非可逆SPT

非可逆対称性に保護されたトポロジカル相

対称性を課さなければギャップを閉じずにつながる二つの状態も、指定した対称性を保つギャップ経路ではつながらないことがある。この区別を支える対称操作に逆操作がなくても、同じ現象は起こりうる。非可逆対称性に保護されたトポロジカル相(non-invertible symmetry-protected topological phase、NISPT)は、そのような相を扱う。

中心となる問いは、与えられた非可逆対称性の下で一意なギャップ基底状態を持つ相が存在するか、存在するなら何が相を区別するかである。対象はスピン鎖を含む空間一次元・時間一次元(1+1次元)のボソン系と、空間を動かさない有限の内部対称性である。対称操作を時空中の線で表し、線を融合・接合する規則をまとめたものがユニタリフュージョン圏(unitary fusion category)である。一意なギャップ基底状態を持つ相では、その対称線を入れたときの状態空間を各線に割り当て、線の融合・接合を状態空間の線形写像に対応させる。この対応が三本以上の線でも矛盾なく成り立つとき、その割り当てをファイバー関手と呼ぶ。ファイバー関手が存在するかで相の存在を判定し、異なる割り当てで相を区別する。格子上では、対称線の抽象的なデータに加え、実際の対称演算や局所自由度から相を見分ける。

1. 相、短距離エンタングルメント、保護

1.1 何を同じ相とみなすか

二つの局所ハミルトニアンを同じギャップ相に属するとするのは、それらを結ぶ局所ハミルトニアンの連続な経路があり、熱力学極限でも基底状態と励起の間のギャップが閉じないときである。必要に応じて、積状態にある補助自由度を加えることも許す。対称性で相を分類する場合は、経路の全体で指定した対称性の作用を保つ。

積状態は各サイトの状態のテンソル積であり、サイト間のエンタングルメントを持たない。積状態と対称性を課さないギャップ経路でつながる状態を、ここでは短距離エンタングルメント状態(short-range entangled state)と呼ぶ。固定点を表す簡単な状態では、有限の範囲に作用するユニタリ演算を、系の長さによらない段数だけ施す有限深さの局所回路によって積状態から作れる。一次元ボソン系の、バルク基底状態が一意なギャップ相が、対称性を外すと積状態の相に帰着することが、通常のSPT分類の出発点である。Chen–Gu–Wen, Classification of Gapped Symmetric Phases in 1D Spin Systems。

SPT相は、対称性を保ち、通常の周期境界条件の鎖では基底状態が一意で、対称性を外せば積状態の相になるギャップ相である。ここでの「保護」は、異なるSPT相の間を、指定した対称性とギャップの両方を保って移動できないことを指す。開いた鎖のエッジ(端)には縮退がありうるため、周期鎖での一意性と開いた鎖での一意性は区別する。自発的対称性の破れ(SSB)では、ハミルトニアンは対称でも、熱力学極限の純粋な基底状態が対称性で別の基底状態に移る。有限鎖で対称な重ね合わせが一つ見つかるだけでは、SSBを除外できない。Inamura, §1。

1.2 群対称性で既に現れるエッジの情報

通常の有限群対称性を GG とする。群の元 gg に対応する全系のユニタリ演算は UgUh=UghU_gU_h=U_{gh} を満たす。オンサイト作用とは、この演算がサイトごとの演算の積 Ug=⨂jug(j)U_g=\bigotimes_j u_g^{(j)} になることである。非自明なSPTの開いた鎖では、低エネルギー空間に左右のエッジへ局在した自由度が残りうる。十分長い鎖では、この空間に制限した UgU_g の作用を、離れた二つのエッジに作用する因子 VgLVgRV_g^L V_g^R に分けられる。以下の VgV_g は片方の因子を表す。このエッジの演算 VgV_g は

VgVh=β(g,h)Vgh,β(g,h)∈U(1)V_gV_h=\beta(g,h)V_{gh},\qquad \beta(g,h)\in U(1)

となりうる。U(1)U(1) は絶対値1の複素数の集合であり、β\beta は積に現れる位相である。この形を射影表現という。図では左端の位相を β(g,h)\beta(g,h) とする。左右のエッジに作用する演算は互いに可換なので、全系の積は左右それぞれの積へ分けて計算できる。全系で UgUh=UghU_gU_h=U_{gh} が成り立つため、右端には逆の位相 β(g,h)−1\beta(g,h)^{-1} が現れ、両端の位相は打ち消し合う。

開いた長い鎖の低エネルギー空間で、左端の演算の積に現れる位相 β(g,h) と右端の逆位相が、全系の演算の積では打ち消し合う。

左右の色を付けた範囲はエッジに局在した演算の支持領域を表す。上段から下段への矢印は、同じ端に作用する二つの演算の積を計算する操作であり、鎖に沿う物理的な移動ではない。図中の等式は、十分長い開いた鎖の低エネルギー空間に制限した作用についてのものである。

三つの演算の積をどちらから計算しても同じであることから、

β(g,h)β(gh,k)=β(h,k)β(g,hk)\beta(g,h)\beta(gh,k)=\beta(h,k)\beta(g,hk)

を得る。また、エッジ演算の位相を Vg↦λ(g)VgV_g\mapsto\lambda(g)V_g と選び直すと、

β(g,h)↦β(g,h)λ(g)λ(h)λ(gh)\beta(g,h)\mapsto \beta(g,h)\frac{\lambda(g)\lambda(h)}{\lambda(gh)}

となる。三つの演算の積から得た等式を満たす位相関数を2コサイクル、位相の選び直しで β(g,h)\beta(g,h) に掛かる λ(g)λ(h)/λ(gh)\lambda(g)\lambda(h)/\lambda(gh) を2コバウンダリと呼ぶ。2コバウンダリだけ異なる2コサイクルを同値とみなした同値類の集合が、群コホモロジー H2(G,U(1))H^2(G,U(1)) である。ここで次数2は二つの群要素の積に付く位相を表している。1+1次元のボソン系・有限オンサイト内部群対称性では、この同値類がSPT相を分類する。Inamura, §§1, 3.2。

例えば G=Z2×Z2G=\mathbb Z_2\times\mathbb Z_2 の二つの生成元 a,ba,b は群では可換だが、エッジでの作用は、位相の選び直しでも消せない VaVb=−VbVaV_aV_b=-V_bV_a を持ちうる。片方のエッジだけに加える対称な局所摂動は Va,VbV_a,V_b と可換なので、摂動後の各エネルギー固有空間にもこの反交換関係が残る。一次元の固有空間では演算は複素数となり、反交換できない。したがって片端の対称な局所摂動だけではエッジ自由度を完全には消せない。有限長の鎖で左右のエッジが直接結合する効果は、鎖を長くすると消える。バルクの局所秩序変数では捉えられない、こうした対称性の実現の仕方が相を区別する。

2. 非可逆対称性を記録するフュージョン圏

2.1 対称性演算子と時空中の欠陥線

虚時間幅 τ\tau の時間発展を e−τHe^{-\tau H} と書く(ℏ=1\hbar=1)。その行列要素を短い時間刻みに分け、刻みの間に状態の完全系を挿入して足し合わせると、各時刻の状態が空間に沿って並ぶ時空の記述になる。局所ハミルトニアンでは、近くのサイトと近くの時刻の状態を結ぶ行列要素から、この振幅を組み立てられる。

通常の群対称性を例にすると、ある時刻に UgU_g を挿入する操作は、その時刻の上下の状態を UgU_g の行列要素でつなぐことである。時空の図では、これは空間方向へ伸びる一本の線になる。挿入の前後の虚時間幅を τ1,τ2\tau_1,\tau_2 とすると、

e−τ2HUge−τ1H=Uge−(τ1+τ2)He^{-\tau_2 H}U_g e^{-\tau_1 H} =U_g e^{-(\tau_1+\tau_2)H}

なので、[Ug,H]=0[U_g,H]=0 なら線の挿入時刻を変えても振幅は変わらない。

このように、時空中の曲線上で、状態をつなぐ行列要素や結合の規則を変更する挿入を 欠陥線(defect line) と呼ぶ。群の場合は、線をまたぐ際に片側の状態へ gg を作用させる接続がその例である。線を時間方向に伸ばす場合には、空間の一か所でこの接続を変更したハミルトニアンを、各時刻で使い続ける。

虚時間と空間の図。対称演算 U_g が H と可換なら、空間方向へ伸びる線の挿入時刻を総虚時間を保って移せる。時間方向の欠陥は一つの空間位置を通り、同じ結合を各時刻で変更する。

横軸は鎖の位置 xx、縦軸は虚時間 τ\tau。青線は一つの時刻で鎖全体に作用する UgU_g を表し、左から中央への矢印は総虚時間を固定した挿入時刻の変更を表す。右の橙色の破線は時間方向の欠陥、短い横線は各時刻で変更する同じ結合を表す。格子は局所的な時空の接続を示す模式図である。

非可逆な場合にも、曲線上の局所的な行列要素と接合によって欠陥を定義するが、必ずしも群要素による状態のつなぎ替えにはならない。この線を、他の演算挿入を横切らずに連続的に動かしても相関関数が変わらないとき、線はトポロジカルである。以下では、この性質を持つ欠陥線を対称性として扱う。空間方向の線を動かせることが、対応する演算と時間発展との可換性を与える。Shao, §§2.1–2.2。

二本の平行な線を近づけ、一つの線として扱う操作を融合と呼び、a⊗ba\otimes b と書く。これ以上異なる線の和に分解できない線を単純線と呼ぶ。有限個の単純線について、融合は

a⊗b≅⨁cNab c ca\otimes b\cong\bigoplus_c N_{ab}^{\ c}\,c

と表せる。Nab cN_{ab}^{\ c} は、a,ba,b を cc に接合する独立な仕方の数であり、非負整数である。⊕\oplus は直和を表す。相関関数に直和の線を挿入するとは、各線を挿入した振幅を加えることに対応する。何も挿入しない単位線を 11 と書く。

線 aa に逆の線 a−1a^{-1} があり、融合すると単位線だけになるなら aa は可逆である。融合結果に複数の単純線が現れ、どの線と融合しても単位線だけには戻せないものが非可逆線である。ヒルベルト空間上の対称演算としては、核を持つ演算が具体例になる。ここで扱う有限な対称性は、局所的な欠陥と接合として実現され、以下の整合条件を満たす。Inamura, §2。

2.2 融合則だけでは対称性が決まらない

二本の単純線 a,ba,b を出力の単純線 cc へつなぐ接合演算は、複素係数で線形結合できる。その接合演算のベクトル空間の次元が、§2.1の融合係数 Nab cN_{ab}^{\ c} である。したがって「独立な仕方」とは、この空間の基底に選んだ接合の数を指す。Inamura, §2、Thorngren–Wang, §2.3、式(2.9)の後。

三本の単純線 a,b,ca,b,c を入力に取り、融合結果に含まれる一つの単純線 dd を最終出力として固定する。まず a,ba,b をつなぐ順序では、中間の単純線 ee を選び、a,ba,b から ee への接合と、e,ce,c から dd への接合を続けて置く。a,ba,b から ee への接合の基底番号を μ\mu、e,ce,c から dd への接合の基底番号を ν\nu とすると、接合の選択はそれぞれ Nab eN_{ab}^{\ e} 通り、Nec dN_{ec}^{\ d} 通りある。融合を単純線の直和へ分解するため、両方の接合が存在するすべての ee とこの二つの基底の組合せを取ると、三本から dd への接合空間の基底になる。

