r のCVOを γijr\gamma_{ij}^{r} 倍する場合、表の各行には二つの結合があるので

aP=γIJPγPKL,bQ=γJKQγIQL,a_P=\gamma_{IJ}^{P}\gamma_{PK}^{L},\qquad b_Q=\gamma_{JK}^{Q}\gamma_{IQ}^{L},

従って

FPQ′=γIJPγPKLγJKQγIQLFPQF'_{PQ} =\frac{\gamma_{IJ}^{P}\gamma_{PK}^{L}} {\gamma_{JK}^{Q}\gamma_{IQ}^{L}}F_{PQ}

となる。これが原著 p.241 のCVO再規格化則である。相関関数を ∑PcPFP(s)\sum_Pc_P\mathcal F_P^{(s)} と書いていたなら、新しい基底では係数が cP/aPc_P/a_P になるため、物理的な相関関数は変わらない。数値としての FF やOPE係数を比較するときに、規格化を一致させる必要がある理由はこの逆向きの変換である。

Sugawara構成からKZ方程式を得て、FF の定数性を確かめる

カレント代数の一次場 viv_i の挿入に対し、Jna∣vi⟩=0J_n^a|v_i\rangle=0(n>0n>0)である。式 の L−1L_{-1} では、一次場上で J−1aJ0aJ_{-1}^aJ_0^a だけが残るので

L−1∣vi⟩=1k+2∑aJ−1aJ0a∣vi⟩.L_{-1}|v_i\rangle =\frac1{k+2}\sum_aJ_{-1}^aJ_0^a|v_i\rangle.

L−1L_{-1} の挿入は ziz_i の微分であり、J0aJ_0^a は有限次元スピン表現の生成子 ta(i)t_a^{(i)} として作用する。J−1aJ_{-1}^a の輪郭を他の挿入点へ動かし、current Ward恒等式を使うと

∂ziF(z)=1k+2∑j≠i∑ata(i)ta(j)zi−zjF(z).\boxed{ \partial_{z_i}\mathcal F(\boldsymbol z) =\frac1{k+2}\sum_{j\ne i} \frac{\sum_a t_a^{(i)}t_a^{(j)}}{z_i-z_j} \mathcal F(\boldsymbol z) }.

これがこのノートの tr⁡(tatb)=δab\operatorname{tr}(t_at_b)=\delta_{ab} 規約でのKnizhnik–Zamolodchikov(KZ)方程式である。分子の二つの生成子は異なる挿入 i,ji,j に作用する。原著 p.240 の分子は同じ挿入の添字を二度印刷しているが、Ward恒等式から得るのは上の不変縮約である。係数はこの基底で 1/(k+2)1/(k+2) であり、ta=σa/2t_a=\sigma_a/2 の角運動量基底なら 2/(k+2)2/(k+2) になる。

四点では、この連立方程式を交差比 xx の一次方程式 dY/dx=M(x)YdY/dx=M(x)Y にまとめられる。独立解を列に並べた正方行列を YY とする。特異点を避け、解析接続の経路を固定した領域で二組の基本解 Ys,YtY_s,Y_t を選ぶと

ddx(Yt−1Ys)=−Yt−1MYs+Yt−1MYs=0.\frac{d}{dx}(Y_t^{-1}Y_s) =-Y_t^{-1}MY_s+Y_t^{-1}MY_s=0.

従って基底変換の係数は定数である。その成分の閉形式を求めるには、さらに解の漸近条件とCVO規格化が必要になる。

有限レベルの括り替えと大きな kk の極限

通常の角運動量でも、三つのスピンを結ぶ二つの順序の間には基底変換があり、その係数はWignerの 6j6j symbolで表される。有限レベルのWZW模型では、許される三点結合をfusion則で制限した上で、その係数を量子変形する。変形に使う整数の置き換えは

[n]k:=sin⁡(πn/(k+2))sin⁡(π/(k+2))[n]_k:=\frac{\sin(\pi n/(k+2))}{\sin(\pi/(k+2))}

