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Review of Entanglement Wedge Cross Section (EWCS)

ホログラフィック・エンタングルメントとEWCSのレビュー

対象論文: arXiv:2602.01545

作成日: 2026-02-01

holography quantum-information AdS-CFT

導入:なぜ「断面積」を測るのか?

AdS/CFT対応において、量子情報の幾何学化は目覚ましい成功を収めてきた。その金字塔と言えるのが、エンタングルメント・エントロピー(EE)をバルク(重力理論側)の極小曲面の面積と結びつけた Ryu-Takayanagi (RT) 公式である。

SA=Area(γA)4GNS_A = \frac{\text{Area}(\gamma_A)}{4G_N}

ここで、SAS_A は境界の場の理論(CFT)における部分系 AA のフォン・ノイマン・エントロピー、γA\gamma_A はバルク内で AA と同じ境界を持つ極小曲面(RT面)である。

しかし、RT公式には限界がある。それは、SAS_A があくまで「量子もつれ(Entanglement)」と「古典的な混合」を区別せずに測ってしまう点だ。特に、部分系 AABB が全体として純粋状態にない場合、相互情報量 I(A:B)=SA+SBSABI(A:B) = S_A + S_B - S_{AB} だけでは、相関の量子的な性質(エンタングルメント)と古典的な性質を完全には分離できない。

そこで近年導入されたのが、Entanglement Wedge Cross Section (EWCS) である。

Entanglement Wedge と Phase Transition

EWCSを定義するために、まず Entanglement Wedge (EW) の概念を整理する。

境界上の2つの離れた領域 AABB を考える。この和集合 ABA \cup B のエンタングルメント・エントロピー SABS_{A \cup B} を計算する際、RT面には2つのトポロジーの可能性がある。

Boundary A B EWCS

図1: Connected Phaseにおける Entanglement Wedge(薄青色)と EWCS(赤破線)

Entanglement Wedge MABM_{AB} とは、境界領域 ABA \cup B とそのRT面 γAB\gamma_{AB} に囲まれたバルク領域のことである(図の薄青色の領域)。

EWCS の定義

Entanglement Wedge Cross Section (EWCS), 記号 EW(A:B)E_W(A:B) は、この Entanglement Wedge MABM_{AB}AA 側と BB 側に分割するような曲面の中で、最小の面積を持つものとして定義される。

EW(A:B)=minΣ{Area(Σ)4GNΣMAB, ΣγAB}E_W(A:B) = \min_{\Sigma} \left\{ \frac{\text{Area}(\Sigma)}{4G_N} \bigg| \Sigma \subset M_{AB}, \ \partial \Sigma \subset \gamma_{AB} \right\}

この量は、直感的には**「AABB の間の相関を支えているバルクの喉(throat)の太さ」**を表している。

Reflected Entropy との関係

EWCSは何の双対なのか?最も有力な提案の一つが Reflected Entropy (SRS_R) である。混合状態 ρAB\rho_{AB} に対して、正準的な純粋化を行い、そのエンタングルメント・エントロピーを測ったものが Reflected Entropy である。

SR(A:B)=2EW(A:B)S_R(A:B) = 2 E_W(A:B)

Markov Gap とトポロジカル相転移

arXiv:2602.01545 の理解において決定的なのが、Markov Gap という概念である。

h(A:B)SR(A:B)I(A:B)2EW(A:B)I(A:B)h(A:B) \equiv S_R(A:B) - I(A:B) \approx 2E_W(A:B) - I(A:B)

この量は、状態がどれだけ「マルコフ連鎖的か」を表す指標となる。トポロジカル秩序や強いエンタングルメントが存在する場合、この Gap は大きな値を持つ。

まとめ

最新論文を読み解く鍵は、単にエンタングルメント・エントロピーを見るだけでなく、「混合状態の相関構造」を EWCS という幾何学的レンズを通して見ることにある。

参考文献

  1. T. Takayanagi and K. Umemoto, “Entanglement of Purification through Holographic Duality,” Nature Phys. 14, 573 (2018). [arXiv:1708.09393]
  2. S. Dutta and T. Faulkner, “A Canonical Purification for the Entanglement Wedge Cross-Section,” JHEP 2103, 178 (2021). [arXiv:1905.00577]