まず b,cb,c をつなぐ順序では、中間の単純線 ff を選び、b,cb,c から ff、続いて a,fa,f から同じ dd へ接合する。この二つの接合の基底番号を μ′,ν′\mu',\nu' と書くと、選択の数はそれぞれ Nbc fN_{bc}^{\ f}、Naf dN_{af}^{\ d} である。こちらも両方の接合が存在するすべての ff と基底の組合せを取る。

この二つの順序の入力は、括弧の付け方が異なる複合線 (a⊗b)⊗c(a\otimes b)\otimes c と a⊗(b⊗c)a\otimes(b\otimes c) である。両者を可逆な接合演算で対応させるものが associator(結合子) である:

αa,b,c:(a⊗b)⊗c⟶a⊗(b⊗c)\alpha_{a,b,c}:(a\otimes b)\otimes c \longrightarrow a\otimes(b\otimes c)

右の順序で三本から dd へつなぐ接合の前に αa,b,c\alpha_{a,b,c} を置けば、左の括弧の入力から同じ dd へつなぐ接合になる。この対応によって二つの接合空間を同一視する。一方の基底で表した同じ接合を、他方の基底の線形結合へ書き直す可逆行列が FF であり、その行列要素を FF 記号という。Thorngren–Wang, §2.1、式(2.1)・図2。

図では、行を左の基底番号 (e,μ,ν)(e,\mu,\nu)、列を右の基底番号 (f,μ′,ν′)(f,\mu',\nu') として、左の基底要素を右の基底で展開する係数を F(e,μ,ν),(f,μ′,ν′)F_{(e,\mu,\nu),(f,\mu',\nu')} と記した。

同じ三本の入力 a、b、c と同じ出力 d に対する二つの接合の基底。左は中間の単純線 e と各接合の基底番号 μ、ν、右は中間の単純線 f と基底番号 μ′、ν′ を選ぶ。associator で接合空間を同一視し、左の一つの基底要素を、F 行列の成分を係数とする右の基底要素の線形結合へ展開する。

枝は単純線、点は基底に選んだ接合を表す。左右で入力 a,b,ca,b,c の順序と最終出力 dd を保つ。橙色の枝は中間の単純線 ee または ff で、左は中間線と二つの番号を選んだ一つの基底要素、右は和を取る各基底要素を表す。中央の和は、右で両方の接合が存在する ff とその基底番号 μ′,ν′\mu',\nu' のすべてを取り、対応する FF 行列の成分を係数として掛ける。縦方向は実時間の経過を表さない。

四本の線では、括弧の付け替えを異なる順序で行っても同じ変換になる必要がある。この条件が五角形関係である。associator は演算の積が非結合的であるという意味ではなく、融合を異なる接合の基底で表したときの整合データである。

ユニタリフュージョン圏 C\mathcal C は、有限個の単純線、その直和、融合、線をつなぐ局所的な接合演算、整合的な associator、線の向きを反転する双対をまとめた数学的構造である。圏の「対象」は線、「射」は接合演算に当たり、射の合成は接合演算を続けて置くことに当たる。ユニタリとは、これらの接合空間が内積と随伴を持ち、基底変換をユニタリに選べることを指す。融合係数 Nab cN_{ab}^{\ c} だけを記録したものが融合環であり、フュージョン圏はそれに associator などを加えたものなので、同じ融合環を持つ異なる対称性がありうる。Thorngren–Wang, §§1, 2.3。

線 aa の量子次元 dad_a は、他の演算挿入を囲まない、点へ縮められる aa の閉ループを削除したとき、残る振幅に掛かる係数である。ユニタリフュージョン圏では正の数であり、

d1=1,dadb=∑cNab cdcd_1=1,\qquad d_ad_b=\sum_c N_{ab}^{\ c}d_c

を満たす。通常の状態空間の次元とは違い、整数とは限らない。単純線の可逆性は da=1d_a=1 と同値であり、da>1d_a>1 の単純線は非可逆である。Inamura, §2。

2.3 群の元を並べる場合と、群の表現を並べる場合

表現とは、群の積を保つ行列の割り当てであり、既約表現とは共通の不変部分空間へさらに分解できない表現である。

対称性のデータ単純線のラベル融合含まれる情報
VecG\mathrm{Vec}_G群要素 g∈Gg\in Gg⊗h=ghg\otimes h=ghすべての単純線が可逆。ここでは associator が自明な群作用を表す
VecGω\mathrm{Vec}_G^{\omega}同じ群要素同じ群の積接合の associator に位相 ω(g,h,k)\omega(g,h,k) が入る。§3.3で意味を説明する
Rep(G)\mathrm{Rep}(G)GG の既約表現表現のテンソル積を既約表現へ分解非可換群では次元が2以上の既約表現があり、非可逆線になる

Rep(G)\mathrm{Rep}(G) の量子次元は既約表現の通常の次元に一致する。VecG\mathrm{Vec}_G の「Vec」は、群要素のラベルを付けた有限次元複素ベクトル空間をまとめるという数学的定義に由来する。 通常の GG 対称性の欠陥線は VecG\mathrm{Vec}_G 型であり、Rep(G)\mathrm{Rep}(G) 型の対称性とは別である。 群対称性をゲージ化すると Rep(G)\mathrm{Rep}(G) 型の対称性が現れる場合があるが、それは元の群の元を表現と呼び直すことではない。Bhardwajほか, §§3.3, 4。

3. 一意なギャップ基底状態が許される条件

3.1 真空の集合からモジュール圏へ

ギャップより十分低いエネルギーでは、局所的な励起を除いた基底状態のセクターと、欠陥線がそれらにどう作用するかが残る。この記述を、振幅が距離や形の連続変化に依存しない トポロジカル量子場理論(TQFT) としてまとめる。ここで真空は、熱力学極限で局所観測により区別される純粋な基底状態のセクターを指す。

真空セクターを mim_i と書く。線 aa と入力側の真空 mim_i、出力側の真空 mjm_j が会う局所接合を考える。固定した a,i,ja,i,j に対して接合演算が張る複素ベクトル空間を VjiaV^a_{ji} とし、その次元を njian^a_{ji} と書く。線 aa の作用は、群対称性なら真空の置換だが、一般には

a▹mi≅⨁jnjia mja\triangleright m_i\cong\bigoplus_j n^a_{ji}\,m_j

となる。右辺の直和は、許される出力真空を独立な接合チャネルごとに並べている。線 bb を作用させ、続けて aa を作用させると、中間の真空 mjm_j ごとに接合の仕方を掛け合わせて足す。したがって、nan^a を行列とみなせば、その成分は

∑jnkjanjib=∑cNab cnkic\sum_j n^a_{kj}n^b_{ji} =\sum_c N_{ab}^{\ c}n^c_{ki}

を満たす。右辺は、二本の線を先に a⊗b=⨁cNab cca\otimes b=\bigoplus_cN_{ab}^{\ c}c へ融合してから作用させた場合である。この等式は、二通りの経路で得られる接合空間の次元が一致するための条件である。接合演算の空間についても、逐次作用の経路では各 mjm_j に対する Vkja⊗VjibV^a_{kj}\otimes V^b_{ji} を直和し、融合の経路では a⊗ba\otimes b から単純線 cc を選ぶ接合と VkicV^c_{ki} を組み合わせて直和する。両経路の空間を結ぶ可逆な線形写像と、三本の線に対するその整合性を指定する。真空セクター、接合、作用 ▹\triangleright とこの整合データをまとめたものが C\mathcal C-モジュール圏である。その単純対象は分解できない真空セクターに対応し、単純対象の同型類の数をランクと呼ぶ。

左は線 a が真空 m_i に作用し、接合チャネルの数 n^a_ji に応じて複数の真空 m_j へ分かれる場合。右は真空が一つのままでも、同じ真空へ戻る独立な接合が複数あり得ることを示す。

矢印は真空セクターへの作用を表す。左は複数の出力がある場合で、枝の njian^a_{ji} は各出力への接合の数である。右では真空 mm が一つでも、接合の数 n11an^a_{11} は一つとは限らない。

1+1次元のボソン系でユニタリフュージョン圏を対称性とする標準的な低エネルギー分類では、ギャップ相は対応するモジュール圏で記述される。ここでは、互いに無関係な二つの相を直和として並べた場合を除く。周期境界条件の鎖で数えた真空の数がそのランクであり、SPT相はランク1の場合である。Thorngren–Wang, §2.4, Theorem 3。

3.2 ランク1とファイバー関手

真空が一つなら、線 aa を作用させても同じ真空に戻るが、その接合には複数の独立な仕方がありうる。この接合の空間を有限次元複素ベクトル空間として記録する。物理的には、§2.1の時間方向の欠陥 aa が周期空間の一点を通り続ける場合の、低エネルギーの状態空間としても解釈できる。これが 欠陥でねじったセクターであり、欠陥のない通常の周期鎖とは境界条件が異なる。したがって「一つの真空」と「どの欠陥を入れても状態が一つ」は異なる条件である。

この空間の割り当てを F(a)\mathcal F(a) と書く。接合演算も線形写像へ移す。さらに、線を別々に作用させた場合と融合して作用させた場合を対応させる可逆な写像

Ja,b:F(a)⊗F(b)⟶≅F(a⊗b),F(1)≅CJ_{a,b}:\mathcal F(a)\otimes\mathcal F(b) \overset{\cong}{\longrightarrow}\mathcal F(a\otimes b), \qquad \mathcal F(1)\cong\mathbb C

を与える。Ja,bJ_{a,b} はテンソル構造の写像であり、空間の割り当てだけではSPT相は決まらない。三本の線に対しては、まず左の二本を合わせる経路と、右の二本を合わせる経路が、線の associator を挟んで一致する必要がある:

F(αa,b,c) Ja⊗b,c(Ja,b⊗id)=Ja,b⊗c(id⊗Jb,c).\mathcal F(\alpha_{a,b,c})\, J_{a\otimes b,c}(J_{a,b}\otimes\mathrm{id}) = J_{a,b\otimes c}(\mathrm{id}\otimes J_{b,c}).