である。以下では、Poilblancほか、Appendix A.3 の SU(2)kSU(2)_k の括り替えデータを使う。量子 6j6j symbolは、四つの許された三点結合に対し、括り替えの数値を与える六スピンの関数である。同論文のRacah規約では、量子階乗 [m]k!:=∏n=1m[n]k[m]_k!:=\prod_{n=1}^m[n]_k([0]k!=1[0]_k!=1)の有限個の積・比・平方根を作り、それらを有限和にする。六つのスピンを固定すると、和の範囲と各階乗の整数引数も固定される。この有限和の構造と、以下の位相・次元因子を含む括り替え係数を外部データとして採用する。これにより、FF の数値とblockの規格化を指定する:

FPQ[JKIL]=(−1)I+J+K+L[2P+1]k[2Q+1]k{IJPKLQ}kF_{PQ}\begin{bmatrix}J&K\\ I&L\end{bmatrix} =(-1)^{I+J+K+L}\sqrt{[2P+1]_k[2Q+1]_k} \begin{Bmatrix}I&J&P\\ K&L&Q\end{Bmatrix}_{k}

この規約で選んだ FF では、位相は外線の四スピン、平方根は中間表現 P,QP,Q の量子次元から決まる。6j6j の外線配列は、先の結合表の四つの三角条件に対応する。この位相・次元因子を含む変換を、直交recoupling規格化と呼ぶ。完全なRacah和は、数値を計算するための参照データとして下の補足に置く。

通常のWigner 6j6j のRacah表示は、同じ六スピンの量子Racah表示で [m]k![m]_k! を m!m! に置き換えた有限和である。この対応も、NIST DLMF式 (34.4.2) の表現論データとして採用する。

スピンを固定して k→∞k\to\infty とすると、fusion条件 I+J+P≤kI+J+P\leq k などはやがて自動的に満たされる。また各固定正整数 nn について sin⁡x/x→1\sin x/x\to1 より [n]k→n[n]_k\to n となる。固定スピンなら十分大きな kk で分母の階乗は零にならず、有限和の各項で極限を取れるため、量子 6j6j は通常のWigner 6j6j へ戻る。上で選んだ直交recoupling規格化では

lim⁡k→∞FPQ[JKIL]=(−1)I+J+K+L(2P+1)(2Q+1){IJPKLQ}Wigner(6.13)\boxed{ \lim_{k\to\infty} F_{PQ}\begin{bmatrix}J&K\\ I&L\end{bmatrix} =(-1)^{I+J+K+L}\sqrt{(2P+1)(2Q+1)} \begin{Bmatrix}I&J&P\\ K&L&Q\end{Bmatrix}_{\mathrm{Wigner}} } \tag{6.13}

となる。右辺全体が、通常の角運動量の括り替え行列の成分である。原著 の「6j6j」はこの括り替え係数として読む。標準的なWigner 6j6j symbolだけとは位相・次元因子が異なるので、両者を同一視しない。

スピンも kk に比例して増やす場合は、πn/(k+2)\pi n/(k+2) が小さくなるとは限らず、[n]k≃n[n]_k\simeq n もレベル壁の消失も保証されない。式 は固定スピンの極限である。

参照用データ:表の結合順序にそろえた量子Racah和 (6.12)

この閉形式は、量子群の括り替えデータとして採用する。Poilblanc et al., Appendix A.3, p.16 の直交recoupling規格化と同じ形である。原著 の外線配置と一方の次元因子は、本文のCVO再規格化則および原著 の結合条件と合わないため、ここでは結合表で定めた配置へそろえる。

量子階乗と三角係数を

[n]k!:=∏r=1n[r]k,[0]k!=1,[n]_k!:=\prod_{r=1}^{n}[r]_k,\qquad [0]_k!=1,Δk(a,b,c):=[a+b−c]k![b+c−a]k![c+a−b]k![a+b+c+1]k!\Delta_k(a,b,c) :=\sqrt{\frac{[a+b-c]_k![b+c-a]_k![c+a-b]_k!} {[a+b+c+1]_k!}}