右辺・左辺はいずれも、三つの空間 F(a),F(b),F(c)\mathcal F(a),\mathcal F(b),\mathcal F(c) を、F(a⊗(b⊗c))\mathcal F(a\otimes(b\otimes c)) にまとめる写像である。ベクトル空間の通常の括弧の同一視は省略した。

三つのベクトル空間のテンソル積から出発する二つの写像の経路。左は a と b、右は b と c を先にまとめる。左の経路は最後に F(α) を適用し、両経路の合成は同じ右下の空間への写像として一致する。

各式はベクトル空間、矢印は線形写像を表す。左の経路は最初に Ja,bJ_{a,b}、右の経路は最初に Jb,cJ_{b,c} を使う。左下からさらに F(αa,b,c)\mathcal F(\alpha_{a,b,c}) を適用すると、両経路は同じ右下の空間に到達する。整合式は、同じ入力に対する両経路の合成写像が等しいことを要求する。

直和・接合の合成を保ち、こうしたテンソル構造と単位を整合的に持つ割り当て

F:C⟶Vec\mathcal F:\mathcal C\longrightarrow\mathrm{Vec}

をファイバー関手と呼ぶ。対象側の Vec\mathrm{Vec} は、有限次元複素ベクトル空間と線形写像の圏である。ユニタリな場合には内積と随伴にも両立させる。 時間反転を含めない1+1次元のSPT相は、ファイバー関手の同値類で分類される。 同値とは、各空間 F(a)\mathcal F(a) の基底を変え、すべての接合と Ja,bJ_{a,b} を同時に対応させられることをいう。対称性の線の識別は固定する。Inamura, §3.2。

ここで F(a)\mathcal F(a) は零次元にはならない。フュージョン圏では、線 aa と向きを反転した双対線 a∗a^* を融合すると、単位線 11 が成分として含まれる。もし F(a)=0\mathcal F(a)=0 なら、テンソル積を保つため F(a∗⊗a)=0\mathcal F(a^*\otimes a)=0 となるが、直和を保つためその空間には F(1)=C\mathcal F(1)=\mathbb C が含まれるはずであり、矛盾する。

この条件から、まず空間の次元だけについて判定できる。真空が一つのとき、前節の行列は正の整数 na=dim⁡F(a)n_a=\dim\mathcal F(a) になり、行列の等式は

nanb=∑cNab cnc,n1=1n_an_b=\sum_c N_{ab}^{\ c}n_c,\qquad n_1=1

へ縮む。接合空間の次元を掛けてから足す計算なので、nan_a は抽象的な線の量子次元ではなく、ねじったセクターの状態数である。一方、同じ融合則には§2.2の正の量子次元 dad_a も従う。ユニタリフュージョン圏では、単位線で1となる正の次元の解は量子次元に一致するため、SPTでは

dim⁡F(a)=da\dim\mathcal F(a)=d_a

という必要条件がある。これにより、量子次元から一意なギャップ相の可否をまず調べられる。

空間断面が閉じた円である二つの時空の円筒。左には欠陥がなく、低エネルギー空間 F(1) は一次元である。右には時間方向の欠陥 a があり、境界条件の異なる空間 F(a) の次元は d_a である。

左右の円筒の空間断面は閉じた円であり、右だけに時間方向の欠陥 aa がある。SPTの一意性が要求するのは、欠陥のない左の空間 F(1)\mathcal F(1) の次元が1であること。右の空間 F(a)\mathcal F(a) の次元は、同じ真空に対する接合の独立な仕方を数える。円筒の幅や長さは次元やエネルギーを表さない。

例えばIsingフュージョン圏は 1,η,σ1,\eta,\sigma を持ち、η2=1\eta^2=1、ησ=σ\eta\sigma=\sigma、σ2=1⊕η\sigma^2=1\oplus\eta である。ランク1を仮定すると nη2=n1=1n_\eta^2=n_1=1 かつ nη>0n_\eta>0 なので nη=1n_\eta=1、続いて nσ2=n1+nη=2n_\sigma^2=n_1+n_\eta=2 となる。状態空間の次元である正整数 nσn_\sigma に解はない。Fibonacciフュージョン圏の τ2=1⊕τ\tau^2=1\oplus\tau でも nτ2=1+nτn_\tau^2=1+n_\tau の正整数解はない。これらの融合則だけで、基底状態が一意で対称性を保つギャップ相は排除される。対称性の自発的破れを伴うギャップ相や、ギャップレスな系はなお許される。逆に整数解があっても、Ja,bJ_{a,b} と associator の整合条件を解かない限りSPTの存在は示せない。Inamura, §3.2, 式(3.2)、Shao, §§3.1, 3.4.1。

3.3 H2H^2 の分類と H3H^3 の障害

群要素 gg で線をラベル付けする VecG\mathrm{Vec}_G では各線の量子次元が1なので、F(g)=C\mathcal F(g)=\mathbb C である。テンソル写像 Jg,hJ_{g,h} は位相 β(g,h)\beta(g,h) となり、前節の整合式は§1.2の2コサイクル条件へ戻る。これが、ファイバー関手による分類が通常の H2(G,U(1))H^2(G,U(1)) 分類を含む理由である。

一方、群の積自体が同じでも、三本の欠陥線の括り方を (gh)k(gh)k から g(hk)g(hk) へ付け替える associator に位相 ω(g,h,k)\omega(g,h,k) が現れる対称性作用がある。四本の線では、同じ始点と終点の括り方を、三回または二回の付け替えで結べる。

四本の欠陥線 g、h、k、l の五つの括り方を五角形の頂点に置く。一回の付け替えを表す矢印には位相 ω が付き、同じ始点から終点への三辺経路と二辺経路を比較する。

頂点は四本の線の括り方、矢印は三本の線の括り方を一回変える associator を表す。矢印の位相を経路に沿って掛け、二つの経路で同じ変換になることを要求する。

三回の経路と二回の経路に沿う位相の積をそれぞれ書くと、

ω(g,h,k)ω(g,hk,l)ω(h,k,l)=ω(gh,k,l)ω(g,h,kl).\omega(g,h,k)\omega(g,hk,l)\omega(h,k,l) =\omega(gh,k,l)\omega(g,h,kl).

この五角形関係を満たす位相関数 ω\omega を3コサイクルと呼ぶ。次に、二本の線 g,hg,h をつなぐ接合基底を位相 u(g,h)∈U(1)u(g,h)\in U(1) 倍して選び直す。三本の線の左側の括り方には u(g,h)u(gh,k)u(g,h)u(gh,k)、右側には u(h,k)u(g,hk)u(h,k)u(g,hk) が掛かる。

三本の線 g、h、k の二つの接合木。左の二つの接合点には u(g,h) と u(gh,k)、右の二つには u(h,k) と u(g,hk) が付き、接合基底の選び直しが associator の位相 ω を変える。

点に記した uu は各二本の線をつなぐ接合基底の位相である。同じ三本の線の二通りの括り方を比べ、各側の二つの点の位相を掛け合わせる。

左と右の接合全体を、それぞれ括弧付きの三本の線から出力 ghkghk への写像 mL,mRm_L,m_R と書く。associator の位相 ω\omega を mR∘α=ωmLm_R\circ\alpha=\omega m_L で定める。左側の接合を選び直した後は mL′=u(g,h)u(gh,k)mLm'_L=u(g,h)u(gh,k)m_L、右側は mR′=u(h,k)u(g,hk)mRm'_R=u(h,k)u(g,hk)m_R となる。したがって、新しい基底で同じ対応を表す係数には、右側の位相の積を左側の位相の積で割った比が掛かる。

ω′(g,h,k)=ω(g,h,k)u(h,k)u(g,hk)u(g,h)u(gh,k).\omega'(g,h,k) =\omega(g,h,k)\frac{u(h,k)u(g,hk)}{u(g,h)u(gh,k)}.

この比は3コバウンダリである。それだけ異なる3コサイクルを同一視して得る同値類全体を H3(G,U(1))H^3(G,U(1)) と書く。

§3.2の二経路の図と整合式に F(g)=C\mathcal F(g)=\mathbb C、Jg,h=β(g,h)J_{g,h}=\beta(g,h)、F(αg,h,k)=ω(g,h,k)\mathcal F(\alpha_{g,h,k})=\omega(g,h,k) を代入すると、

ω(g,h,k)β(g,h)β(gh,k)=β(h,k)β(g,hk).\omega(g,h,k)\beta(g,h)\beta(gh,k) =\beta(h,k)\beta(g,hk).

例えば抽象群 G=Z2={1,x}G=\mathbb Z_2=\{1,x\} を取り、associator の位相が ω(x,x,x)=−1\omega(x,x,x)=-1、それ以外の三つ組では ω=1\omega=1 となる線の対称性作用を考える。この ω\omega は五角形関係を満たす3コサイクルである。単位線との接合位相を β(1,g)=β(g,1)=1\beta(1,g)=\beta(g,1)=1 と選び、上の整合式に (g,h,k)=(x,x,x)(g,h,k)=(x,x,x) を代入すると、x2=1x^2=1 より

−β(x,x)=β(x,x)-\beta(x,x)=\beta(x,x)

を要求する。ここで Jx,x:C⊗C→CJ_{x,x}:\mathbb C\otimes\mathbb C\to\mathbb C の係数が β(x,x)\beta(x,x) である。Jx,xJ_{x,x} は可逆なので β(x,x)≠0\beta(x,x)\ne0 であり、これは不可能である。§3.1–3.2のランク1の分類では、対称性を保ち真空が一つのギャップ相には、すべての線の接合について整合するファイバー関手が必要になる。この例では (x,x,x)(x,x,x) の接合だけでその整合条件が破れる。同じ抽象群 Z2\mathbb Z_2 でも、ω=1\omega=1 の通常の作用なら β≡1\beta\equiv1 が整合式を満たす。障害を決めるのは群の名前だけでなく、線の接合に指定された ω\omega である。

整合式を ω\omega について解くと、ω=β(h,k)β(g,hk)/[β(g,h)β(gh,k)]\omega=\beta(h,k)\beta(g,hk)/[\beta(g,h)\beta(gh,k)] となる。右辺は接合位相 β\beta の3コバウンダリなので、整合する β\beta を選べるのは [ω]=0[\omega]=0 の場合に限る。この文脈では、[ω]≠0[\omega]\ne0 の対称性線の実現を ’t Hooftアノマリー(anomaly) を持つと呼ぶ。その実現の下では、対称性を保ち真空が一つの1+1次元ギャップ相は存在しない。

通常の1次元オンサイト作用では、領域 RR のサイトだけに作用する Ug(R)=⨂j∈Rug(j)U_g(R)=\bigotimes_{j\in R}u_g^{(j)} を考えられる。三つの演算 Ug(R),Uh(R),Uk(R)U_g(R),U_h(R),U_k(R) は同じサイトに作用し、各サイトで ug(j)uh(j)=ugh(j)u_g^{(j)}u_h^{(j)}=u_{gh}^{(j)} を満たす。したがって、g,hg,h を先に掛けても h,kh,k を先に掛けても、領域上の積は Ughk(R)U_{ghk}(R) になる。この積で対称性線の接合を定めると、三本の線の付け替えを位相 11 で表せる。ゆえに [ω]=0[\omega]=0 である。Else–Nayak, §I.2。

同じ領域Rのサイトに三つの演算U_g(R), U_h(R), U_k(R)が重なる。gとhを先に掛ける左経路と、hとkを先に掛ける右経路は、いずれもU_ghk(R)に合流し、結合子の障害類は零になる。

縦の破線は各行で同じサイトを表し、中央の濃い列はその一つ jj を示す。二通りの積が同じ Ughk(R)U_{ghk}(R) に合流する。

前段で、厳密に1次元のオンサイト作用から作る対称性線には [ω]=0[\omega]=0 を選べると分かった。では、2+1次元系の縁に現れる1+1次元の対称性作用にも同じことが言えるだろうか。この問いでは、全系の演算子がオンサイトかどうかと、境界状態だけに誘導された演算子がどのように作用するかを分けて調べる。以下では群コホモロジーで構成するボソンSPTの固定点模型を一つ取り、境界状態だけに誘導された演算子の作用を計算する。調べる量は、境界の区間に限った gg と hh の作用を一つの ghgh の作用と比較したときに端点へ残る演算子、および三つの作用をまとめる二通りの順序の位相差である。

まず、境界から離れた場所で固定点状態とオンサイト作用を定める。対称性群 GG は有限なユニタリ内部群とし、試料の2次元空間を Σ\Sigma、その1次元の境界を ∂Σ\partial\Sigma と書く。以下では試料の縁を直線とする。一つの物理サイトには四つの GG 値成分があり、各成分は別々のプラケットに属する。逆に一つのプラケットは隣接する四サイトから一成分ずつ受け取る。その四成分を同じ値 zz にそろえて z∈Gz\in G について和を取った状態を ∣Φp⟩|\Phi_p\rangle とすると、バルク内部の固定点状態はプラケット状態の積である:

∣Φp⟩=∑z∈G∣z,z,z,z⟩p,∣Ψ0⟩=⨂p∣Φp⟩.|\Phi_p\rangle=\sum_{z\in G}|z,z,z,z\rangle_p, \qquad |\Psi_0\rangle=\bigotimes_p|\Phi_p\rangle.