と定める。三つのラベル a,b,ca,b,c は式 のfusion条件を満たすものに限る。その条件で階乗の引数は非負整数になる。本文の外線順序に対する閉形式は

FPQ[JKIL]=(−1)I+J+K+L[2P+1]k[2Q+1]k×Δk(I,J,P)Δk(K,L,P)Δk(J,K,Q)Δk(I,L,Q)×∑s(−1)s[s+1]k![s−I−J−P]k![s−K−L−P]k! ×1[s−J−K−Q]k![s−I−L−Q]k!×1[I+J+K+L−s]k![I+K+P+Q−s]k![J+L+P+Q−s]k!.(6.12)\begin{aligned} F_{PQ}\begin{bmatrix}J&K\\ I&L\end{bmatrix} ={}&(-1)^{I+J+K+L}\sqrt{[2P+1]_k[2Q+1]_k}\\ &\times\Delta_k(I,J,P)\Delta_k(K,L,P) \Delta_k(J,K,Q)\Delta_k(I,L,Q)\\ &\times\sum_s\frac{(-1)^s[s+1]_k!} {[s-I-J-P]_k![s-K-L-P]_k!}\,\\ &\hspace{8mm}\times \frac1{[s-J-K-Q]_k![s-I-L-Q]_k!}\\ &\hspace{8mm}\times \frac1{[I+J+K+L-s]_k![I+K+P+Q-s]_k![J+L+P+Q-s]_k!}. \end{aligned} \tag{6.12}

和は、七つの分母の引数がすべて非負整数になる整数 ss だけを走る有限和である。四つの Δk\Delta_k が、本文の表の四つの結合に一対一に対応する。原著の印刷では [2P+1][Q+1]\sqrt{[2P+1][Q+1]} とあるが、この直交規格化の次元因子は [2P+1]k[2Q+1]k\sqrt{[2P+1]_k[2Q+1]_k} である。外線配列を変えた資料から転記するときは、三角係数を各結合へ戻して配置を確認する。

量子 6j6j symbolを、位相と次元因子を除いた「四つの Δk\Delta_k と有限和」と定義すれば、式は

FPQ[JKIL]=(−1)I+J+K+L[2P+1]k[2Q+1]k{IJPKLQ}kF_{PQ}\begin{bmatrix}J&K\\ I&L\end{bmatrix} =(-1)^{I+J+K+L}\sqrt{[2P+1]_k[2Q+1]_k} \begin{Bmatrix}I&J&P\\ K&L&Q\end{Bmatrix}_{k}

である。固定スピンでは和の範囲も固定されるため、[n]k→n[n]_k\to n を各階乗へ代入するとWignerのRacah和になり、本文の式 を得る。

例えば k=2k=2、外線を全て 1/21/2、行列の順を P,Q=0,1P,Q=0,1 とすると、この規格化では

F=12(−1111),FTF=1.F=\frac1{\sqrt2} \begin{pmatrix}-1&1\\1&1\end{pmatrix},\qquad F^\mathsf TF=\mathbf1.

二組の直交基底の変換であることを直接検算できる。別のCVO規格化では行・列の符号も変わるが、その場合はOPE係数にも対応する変換を施す。

恒等表現 00 を結ぶ場合も確認できる。NIjK=1N_{Ij}{}^K=1 である三つのラベルに対し、左または右に 00 を加えた二つの木には各々一つしか中間表現がなく、同じ規格化では

FI,j[0jIK]=FK,j[j0IK]=1F_{I,j}\begin{bmatrix}0&j\\I&K\end{bmatrix} =F_{K,j}\begin{bmatrix}j&0\\I&K\end{bmatrix}=1

となる。この性質により、後で境界OPE係数を C=FC=F と選んだときも、恒等場を左または右から掛ける操作が元の場を係数1で返す。二つの非自明な場を掛けて恒等場を出す係数は、二点関数の規格化にも依存する別の量である。

同じCVO規格化を保って四つの入力表現を結ぶと、括り方は五通りある。その間を FF で移動したとき、同じ二つの基底を結ぶ二つの経路が同じ行列を与える条件を pentagon identity と呼ぶ。WZWのfusingデータはこの条件を満たす(原著式 (3.63)、Moore–Seibergの整合性関係)。この条件が、後に境界OPEを異なる順序で組み立てたときの一致を保証するための入力になる。

χj,Sij,Nijr,F\chi_j,S_{ij},N_{ij}{}^r,F が決定するデータは

データ決定される対象χjHj 内のエネルギー縮退度(電荷付きなら電荷も記録)Sijトーラスの周期交換でcharacterがどう混ざるかNijr二つのchiral familyからどのfamilyが何通り生じるかF同じconformal blockを異なるOPE順序で表す基底の対応\begin{array}{c|c} \text{データ}&\text{決定される対象}\\ \hline \chi_j&\mathcal H_j\text{ 内のエネルギー縮退度(電荷付きなら電荷も記録)}\\ S_{ij}&\text{トーラスの周期交換でcharacterがどう混ざるか}\\ N_{ij}{}^r&\text{二つのchiral familyからどのfamilyが何通り生じるか}\\ F&\text{同じconformal blockを異なるOPE順序で表す基底の対応} \end{array}

となる。Verlinde公式はcharacterのmodular変換とfusionの多重度を結び付け、FF は場を結合する順序の間の対応を与える。

球面上で左右の振動を別々に記録できるか、という問いには、Wess–Zumino項による交換子の相殺と二つの保存カレントで答えた。そのカレントの量子代数を使うと、許容スピンを 0,12,…,k/20,\frac12,\ldots,k/2 に絞り、零ノルム状態を除いた表現の状態数をcharacterで数えられた。SS はトーラスの周期交換の前後を結び、同じ SS からfusion係数を得ると、通常の角運動量の合成では残る出力がレベル条件で消える理由も読める。さらに FF は、残った表現を異なる順序で結ぶ二つのblock基底を対応させる。

これで一方のカイラル理論の状態と結合を扱う材料がそろった。しかし、左右のどの表現を組み合わせるか、弦の端で左右のカレントをどう結ぶかは、まだ指定していない。6.2節ではこの二つを選び、bulk理論と境界条件を作る。ここで得た S,N,FS,N,F が、その選択の整合性と、開弦のスペクトル・OPEを計算するための入力になる。

参考文献

  • A. Recknagel and V. Schomerus, Boundary Conformal Field Theory and the Worldsheet Approach to D-Branes.
    • WZW作用・カレント・可積分表現・character・fusion・fusing行列:§6.1.1–6.1.2, pp.236–241, 式–。
    • σ模型と背景場:式(2.2), (2.14)–(2.15)。
    • アフィン代数とSugawara構成:pp.90–91, 式(3.6)–(3.7)。
    • Verlinde公式:p.119, 式。
    • theta関数の規約:Appendix A, p.316。
  • E. Witten, “Non-Abelian Bosonization in Two Dimensions,” Commun. Math. Phys. 92 (1984) 455–472. doi:10.1007/BF01215276.
  • D. Poilblanc, A. E. Feiguin, M. Troyer, E. Ardonne and P. Bonderson, “One-dimensional itinerant interacting non-Abelian anyons,” Phys. Rev. B 87 (2013) 085106. 公開著者稿。Appendix A.3, p.16のSU(2)k_k fusion、量子Racah和、直交recoupling規格化を参照。
  • G. Moore and N. Seiberg, “Polynomial Equations for Rational Conformal Field Theories,” Phys. Lett. B 212 (1988) 451–460. doi:10.1016/0370-2693(88)91796-0。blockの基底変換の整合性、Verlindeとの関係を参照。