ここでは規格化を省いた。物理サイトとプラケットが異なる四成分の束ね方をすることが、後で隣接サイトの位相を相殺させる。Chenほか, §VI.C, 式(29), Fig. 8。

四サイトの各一成分が中央の一プラケットに入り、同じ群元zを持つことを示す。サイトごとの四成分の束とプラケットごとの四成分の束は異なる。

橙の囲みが物理サイト、紫の破線が中央の一プラケットである。中央の四点は四つの別々のサイトから来る。

この状態を保つ対称性演算子を、群の3コサイクル ν3\nu_3 から作る。前段では3コサイクルを三つの群元の関数 ω(g,h,k)\omega(g,h,k) で書いた。ここでの ν3(x0,x1,x2,x3)∈U(1)\nu_3(x_0,x_1,x_2,x_3)\in U(1) は、バルクの3コサイクルを四つの群ラベルで書く表示である。具体的には ν3(x0,x1,x2,x3)=ωbulk(x0−1x1,x1−1x2,x2−1x3)\nu_3(x_0,x_1,x_2,x_3)=\omega_{\mathrm{bulk}}(x_0^{-1}x_1,x_1^{-1}x_2,x_2^{-1}x_3) と定めるので、ωbulk(g,h,k)=ν3(1,g,gh,ghk)\omega_{\mathrm{bulk}}(g,h,k)=\nu_3(1,g,gh,ghk) となる。全ラベルを同じ群元で左から掛けても、ωbulk\omega_{\mathrm{bulk}} に入る三つの群元差は変わらず、ν3\nu_3 も変わらない。前に描いた五角形関係は、この四引数表示では五つの ν3\nu_3 を含む等式になる。基準ラベルを 11 に固定し、二つの成分ラベル (x,y)(x,y) に対する位相を

qg(x,y)=ν3(x,y,g−1,1)q_g(x,y)=\nu_3(x,y,g^{-1},1)

と略記する。各サイト rr の四成分 α1,…,α4\alpha_1,\ldots,\alpha_4 を図の左上から時計回りに番号付けし、四辺に沿う qgq_g の正負の寄与を掛ける:

ur(g)∣α1,α2,α3,α4⟩=Fg(α1,α2,α3,α4)∣gα1,gα2,gα3,gα4⟩,Fg=qg(α1,α2)qg(α2,α3)qg(α4,α3)qg(α1,α4).u_r(g)|\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4\rangle =F_g(\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4) |g\alpha_1,g\alpha_2,g\alpha_3,g\alpha_4\rangle, \qquad F_g=\frac{q_g(\alpha_1,\alpha_2)q_g(\alpha_2,\alpha_3)} {q_g(\alpha_4,\alpha_3)q_g(\alpha_1,\alpha_4)}.

四成分を α=(α1,…,α4)\boldsymbol\alpha=(\alpha_1,\ldots,\alpha_4) とまとめる。五項関係を四辺の qgq_g に用いると、Fg(hα)Fh(α)/Fgh(α)F_g(h\boldsymbol\alpha)F_h(\boldsymbol\alpha)/F_{gh}(\boldsymbol\alpha) に現れる各頂点の位相は隣の辺の逆位相と打ち消し合う。よって各サイトで ur(g)ur(h)=ur(gh)u_r(g)u_r(h)=u_r(gh) が成り立つ。この ur(g)u_r(g) は一つの物理サイトの四成分だけに作用するので、全系の対称性演算子 Ugbulk=⨂rur(g)U_g^{\mathrm{bulk}}=\bigotimes_r u_r(g) はオンサイトである。Chenほか, §VI.C, 式(30)–(31); Appendix G.1。

一つの物理サイトにある四成分のg作用と、周囲の四辺のq_gの正負を示す。

正方形全体が一つの物理サイトである。各辺の位相を掛けたものが FgF_g になる。

開放境界を作る際には、内部の四成分プラケットの並びを試料の縁で止め、そこに残る連結成分にも等値条件を課す。直線状の縁では、隣り合う物理サイトの外縁成分が二つずつ連結され、図の紫の線で示される。各組が一つの有効な境界サイトとなり、左から αi\alpha_i と番号付けする。異なる組のラベルは独立である。各 αi\alpha_i を固定し、内部プラケットごとの独立なラベル β,γ,…\beta,\gamma,\ldots について和を取ると、境界ラベル付き状態は

∣{αi}⟩0=∑β,γ,…∈G∣α1,α2,…;β,γ,…⟩|\{\alpha_i\}\rangle_0 =\sum_{\beta,\gamma,\ldots\in G} |\alpha_1,\alpha_2,\ldots;\beta,\gamma,\ldots\rangle

である。Chenほか, Appendix G.3, Fig. 35, 式(G7)。

三つの物理サイトの下端にある外縁成分を示す。隣り合う二サイトの成分が紫の線で連結されると同じラベルα_iを共有し、次の組は独立なα_{i+1}を持つ。中央サイトの下辺はこの二つの境界ラベルを結ぶ。

紫の線で結ばれた二成分が一つの αi\alpha_i を共有する。中央の物理サイトの橙色の下辺は、隣接する二つの境界ラベル (αi,αi+1)(\alpha_i,\alpha_{i+1}) を結ぶ。

UgbulkU_g^{\mathrm{bulk}} を作用させると、ラベルはすべて左から gg 倍される。内部ラベルの和は β′=gβ\beta'=g\beta などと再添字できる。一方、プラケット状態が等しくした内部の対応辺には qgq_g と qg−1q_g^{-1} が掛かるため、積では消える。外縁の辺だけは片側の寄与が残る。右向きの境界結合 (αi,αi+1)(\alpha_i,\alpha_{i+1}) に残る位相を

fg(αi,αi+1)=qg(αi,αi+1)−1=ν3(αi,αi+1,g−1,1)−1f_g(\alpha_i,\alpha_{i+1}) =q_g(\alpha_i,\alpha_{i+1})^{-1} =\nu_3(\alpha_i,\alpha_{i+1},g^{-1},1)^{-1}

と書く。この相殺は、バルク全体ではサイトごとの演算子を掛けたのに、境界状態上で見える作用には二つの隣接ラベルに依存する係数が残る理由である。Chenほか, Appendix G.3, 式(G4)–(G7)。

内部の共有辺のq_gと逆位相が消え、外縁の結合にf_gが残り、境界ラベルがg倍されることを示す。

内部の対応辺では逆位相が相殺する。橙色の fgf_g は左図の入力ラベル (αi,αi+1)(\alpha_i,\alpha_{i+1}) から求め、右図の出力状態に掛ける。

したがって、境界状態全体に誘導された対称性作用 Ug∂U_g^{\partial} は

Ugbulk∣{αi}⟩0=Ug∂∣{αi}⟩0=[∏(i,i+1)⊂∂Σfg(αi,αi+1)]∣{gαi}⟩0.U_g^{\mathrm{bulk}}|\{\alpha_i\}\rangle_0 =U_g^{\partial}|\{\alpha_i\}\rangle_0 =\left[\prod_{(i,i+1)\subset\partial\Sigma} f_g(\alpha_i,\alpha_{i+1})\right] |\{g\alpha_i\}\rangle_0.

ここで積は向きを右にそろえた境界結合にわたる。Ug∂U_g^{\partial} の各ラベルは gg 倍されるが、その係数は隣接ラベルの組にかかる。非自明な3コサイクルの同値類を調べるときに重要なのは、この境界上の作用を区間に切った後の端点である。Chenほか, Appendix G.3, 式(G5)–(G7); Appendix I, 式(I2)。

境界鎖のラベルのg倍と、右向きの各結合に掛かるf_gを示す。

点の縦矢印はラベルの変換、結合上の橙色の印は入力ラベルの組に依存する位相である。

境界上の区間 I=[xL,xR]I=[x_L,x_R] を選ぶ。区間作用 UgIU_g^I は、区間内のラベルだけを gg 倍し、両端点の間に完全に収まる結合の fgf_g だけを掛ける、と定める。区間の端をまたぐ二本の結合は含めない:

UgI∣{αj}⟩0=[∏(i,i+1)⊂Ifg(αi,αi+1)]∣{gαi}i∈I,{αj}j∉I⟩0.U_g^I|\{\alpha_j\}\rangle_0 =\left[\prod_{(i,i+1)\subset I}f_g(\alpha_i,\alpha_{i+1})\right] |\{g\alpha_i\}_{i\in I},\{\alpha_j\}_{j\notin I}\rangle_0.

この切り方で、二回の作用と一回の作用の差が両端にどう残るかを比較できる。端点を追う時間区間を ItI_t と書く。Else–Nayak, §I.B, Fig. 2, 式(3)–(5)。

境界鎖の区間内のサイトと結合だけがU_g^Iに入り、両端をまたぐ結合は除かれる。両端点を時間方向へ続けると二本の線になる。

中央では青い区間内結合だけに fgf_g を掛け、赤い印のある両端の結合は除く。右の薄紫は gg を作用させる境界上の領域、二本の濃紫の線はその左右端を時間方向へ追ったものである。

同じ二本の境界欠陥線を、バルク側からも見る。固定時刻の2次元バルク Σ\Sigma で、区間の二端点を結ぶ切れ目 CgC_g を引く。切れ目の両側を gg の対称性で貼るという約束を、有限の時間区間 ItI_t にわたって続けると、時空 M=Σ×RM=\Sigma\times\mathbb R 内に欠陥面 Sg=Cg×ItS_g=C_g\times I_t ができる。バルクで描いた CgC_g の端点が、境界時空面 ∂M=∂Σ×R\partial M=\partial\Sigma\times\mathbb R 上にどんな線を描くかを求める。Gaiottoほか, §2。

図の局所座標では Σ={(x,y)∣y≥0}\Sigma=\{(x,y)\mid y\ge 0\}、∂Σ={y=0}\partial\Sigma=\{y=0\} と置き、紫の切れ目を次の半円で表す:

Cg={(c+rcos⁡θ,rsin⁡θ)  |  0≤θ≤π},c=xL+xR2,r=xR−xL2>0.C_g=\left\{\left(c+r\cos\theta,r\sin\theta\right)\;\middle|\;0\le\theta\le\pi\right\}, \qquad c=\frac{x_L+x_R}{2},\quad r=\frac{x_R-x_L}{2}>0.

y=0y=0 となるのは θ=0,π\theta=0,\pi の二点だけである。境界時空面では座標 (x,0,t)(x,0,t) を (x,t)(x,t) と表す。この座標で各点を ItI_t にわたって追うと、Sg∩∂M={xL,xR}×ItS_g\cap\partial M=\{x_L,x_R\}\times I_t となる。これは先ほどの区間作用の両端を、境界時空面に描き直した二本の線である。

固定時刻のバルク空間Σにある紫の半円C_g。その両端x_Lとx_Rは青い空間境界上にあり、境界区間Iの両端に一致する。

「固定時刻」は切れ目 CgC_g と境界区間 II。「時空の面」は同じ弧を各 t∈Itt\in I_t に置いてできる面 SgS_g と、青い境界時空面 ∂M\partial M。「境界時空」はその青い面を正面から示す。二本の紫の線は、どちらも最初の図の xL,xRx_L,x_R を時間方向に追ったものである。

次に、区間作用を二回続けた結果を、一回の作用と比較する。区間内の右向き結合の入力ラベルを (a,b)(a,b) とし、先に hh、次に gg を作用させると、その結合には fh(a,b)fg(ha,hb)f_h(a,b)f_g(ha,hb) が掛かる。一回の ghgh 作用では fgh(a,b)f_{gh}(a,b) である。結合ごとの比を区間全体で掛けたとき、内部ラベルの因子が消えて両端だけに残るかを調べる。

まず四引数を同じ h−1h^{-1} で左から掛けても ν3\nu_3 が変わらないことから、fg(ha,hb)=ν3(a,b,h−1g−1,h−1)−1f_g(ha,hb)=\nu_3(a,b,h^{-1}g^{-1},h^{-1})^{-1} と書き直せる。次に用いる3コサイクルの五項関係は、必要な比の形に直すと

ν3(x0,x1,x2,x4)ν3(x0,x1,x2,x3)ν3(x0,x1,x3,x4)=ν3(x1,x2,x3,x4)ν3(x0,x2,x3,x4).\frac{\nu_3(x_0,x_1,x_2,x_4)} {\nu_3(x_0,x_1,x_2,x_3)\nu_3(x_0,x_1,x_3,x_4)} =\frac{\nu_3(x_1,x_2,x_3,x_4)} {\nu_3(x_0,x_2,x_3,x_4)}.

この式に (x0,x1,x2,x3,x4)=(a,b,h−1g−1,h−1,1)(x_0,x_1,x_2,x_3,x_4)=(a,b,h^{-1}g^{-1},h^{-1},1) を入れると、結合ごとの比は

fg(ha,hb)fh(a,b)fgh(a,b)=λg,h(a)λg,h(b),λg,h(a)=ν3(a,h−1g−1,h−1,1)−1.\frac{f_g(ha,hb)f_h(a,b)}{f_{gh}(a,b)} =\frac{\lambda_{g,h}(a)}{\lambda_{g,h}(b)}, \qquad \lambda_{g,h}(a) =\nu_3(a,h^{-1}g^{-1},h^{-1},1)^{-1}.

この等式の左側は一つの結合での二回と一回の作用の差、右側はその結合の左右の端点に分かれた位相である。例えば連続する (a,b)(a,b) と (b,c)(b,c) では二つの比を掛けると λ(b)\lambda(b) が消え、λ(a)/λ(c)\lambda(a)/\lambda(c) だけになる。全区間でも同様に内部ラベルの因子が消えるので、左右端の入力ラベルを a,ca,c と書けば

UgIUhI=UghIΩg,hI,Ωg,hI∣{αj}⟩0=λg,h(a)λg,h(c)∣{αj}⟩0.U_g^I U_h^I=U_{gh}^I\Omega_{g,h}^I, \qquad \Omega_{g,h}^I|\{\alpha_j\}\rangle_0 =\frac{\lambda_{g,h}(a)}{\lambda_{g,h}(c)} |\{\alpha_j\}\rangle_0.

Ωg,hI\Omega_{g,h}^I は二端点のラベルだけに作用する。従って、二本の欠陥線 g,hg,h を一本の ghgh 線にまとめるとき、左端では残った λg,h(a)\lambda_{g,h}(a) を取り除く接合写像を指定する必要がある。ここではその写像の係数を λg,h(a)−1\lambda_{g,h}(a)^{-1} と取る。右端では逆向きの因子になる。Else–Nayak, §I.B, 式(3)–(5)、Chenほか, Appendix I, 式(I3)–(I10)。

二結合の中央ラベルbにあるλの正負が消え、左右端だけに残る。左端の接合写像には残存λの逆位相を割り当てる。

橙色は結合ごとの比、青い点は左端の接合写像である。図の λ\lambda は二回作用の後に残る因子で、接合写像にはその逆数を使う。

結合子を得るには三つの作用を比較する。右から k,h,gk,h,g の順に作用させ、左端の最初のラベルを aa とする。先に g,hg,h をまとめる経路と、先に h,kh,k をまとめる経路で、取り除く前に残る端点因子はそれぞれ

ΛL=λg,h(ka)λgh,k(a),ΛR=λh,k(a)λg,hk(a).\Lambda_L=\lambda_{g,h}(ka)\lambda_{gh,k}(a), \qquad \Lambda_R=\lambda_{h,k}(a)\lambda_{g,hk}(a).

第一項の引数が kaka なのは、g,hg,h をまとめる時点では kk がすでに左端のラベルを変えているからである。接合写像の係数は残存因子の逆数だから、二つの経路の係数は mL=ΛL−1m_L=\Lambda_L^{-1} と mR=ΛR−1m_R=\Lambda_R^{-1}。前段と同じく左の木 ((gh)k)((gh)k) から右の木 g(hk)g(hk) への付け替え位相を mR/mLm_R/m_L と定めると、ω∂=ΛL/ΛR\omega_{\partial}=\Lambda_L/\Lambda_R である。

三本の境界欠陥線をまとめる二つの接合木に、各段階で残るλ因子を置き、その積の比を比較する。

橙色の λ\lambda は接合前の残存因子である。青い点の接合写像の係数は各因子の逆数であり、二経路の係数比が ω∂\omega_{\partial} になる。

同じ五項関係を今度は (x0,x1,x2,x3,x4)=(a,k−1h−1g−1,k−1h−1,k−1,1)(x_0,x_1,x_2,x_3,x_4)=(a,k^{-1}h^{-1}g^{-1},k^{-1}h^{-1},k^{-1},1) としてこの比に用いると、端点ラベル aa は消え、

ω∂(g,h,k)=λg,h(ka)λgh,k(a)λh,k(a)λg,hk(a)=ν3(k−1h−1g−1,k−1h−1,k−1,1)=ν3(1,g,gh,ghk).\omega_{\partial}(g,h,k) =\frac{\lambda_{g,h}(ka)\lambda_{gh,k}(a)} {\lambda_{h,k}(a)\lambda_{g,hk}(a)} =\nu_3(k^{-1}h^{-1}g^{-1},k^{-1}h^{-1},k^{-1},1) =\nu_3(1,g,gh,ghk).

最後の等号では、四引数をすべて同じ ghkghk で左から掛けても ν3\nu_3 が変わらないことを使った。この四引数で評価した値は、バルクの3コサイクルを三引数で書いた ωbulk(g,h,k)=ν3(1,g,gh,ghk)\omega_{\mathrm{bulk}}(g,h,k)=\nu_3(1,g,gh,ghk) である。選んだ境界の向きと接合規約で二つの代表元は等しい。二本線の接合係数を u(g,h)u(g,h) 倍して選び直すと、前に描いた二つの接合木と同じく、境界の ω∂\omega_{\partial} には右木と左木の位相比 u(h,k)u(g,hk)/[u(g,h)u(gh,k)]u(h,k)u(g,hk)/[u(g,h)u(gh,k)] が掛かる。この比は3コバウンダリなので、不変な主張は

[ω∂]=[ωbulk]∈H3(G,U(1))[\omega_{\partial}]=[\omega_{\mathrm{bulk}}]\in H^3(G,U(1))

である。Chenほか, Appendix I, 式(I11)–(I13)、Bhardwaj–Gaiotto–Kapustin, §3.3, Fig. 17。

向き付き四面体の四頂点1,g,gh,ghkと、境界上の三本の線の二通りの接合木を並べ、両者の3コサイクルの同値類が一致することを示す。

左の四頂点はバルクの ν3\nu_3 の引数、右の二つの木は境界の接合順である。下の等式は、選び直しに依らない H3H^3 の類の一致を示す。

[ωbulk]≠0[\omega_{\mathrm{bulk}}]\ne0 の固定点模型では、境界の接合順の差も [ω∂]≠0[\omega_{\partial}]\ne0 になる。これは前段で調べた、厳密に1次元のオンサイト作用なら [ω]=0[\omega]=0 を選べるという結果と対照的である。全バルクの対称性はサイトごとの積で実現されるが、境界状態に誘導された作用には結合位相が残り、その区間制限の端点は非自明な結合子を持つ。この意味で、境界のアノマリーがバルクの2+1次元群コホモロジーSPTの類を表している。

[ω]=0[\omega]=0 で代表元を ω=1\omega=1 と選べば、整合式は§1.2の2コサイクル条件になる。厳密な1次元系のSPTでは、接合位相の選び直しを同一視した H2(G,U(1))H^2(G,U(1)) が相を区別する。一方、ここで計算した H3(G,U(1))H^3(G,U(1)) の類は、境界の VecGω\mathrm{Vec}_G^\omega 対称性作用を厳密な1次元のオンサイト作用として実現する際の障害を記録する。Thorngren–Wang, §§2.2–2.3、Bhardwajほか, §3.3。

VecGω\mathrm{Vec}_G^\omega では、§3.2のファイバー関手のテンソル写像 Jg,h:C⊗C→CJ_{g,h}:\mathbb C\otimes\mathbb C\to\mathbb C が接合位相 β(g,h)\beta(g,h) である。三本の線についての整合条件がこの節の ω\omega と β\beta の式になり、それを満たす β\beta が存在するのは [ω]=0[\omega]=0 の場合に限る。したがって [ω]≠0[\omega]\ne0 はファイバー関手の不存在としても現れる。§3.2の分類では、一般のユニタリフュージョン圏 C\mathcal C でも、真空が一つで対称性を保つ1+1次元のギャップ相には F:C→Vec\mathcal F:\mathcal C\to\mathrm{Vec} が必要である。この関手が存在しないことを、そのような相への障害としてアノマリーと呼ぶ。

4. 具体例:Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) では何が三つに分かれるか

4.1 線の融合と、鎖上で逆演算が存在しない理由

ここでの D8D_8 は位数8の正方形の二面体群である。90度回転を rr、反射を ss とすると r4=s2=1r^4=s^2=1、srs=r−1srs=r^{-1} を満たす。同じ群を D4D_4 と呼ぶ文献もある。Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) の単純線は、四つの一次元表現 1,ηe,ηo,ηeηo1,\eta_e,\eta_o,\eta_e\eta_o と、一つの二次元表現 DD からなる。一次元表現は Z2×Z2\mathbb Z_2\times\mathbb Z_2 として掛け合わされ、DD については

ηeD=ηoD=D,D⊗D=1⊕ηe⊕ηo⊕ηeηo.\eta_eD=\eta_oD=D,\qquad D\otimes D=1\oplus\eta_e\oplus\eta_o\oplus\eta_e\eta_o.

右辺の直和は、二本の DD 線を融合したときに得られる四つの経路を表す。したがって DD は一本の線に融合して戻る逆線を持たない。量子次元も dD2=1+1+1+1d_D^2=1+1+1+1 から dD=2d_D=2 となる。Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) という指定には、この融合則とともに接合の組み替え方が含まれる。以下の鎖でその圏が実現するという同定には、ゲージ化後に双対な D8D_8 対称性を得る一次資料の結果を用いる。Seifnashri–Shao, §II, App. B.3

偶数個のサイトを持つ周期鎖で Xj,ZjX_j,Z_j を各サイトのパウリ演算子とする。Xj2=Zj2=1X_j^2=Z_j^2=1、XjZj=−ZjXjX_jZ_j=-Z_jX_j であり、別のサイトの演算子とは可換である。

Kj=Zj−1XjZj+1,Hcluster=−∑jKj,ηe=∏j evenXj,ηo=∏j oddXjK_j=Z_{j-1}X_jZ_{j+1},\qquad H_{\rm cluster}=-\sum_jK_j,\qquad \eta_e=\prod_{j\,\mathrm{even}}X_j,\quad \eta_o=\prod_{j\,\mathrm{odd}}X_j

と置く。KjK_j は互いに可換で、周期鎖では独立な Kj=+1K_j=+1 の条件が一意なギャップ付き基底状態を定める。この鎖の非可逆な保存演算 DD は、ηe,ηo\eta_e,\eta_o に不変な局所演算子の間で

DXj=Zj−1Zj+1D,D(Zj−1Zj+1)=XjDDX_j=Z_{j-1}Z_{j+1}D,\qquad D(Z_{j-1}Z_{j+1})=X_jD

という交換を実装する。この二つの式を続けて使うと DKj=KjDDK_j=K_jD となり、クラスター・ハミルトニアンを保つことが分かる。Seifnashri–Shao, §II, 式(4)–(8)

この交換をユニタリ UU による共役変換だと仮定すると、偶数サイトの式をすべて掛けた左辺は UηeU−1U\eta_eU^{-1}、右辺は各奇数サイトの ZZ が二回ずつ現れるので 11 になる。すると ηe=1\eta_e=1 とならなければならないが、全ヒルベルト空間には ηe=−1\eta_e=-1 の状態もある。ゆえに、この交換は全ヒルベルト空間上の可逆な共役変換では実現できない。実際の DD は

D2=(1+ηe)(1+ηo),ηeD=ηoD=DD^2=(1+\eta_e)(1+\eta_o),\qquad \eta_eD=\eta_oD=D

を満たす。ηe\eta_e または ηo\eta_o が −1-1 の状態には D=0D=0 であり、ここに核がある。両方が +1+1 の部分では D2=4D^2=4 となる。この射影を伴う作用こそ、融合則が格子演算子として現れる仕方である。論文の規格化ではクラスター基底状態に D∣cluster⟩=2∣cluster⟩D|\mathrm{cluster}\rangle=2|\mathrm{cluster}\rangle と作用する。係数2は上で求めた dDd_D に一致する。Seifnashri–Shao, §II, 式(7)–(8), App. E.1

ηeとηoの固有値で分けた四つの部分。Dは両方+1の部分でのみ非零で、他の三部分を消す。各領域の面積は状態数を表さない。

4.2 同じ群SPTの内部に、なぜ三つあるのか

クラスター相、odd相、even相は、可逆対称性 ηe,ηo\eta_e,\eta_o だけで見れば同じ非自明な群SPT相に属する。一方、非可逆線 DD の接合まで固定すると、三つは異なる Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) 対称な相になる。群対称な有限深さ回路は三状態を結ぶが、その回路は DD を保たない。Seifnashri–Shao, §III.2, 式(16)–(20)

クラスター状態の構成も、群対称性と回路の関係を具体的に示す。∣+⟩⊗L|+\rangle^{\otimes L} に全隣接結合の controlled-ZZ(CZ)を作用させるとクラスター状態になる。CZは ZZ 基底の ∣11⟩|11\rangle の符号だけを反転する二サイトゲートであり、XjX_j を XjZj+1X_jZ_{j+1} に変える。全結合のCZを掛けた回路 VV は XjX_j を KjK_j に変える。周期鎖で偶数 jj の KjK_j を掛けると、奇数サイトの ZZ が二回ずつ現れて消え、VηeV−1=ηeV\eta_eV^{-1}=\eta_e となる。奇数側も同じである。回路全体は群対称だが、個々のCZは対称ではないので、この計算だけでは群SPTを積状態と同一視できない。Seifnashri–Shao, §I, 式(1)–(3)

8サイト周期鎖の隣接CZを二層で施す。各層では結合がサイトを共有せず、二層で周期境界の結合まで覆う。

クラスター状態で偶数サイトの安定化子を区間 p≤n≤qp\le n\le q で掛けると、内側の ZZ は対になって消え、

⟨Z2p−1(∏n=pqX2n)Z2q+1⟩=1\left\langle Z_{2p-1}\left(\prod_{n=p}^{q}X_{2n}\right)Z_{2q+1}\right\rangle=1

となる。これは群SPTのストリング秩序を具体的に示す。三相の差は、次に調べる DD の接合位相に現れる。

K2、K4、K6の積。内部の奇数サイトのZが二回ずつ消え、両端のZと偶数サイトのXの列が残る。

§3.2で得た一つの真空に DD 欠陥を入れると、その状態空間 F(D)\mathcal F(D) は dD=2d_D=2 次元である。可逆線 gg は g⊗D≅D≅D⊗gg\otimes D\cong D\cong D\otimes g を満たすので、DD の左から gg を接合しても、右から接合しても、この二次元空間の中に戻る。二つの付け方が定める作用は、§3.2のテンソル写像 JJ と接合演算を使って比較する。通常の周期鎖の一意な真空 F(1)\mathcal F(1) では見えなかった、欠陥付き空間の接合情報がここに残る。

可逆線の群を A={1,e,o,d=e+o}≅Z2×Z2A=\{1,e,o,d=e+o\}\cong\mathbb Z_2\times\mathbb Z_2 と書く。e,oe,o は上の ηe,ηo\eta_e,\eta_o に対応する。Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) についての文献の分類では、左と右からの接合を整合的に対応させる位相を、共通の接合規約の下で ν(g)∈{+1,−1}\nu(g)\in\{+1,-1\} と記録する。これは DD 自身の固有値ではなく、同じ gg を欠陥の両側から作用させる 二つの接合の比較 である。二本の可逆線 g,hg,h を一緒に動かす経路と順に動かす経路の差は、圏の結合則に含まれる符号 χ(g,h)\chi(g,h) で決まる。χ\chi は各ラベルについて群積を保つ 双指標(bicharacter) であり、この二経路の整合性から、比較位相 ν\nu は ν(1)=1\nu(1)=1 と

ν(g+h)=ν(g)ν(h)χ(g,h)\nu(g+h)=\nu(g)\nu(h)\chi(g,h)

を満たす。これを χ\chi の 二次形式の細分(quadratic refinement) と呼ぶ。この圏の非対角な χ\chi は χ(e,o)=−1\chi(e,o)=-1、χ(e,e)=χ(o,o)=+1\chi(e,e)=\chi(o,o)=+1 なので、ν(d)=−ν(e)ν(o)\nu(d)=-\nu(e)\nu(o) である。したがって最初の二符号を選ぶと第三の符号が決まる。Thorngren–Wang, §3.2.5

それでも候補は四つある。DD は自分の向きを反転した線と同じであり、その二本を単位線へつなぐ不変な双線形形式がある。D8D_8 の通常の二次元実表現ではこの形式は対称であり、その性質を表す Frobenius–Schur 指標は ϵ=+1\epsilon=+1 である。DD を二本融合する接合の結合則は、符号和 ∑g∈Aν(g)\sum_{g\in A}\nu(g) の符号が ϵ\epsilon と一致することを要求する。この結合則の結果は一次資料に委ね、ここでは四候補への適用を計算する。a=ν(e),b=ν(o)a=\nu(e),b=\nu(o) と書けば

∑g∈Aν(g)=1+a+b−ab={+2(a,b)=(+,+),(+,−),(−,+),−2(a,b)=(−,−).\sum_{g\in A}\nu(g)=1+a+b-ab =\begin{cases}+2&(a,b)=(+,+),(+,-),(-,+),\\-2&(a,b)=(-,-). \end{cases}

したがって最後の候補だけが除かれ、三つのファイバー関手が残る。ファイバー関手は、各線にベクトル空間を対応させ、融合と接合を矛盾なく具体化するデータであり、この条件下で基底状態が一意で対称性を保つギャップ相を分類する。三という数は融合係数や dD=2d_D=2 だけから数えたものではない。Thorngren–Wang, §3.2.4–3.2.5, 式(3.61)

相ν(e)\nu(e)ν(o)\nu(o)ν(d)\nu(d)符号和
cluster+1+1+1+1−1-1+2+2
odd+1+1−1-1+1+1+2+2
even−1-1+1+1+1+1+2+2

行と名称の対応は鎖の可解模型から得られる。Seifnashri–Shao, §IV, 式(27)。odd相とeven相にも同じ D,ηe,ηoD,\eta_e,\eta_o を保存するハミルトニアンがあり、周期鎖で一意なギャップ付き基底状態を持つ。線の名前や接合をまとめて変える双対性は三相を入れ替えうるが、固定した対称性作用を保つ連続なギャップ経路による同一視とは異なる。Mengほか, §§II.D, VI–VII

4.3 符号の差を界面で読む

異なる二相を周期鎖の別々の領域に置くと、二つの界面ができる。界面へ達する DD 線に可逆線 gg を接合し、界面の片側から反対側へ移すことを考える。最初の相で左から右への接合を比較すると位相 νleft(g)\nu_{\rm left}(g) が付き、次の相では逆向きに比較するので νright(g)−1\nu_{\rm right}(g)^{-1} が付く。界面で残る符号は二つの積 νleft(g)/νright(g)\nu_{\rm left}(g)/\nu_{\rm right}(g) である。これは二相のファイバー関手を接ぐ界面での接合関係であり、文献の界面式に対応する。cluster相とodd相では表の oo 列からこの比が −1-1 になるため、g=og=o の線と DD の局所因子が界面で反交換する。Thorngren–Wang, §3.2.5, 式(3.62)

上段では一つの相で可逆線gをDの左右から接合する二経路を比較し、下段では二相の界面をまたぐ同じ比較を示す。

上段の νX(g)\nu_X(g) は相 XX 内で二経路を比較する符号である。下段ではその比較を界面の両側で行うため、残るのは νA(g)/νB(g)\nu_A(g)/\nu_B(g) となる。線の位置関係を示す模式図であり、次の格子模型での反交換は別途演算子から確認する。

この反交換を格子模型で検証するため、周期鎖のサイト 1,…,ℓ1,\ldots,\ell をcluster相、残りをodd相にする。LL は偶数、L−ℓL-\ell は8以上の4の倍数とし、二つの界面の局所因子の支持を離す。局所演算子

Kj=Zj−1XjZj+1,An=Z2n−1X2nZ2n+1,Bn=Y2nX2n+1Y2n+2K_j=Z_{j-1}X_jZ_{j+1},\quad A_n=Z_{2n-1}X_{2n}Z_{2n+1},\quad B_n=Y_{2n}X_{2n+1}Y_{2n+2}

を使うと、周期添字での界面ハミルトニアンは

Hcluster∣odd=−∑j=1ℓKj+∑n=ℓ/2+1L/2An−∑n=ℓ/2+1L/2−2Bn(1+AnAn+1)H_{\mathrm{cluster}|\mathrm{odd}}=-\sum_{j=1}^{\ell}K_j +\sum_{n=\ell/2+1}^{L/2}A_n -\sum_{n=\ell/2+1}^{L/2-2}B_n(1+A_nA_{n+1})

である。各項は可換であり、下の条件を同時に満たす状態では AnAn+1=+1A_nA_{n+1}=+1 だから、最後の括弧は2になる。したがって基底空間は

Kj=+1 (1≤j≤ℓ),An=−1 (ℓ/2<n≤L/2),Bn=+1 (ℓ/2<n≤L/2−2)K_j=+1\ (1\le j\le\ell),\qquad A_n=-1\ (\ell/2<n\le L/2),\qquad B_n=+1\ (\ell/2<n\le L/2-2)

で指定される。条件の独立性も演算子の支持から追える。まず各 BnB_n はodd領域の異なる奇数サイト 2n+12n+1 に XX を含み、ほかの二組はそこに XX を含まない。次に各 AnA_n は対応する偶数サイト 2n2n に XX を含み、残った KjK_j はcluster領域の各サイト jj に固有の XX を含む。したがって非自明な積が単位演算子になる組合せはない。独立な条件の数は ℓ+(L−ℓ)/2+((L−ℓ)/2−2)=L−2\ell+(L-\ell)/2+((L-\ell)/2-2)=L-2 個であり、LL 個の二準位サイトの基底空間は 2L−(L−2)=42^{L-(L-2)}=4 次元となる。Seifnashri–Shao, §IV, 式(21)–(22)

ここまでの条件の独立性と四次元性は上の演算子から直接数えた。全域の対称演算子を界面の局所因子へ分解する射影計算には、一次資料の式(23)–(24)を用いる。PP を四次元基底空間への射影とすると、PP の像の上で

ηo=ηo,Lηo,R,D=(−1)(L−ℓ)/4(DL(1)DR(1)+DL(2)DR(2))\eta_o=\eta_{o,L}\eta_{o,R},\qquad D=(-1)^{(L-\ell)/4}\bigl(D_L^{(1)}D_R^{(1)}+D_L^{(2)}D_R^{(2)}\bigr)

となる。ここで添字 LL は周期鎖の継ぎ目 j=Lj=L、RR は j=ℓj=\ell の界面を指す。Yj=iXjZjY_j=iX_jZ_j と置いたとき、局所因子は

ηo,L=YL−2XL−1ZL,ηo,R=ZℓXℓ+1Yℓ+2,DL(1)=YL−2YL−1ZL,DR(1)=Zℓ+1,DL(2)=ZL−1,DR(2)=ZℓYℓ+1Yℓ+2.\begin{aligned} \eta_{o,L}&=Y_{L-2}X_{L-1}Z_L, &\eta_{o,R}&=Z_\ell X_{\ell+1}Y_{\ell+2},\\ D_L^{(1)}&=Y_{L-2}Y_{L-1}Z_L, &D_R^{(1)}&=Z_{\ell+1},\\ D_L^{(2)}&=Z_{L-1}, &D_R^{(2)}&=Z_\ell Y_{\ell+1}Y_{\ell+2}. \end{aligned}

である。特に左界面の一組は

ηo,L=YL−2XL−1ZL,DL(2)=ZL−1\eta_{o,L}=Y_{L-2}X_{L-1}Z_L,\qquad D_L^{(2)}=Z_{L-1}

と書ける。同じ L−1L-1 サイトの XX と ZZ が反交換し、他の因子は可換だから、

ηo,LDL(2)=−DL(2)ηo,L.\eta_{o,L}D_L^{(2)}=-D_L^{(2)}\eta_{o,L}.

両演算子は二乗が1で、上の基底条件を保つ。実際、各条件との共役で現れる符号を数えると、同一サイトでの反交換は必ず偶数回であり、ハミルトニアンとも可換である。そこで ηo,L=+1\eta_{o,L}=+1 の基底状態へ DL(2)D_L^{(2)} を作用させると、同じエネルギーで ηo,L=−1\eta_{o,L}=-1 の別の状態に移る。右界面では ηo,R\eta_{o,R} の Xℓ+1X_{\ell+1} と DR(1)=Zℓ+1D_R^{(1)}=Z_{\ell+1} が反交換する。両界面の演算子対は離れたサイトを支持し、それぞれ二状態を交換する。先に数えた四次元の基底空間は、この二つの界面自由度で尽くされる。

§4.2の接合計算による νcluster(o)/νodd(o)=−1\nu_{\rm cluster}(o)/\nu_{\rm odd}(o)=-1 は、文献の射影分解を経て、上の局所因子の反交換として現れる。cluster相とeven相では ee 列の比が −1-1 になり、同じ役割の反交換関係は ηe\eta_e に移る。Seifnashri–Shao, §IV, 式(23)–(27)

周期鎖のcluster領域とodd領域の二界面。左界面ではDの局所因子がηo,Lの固有値+1と-1の二状態を入れ替え、右界面にも対応する二状態がある。

5. ゲージ化とSymTFTは何を変え、何を整理するか

5.1 対称性をゲージ化する

アノマリーを持たずゲージ化できる有限群対称性を考える。ゲージ化は、外から固定した対称性のねじれを、和を取る変数に変える操作である。格子では、各結合に、群要素をラベルとする基底ベクトルを持つ自由度を追加する。結合の群要素は、その結合をまたぐときにどの群変換で状態をつなぐかを記録する。

各サイトの状態を独立に群変換し、そこにつながる結合の群要素も同時に変えて、結合をまたぐ物理的な接続を保つ操作を局所ゲージ変換と呼ぶ。例えば、結合の群要素 gg を、右端の状態を左端の状態につなぐ変換として記録する。左端の状態を群要素 hh で変換したら g↦hgg\mapsto hg、右端の状態を hh で変換したら g↦gh−1g\mapsto gh^{-1} と変える。この両方を含めた変換で不変な波動関数だけを残すのが、ゲージ不変な状態への射影である。

各図の上の行は変換前、下の行は変換後。結合gは右端から左端へ作用する。左端だけをhで変えると結合はhg、右端だけをhで変えるとgh⁻¹になる。下半分の右側の上向き矢印は、変換後の右端の状態を元のgの入力へ戻すh⁻¹を表す。

上半分は左端だけ、下半分は右端だけを hh で変える場合を示す。横向きの矢印は、右端の状態を左端の状態につなぐ結合の作用であり、id\mathrm{id} は状態を変えない操作である。左端を変えるときは gg の後に hh を施すため、結合は hghg となる。右端を変えるときは、右側の上向き矢印のように、変換後の状態を元の gg の入力へ h−1h^{-1} で戻す。そのため、新しい結合と右端の変換を続けると (gh−1)h=g(gh^{-1})h=g となり、左端との接続が保たれる。

時空の振幅では、小さい閉路に沿う群要素の順序付き積が単位になる配置について和を取り、局所ゲージ変換で同じになる配置を同一視する。周期空間では、小さい閉路の条件を満たしていても全周の積は単位とは限らないため、全周のねじれを持つセクターも加える。したがって、ゲージ化は元のヒルベルト空間内のユニタリな基底変換とは異なり、自由度、許される状態、対称性の記述を変える。Choiほか, §3.2。

有限群のゲージ化では、群要素の対称線に代わって、群の表現でラベルされる線が現れる。これが VecG\mathrm{Vec}_G と Rep(G)\mathrm{Rep}(G) を結ぶ主要な経路である。SPT相が、ゲージ化後には自発的対称性の破れの異なるパターンで識別されることもある。現れるSSBパターンは、どの部分をゲージ化し、接合にどの位相を付けるかによって変わる。Thorngren–Wang, §3。

非可逆対称性のゲージ化では、単純線の組だけでなく、その和を結合する積と単位を選ぶ。これは代数対象と呼ばれ、線のネットワークを局所的に組み替えても振幅が同じになる条件を満たす。どの線を使うかに加えて、その線の和をどう接合するかも、ゲージ化の指定に含まれる。Choiほか, §3.2。

基底状態が一意で対称性を保つギャップ相が可能かという条件と、指定した線のネットワークについて和を取れるかという条件は、非可逆対称性では一致しない。ファイバー関手がなくても、接合の整合条件を満たすネットワークによる一般化されたゲージ化ができる例がある。したがって、非可逆対称性の「アノマリー」が、基底状態が一意で対称性を保つギャップ相への障害を指すのか、ゲージ化への障害を指すのかは区別する。Choiほか, §3。

クラスター鎖の三相は、可逆な Z2×Z2\mathbb Z_2\times\mathbb Z_2 部分を、特定の接合位相付きでゲージ化するKennedy–Tasaki(KT)変換により区別できる。変換後には三つの可換な Z2\mathbb Z_2 演算があり、元の三相は、どの一つの Z2\mathbb Z_2 部分群を残して他を自発的に破るかが異なる。元の鎖でのストリング秩序は、変換後の記述では局所秩序として読める。KT変換はここでは相を識別する別の記述を与え、同じ対称性を保つギャップ経路そのものを与えるわけではない。Seifnashri–Shao, §III, Table 2。

5.2 一つ上の時空次元に対称性の情報を置く

対称性トポロジカル場理論(SymTFT) は、対称性の線・接合とアノマリーを整理するための、元の理論より時空次元が一つ高い補助的なTQFTである。1+1次元のフュージョン圏対称性には、2+1次元のTQFTを用いる。その区間方向の両端に境界条件を置き、区間を縮めると1+1次元の理論を得る。

補助的な2+1次元SymTFTを区間に置く模式図。左の対称性境界で線と接合のフュージョン圏Cを固定し、右の物理境界で相を指定する。区間方向を縮めると同じCが作用する1+1次元の理論になる。

図の左右の面が二つの境界、その間が補助的な区間である。左の線と接合を固定したまま、右の境界条件を変えて相を比較する。下向きの矢印は、この区間方向を縮める操作を表す。図の長さや角度に物理的な尺度は与えていない。

対称性境界は、境界上の線と接合が指定したフュージョン圏になるよう固定する。物理境界は、具体的なハミルトニアンの低エネルギー理論を選ぶ側であり、異なる相を比較するときに変える。両側がトポロジカルな境界条件なら、得られる1+1次元の理論はギャップ相の低エネルギー記述となる。この補助次元は分類や計算のために導入したものであり、一次元スピン鎖が実際の二次元物質の端にあることを仮定しない。Bhardwajほか, §3.5。

この方法は、真空の数、真空への対称性作用、局所秩序とストリング秩序を共通の枠内で求める。専門文献で用いるDrinfeld中心は、線が他の線を通り抜ける際の整合的な変換を加えた線の集合であり、SymTFT内部の線と一般化された対称性の電荷を記録する。Lagrangian代数は、その内部の線を境界に整合的に吸収する仕方を、境界に余分なトポロジカル自由度を残さない条件も含めて記録した代数対象である。これらはモジュール圏による分類を別の形で計算するための道具であり、ここでは全分類の計算手順までは展開しない。Bhardwajほか, §§3.4.1, 3.5。

6. 自明相、積み重ね、微視的作用

相の積み重ね(stacking)は、二系を並べ、テンソル積ヒルベルト空間と和のハミルトニアンを作る操作である。群対称性なら、二系の同じ群要素を同時に作用させる Ug⊗UgU_g\otimes U_g が再び GG の作用になる。エッジの位相は β1(g,h)β2(g,h)\beta_1(g,h)\beta_2(g,h) と掛け合わされ、自明相を基準に選べば、群SPTの分類は積み重ねに関する群となる。相の可逆性は、この積み重ねで打ち消す相があるかを指す。§2の対称線の可逆性とは、対象も操作も異なる。

同じ対称性を二系の上でも作用させようとして、群の場合をまねて、各可逆線 g∈{1,ηe,ηo,ηeηo}g\in\{1,\eta_e,\eta_o,\eta_e\eta_o\} に g⊗gg\otimes g、非可逆線 DD に D⊗DD\otimes D を割り当てる。この割当てが§4の融合則を保つなら、D2=∑ggD^2=\sum_g g の両辺を二系へ作用させた結果は一致し、(D⊗D)2=∑gg⊗g(D\otimes D)^2=\sum_g g\otimes g となるはずである。右辺は図で囲んだ対角の四項に当たる。一方、割り当てた演算を実際に二乗すると、

(D⊗D)2=(1+ηe+ηo+ηeηo)⊗(1+ηe+ηo+ηeηo)(D\otimes D)^2 =(1+\eta_e+\eta_o+\eta_e\eta_o) \otimes(1+\eta_e+\eta_o+\eta_e\eta_o)

となる。

図の上に(D⊗D)²=D²⊗D²。行見出しは第一の系のD²に現れる1、ηe、ηo、ηeηo、列見出しは第二の系の同じ四項。16個の交点は実際の平方の各項である。丸で囲んだ対角の四交点は、各可逆線gをg⊗gに割り当てて元の融合則を保つと仮定した場合に必要な和を示す。

各交点を、行の演算子と列の演算子のテンソル積として読む。例えば最初の行の第二列は 1⊗ηe1\otimes\eta_e である。この項は、融合則が要求する対角的な 1⊗1,ηe⊗ηe,ηo⊗ηo,(ηeηo)⊗(ηeηo)1\otimes1,\eta_e\otimes\eta_e,\eta_o\otimes\eta_o,(\eta_e\eta_o)\otimes(\eta_e\eta_o) の四項に含まれない。したがって、この割当ては元の融合則を保たない。積み重ねた二系への対称性作用を定めるには追加の指定が要り、フュージョン圏だけから標準的な積み重ね演算やSPT相の群構造は決まらない。この計算が退けるのは上の対角的な割当てであり、他の割当ての可能性は残る。Seifnashri–Shao, §V。

格子上で自明相を指定するときは、どの局所自由度と対称演算を基準にするかが効く。例えば Rep(G)\mathrm{Rep}(G) には、表現行列を忘れてそのベクトル空間だけを残すファイバー関手があり、抽象的な分類ではこれを基準に選べる。§4のクラスター鎖では DD が ∣++⋯+⟩|++\cdots+\rangle を保たず、この抽象的な基準をそのまま格子の対称な積状態と同定できない。Bhardwajほか, §3.3、Seifnashri–Shao, §III。

微視的な長さの情報を含む記述を UV、ギャップより低いエネルギーで残る記述を IR と呼ぶ。近年のオンサイト実現の枠組みでは、アノマリーのないフュージョン圏対称性のUVデータを、フュージョン圏 C\mathcal C と選択したファイバー関手 ff の組として与える。ff は局所空間上の対称性作用を固定し、その作用で対称な積状態を自明相の基準として構成する。ここでの ff は、IRで相を分類するときに比較するファイバー関手全体とは役割が異なる。Mengほか, §I, pp.2–3。

ここでの「オンサイト」は、群の場合のユニタリの単純な積を一般化した意味である。 行列積演算子(MPO) は、各サイトに局所テンソルを置き、隣接サイト間の補助指標を縮約して全系の演算を作る表示をいう。補助指標の次元をボンド次元と呼ぶ。この構成では、線の量子次元に一致するボンド次元などの条件を課すため、局所テンソルから成りながら、全演算は非可逆でありうる。Mengほか, §§II–III。

この枠組みでは、局所自由度にどの対称性の電荷を持たせ、二つの局所自由度をどう組み合わせるかも指定する。この電荷と組み合わせの規則をまとめるものが電荷圏である。群の場合に、各サイトの表現と、表現同士のテンソル積を指定することに対応する。非可逆対称性では、対称線のフュージョン圏に加えて、選択した ff や局所電荷の組み合わせ方が微視的な対称性作用の指定に関わる。Mengほか, §§III, VI。

ここでいう点欠陥は、一次元鎖のある位置に局在する、自由度や結合の局所的な変更である。Mengほかは、一つの実現として、両側の鎖をつなぐ局所自由度を一つのサイトに置く模型を用いる。欠陥の左右の相は同じでも異なっていてもよい。異なるときは、欠陥が二相の界面に位置する。空間では一点に局在するが、時間に沿って追うと1+1次元時空では線を描く。この線は欠陥がどこにあるかを示す。欠陥に付随する局所自由度と、C\mathcal C の線が表す対称操作は役割が異なる。Mengほか, §V.C, §VI, App. G.2。

二つの点欠陥の融合では、その間の相との結合を含めて一つの局所領域にまとめ、残る自由度と対称性作用を調べる。合成結果を欠陥型の和として分解したとき、どの種類が現れ、同じ種類の成分が何回含まれるかが融合の情報である。この「何回」は空間上の欠陥の個数ではなく、分解における重複数を指す。Mengほか, §VI, App. F, 定義F.6。

一次元鎖の二つの点欠陥とその間の領域を点線枠で囲む。下段では、上段と同じ左側の相・右側の相をつなぐ一つの合成結果として描く。上段の橙色の中空円とその左右の橙色の線分は、欠陥の局所自由度と鎖への結合を表す。下段の大きな円は融合結果全体を表し、単一の欠陥型とは限らない。

図は、局所自由度と両側への結合で欠陥を実現する場合を描く。下向きの矢印は、点線枠内の二欠陥と中間の領域を、外側の左相と右相をつなぐ一つの合成結果として扱う対応を示す。下段の円は結果全体を表し、その中に含まれる欠陥型と重複数を調べる。

ファイバー関手によるIRの分類は、一意なギャップ相の候補を与える。格子上でその相を比較するには、UVの対称性作用、局所電荷、点欠陥の融合を指定する。同じ対称線のフュージョン圏に対しても局所電荷や点欠陥の融合が異なる例があり、微視的な対称性作用を固定した分類ではその違いが効く。Mengほか, §§II.D, VI–VII。

7. 分野の見取り図と研究の先端

7.1 確立事項を結ぶ地図

線・融合・接合・結合子を含むフュージョン圏Cから、ファイバー関手F:C→Vecの有無を調べる。存在すれば真空が一つのSPT相が可能で、同値でない関手が相を区別する。存在しなければ真空が一つで対称性を保つギャップ相はなく、複数の真空を持つ相やギャップレス系の可能性が残る。右上の抽象的な相の分類から点線をたどると、固定した微視的な対称性作用でその相を実現できるかという別の問いに移り、局所電荷と界面を比較する。

菱形から伸びる二つの枝はファイバー関手の有無を示す。右上は真空が一つのSPT相、右下は複数の真空を持つ相やギャップレス系の可能性を示す。点線で結んだ最下段は別の判定であり、微視的な対称性作用を固定したときに抽象的な相を実現できるかを問う。

調べること必要なデータこの範囲での答え・制約具体的な検出・計算
対称性は何か線、融合、接合、結合子フュージョン圏。融合環だけでは不十分欠陥の接合、格子演算とねじったセクター
真空が一つで対称性を保つギャップ相が可能か完全なフュージョン圏ファイバー関手の有無。量子次元が整数でないことは障害次元方程式とテンソル写像の整合条件
ギャップ相は何種類あるかモジュール圏ランク1がSPT、複数の真空を持つ場合は別のギャップ相モジュール作用、SymTFTの境界条件
同じ真空数のSPTをどう区別するかファイバー関手のテンソル構造空間の次元が同じでも、接合の実現が違いうる界面自由度、ストリングの端の電荷
群の相とどう結び付くかゲージ化する線とその接合の積ゲージ化が群対称性と非可逆対称性の記述を結ぶ場合がある双対理論のSSBパターン
何を自明相とするか微視的な対称性作用と基準の選択フュージョン圏だけでは標準的な積み重ね・基準は決まらない対称な積状態の実現、局所電荷の融合

この地図での二つの主要な結果は、非可逆でもSPTは存在することと、非可逆なら必ずSPTが存在するわけではないことである。Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) は非可逆SPTが存在する例を、Ising・Fibonacciで現れる整数でない量子次元はSPTが存在しない例を与える。分類、模型構成、診断はそれぞれ別の仕事であり、分類で得た相を、固定した局所ヒルベルト空間と対称性作用で実現できるかは追加の問いとなる。

7.2 この分類から先に進む方向

  • 群の相へ帰着しないNISPT。 離散的なゲージ化によって、いずれの通常の群対称性を持つギャップ相へも移せないNISPTを、近年の文献では intrinsic NISPT と呼ぶ。対応するフュージョン圏は non-group-theoretical と呼ばれ、ここではゲージ化による群型への帰着ができないという意味で用いる。Lu–Sunはそのような相と格子模型を構成している。Rep(D8)\mathrm{Rep}(D_8) で得た直観をすべてのNISPTへ広げられるかを問う方向である。Lu–Sun, §§1, 3。
  • ギャップレスな保護。 同論文の igNISPT は、基底状態が一意なギャップレス系で、UVの全対称性にはアノマリーがないが、IRで実際に区別可能な作用を持つ非可逆対称性にアノマリーが現れる場合を扱う。UVの対称性の一部は、有限のギャップを持つ自由度だけに作用するため、そのギャップより低いエネルギーでは自明に作用する。残るIRの作用にアノマリーがあると、この低エネルギー記述内では対称性を保って自明なギャップを開けられない。ギャップを持つ自由度まで動かすUVの変形では、自明なギャップ相へ進める。この「intrinsic」は、前項のゲージ化で群型へ帰着しないという意味とは別である。これは本ノートのギャップSPTの定義を拡張する方向であり、ランク1のギャップTQFT分類へそのまま含めない。Lu–Sun, §§1, 4。
  • 相転移と微視的実現。 異なるNISPTの間でどの連続転移が可能か、欠陥の電荷をどの格子観測量で測れるか、UVの電荷融合をどこまで保つべきかを調べる。ギャップ相の分類は、境界の縮退や可能な相を制約するが、転移の臨界指数や安定性までは決定しない。Bhardwajほか, §3.4、Mengほか, §VII。
  • 時間反転、フェルミオン、高次元。 時間反転を加える場合は、時空の向きを反転する操作との整合データが追加される。1+1次元のその拡張はInamuraが分類している。フェルミオンや高次元では、対称性と欠陥の種類、低エネルギー理論に必要な構造が増えるため、本ノートの「フュージョン圏からVecへのファイバー関手」を万能な分類式とはしない。Inamura, §4、Lu–Sun, §5。

参照文献の版と対応箇所は文献一覧にまとめる。