KdV方程式と逆散乱法

KdV方程式と逆散乱法

1. 導入

KdV 方程式は、浅い水域を進む長い水面波のモデルとして現れる。静止時の水面からの変位を上向き正に測り、無次元化したものを η(x,t)\eta(x,t) と書く。空間と時間も無次元化すると、方程式は

ηt+6ηηx+ηxxx=0(1)\eta_t+6\eta\eta_x+\eta_{xxx}=0 \tag{1}

と書ける。η=0\eta=0 は基準の水面の高さ、η>0\eta>0 は水面の盛り上がりを表す。1 本ノートでは流体力学から方程式を導くことには立ち入らず、その解の形と運動を調べる。

KdV方程式はソリトンという興味深い解をもつことが知られている。 この解は孤立した波束であり、形が崩れることなく一定の速度で運動するようなものである。 さらに、速度の異なるソリトンを重ね合わせた 2 初期条件を考えることで、ソリトンを衝突させることができる。 不思議なことに、ソリトンは相互作用をした後でも形を崩さず個性を保つ。 線形な方程式で2つの波がすり抜けるというのならわかるが、KdV方程式は非線形なのだから、ソリトンがぶつかるときの様子は単純な重ね合わせではない。しかし、少し時間を進めてやれば波はもとの綺麗なソリトンの集まりに戻っていく。

2つのソリトンの衝突数値シミュレーション
Numerical KdV soliton collision Solid curve: numerically evolved surface displacement eta. Dashed curve: initial profile. Time can be selected with the slider.
−50-50
00
5050
00
11
22
33
η\eta
xx
numerical solution\text{numerical solution}initial profile\text{initial profile}

Press Play to compute the evolution in your browser.

高い波が低い波に追いつく。衝突中の形と、離れた後の2つの波を、再生または時刻スライダーで比べてみよう。 破線は初期波形。
初期条件・計算方法

本文のKdV方程式 ηt+6ηηx+ηxxx=0\eta_t+6\eta\eta_x+\eta_{xxx}=0 を数値積分し、グラフには η\eta を表示する。

η(x,0)=2 sech⁡2(x+20)+12 sech⁡2((x+8)/2)\eta(x,0)=2\,\operatorname{sech}^2(x+20)+\tfrac12\,\operatorname{sech}^2((x+8)/2)

周期区間 −50≤x<50-50\le x<50 を512点に分け、刻み幅 Δt=0.0025\Delta t=0.0025 で 0≤t≤80\le t\le8 を計算する。空間微分はフーリエ法、時間発展は線形分散と非線形項のStrang分割を用いる。線形部分はフーリエ空間で厳密に進め、非線形部分は4次Runge–Kutta法で進める。高波数の混入を抑えるため、非線形積の計算では2/3則を用いる。

実線は各時刻の数値解で、表示フレームの間隔は 0.050.05。無限区間の厳密解を表示しているわけではない。周期境界では波が端を越えると反対側から戻るため、ここでは主要な波が端を越える前までを表示する。

計算後に、保存量の相対変化をここに表示する。

分割法の参考:Holden, Karlsen & Risebro (1999)。

さらに不思議なことに、初期状態をソリトンの重ね合わせにしなくとも、時間発展させれば勝手にソリトンに分かれてしまうという現象が広く見られる。 つまり、ソリトンというのはKdV方程式の解の中でありふれた構造であり、その裏に何かありそうである。

幅の広い波の分裂数値シミュレーション
Numerical KdV evolution of a broad pulse Solid curve: numerically evolved surface displacement eta. Dashed curve: initial profile. Time can be selected with the slider.
−50-50
00
5050
00
11
22
33
η\eta
xx
numerical solution\text{numerical solution}initial profile\text{initial profile}

Press Play to compute the evolution in your browser.

初めはなだらかな1つの波でも、時間を進めると高さと速さの異なる波に分かれていく。 破線は初期波形。
初期条件・計算方法

本文のKdV方程式 ηt+6ηηx+ηxxx=0\eta_t+6\eta\eta_x+\eta_{xxx}=0 を数値積分し、グラフには η\eta を表示する。

η(x,0)=1.8exp⁡[−((x+20)/6)2]\eta(x,0)=1.8\exp[-((x+20)/6)^2]

周期区間 −50≤x<50-50\le x<50 を512点に分け、刻み幅 Δt=0.0025\Delta t=0.0025 で 0≤t≤80\le t\le8 を計算する。空間微分はフーリエ法、時間発展は線形分散と非線形項のStrang分割を用いる。線形部分はフーリエ空間で厳密に進め、非線形部分は4次Runge–Kutta法で進める。高波数の混入を抑えるため、非線形積の計算では2/3則を用いる。

実線は各時刻の数値解で、表示フレームの間隔は 0.050.05。無限区間の厳密解を表示しているわけではない。周期境界では波が端を越えると反対側から戻るため、ここでは主要な波が端を越える前までを表示する。

計算後に、保存量の相対変化をここに表示する。

分割法の参考:Holden, Karlsen & Risebro (1999)。

またKdV方程式は他の多くの非線形偏微分方程式と違って、初期値問題を厳密に解く方法が存在するという著しい特徴をもっている。 この解法は逆散乱法と呼ばれていて、その鍵は非線形な方程式の裏に隠れた線形な問題を見抜くことにある。 KdV方程式の場合、裏に隠れているのは量子力学でもお馴染みのSchrödinger方程式である。 水面波の問題を考えていたのに量子力学が現れてくる、というのはなんだか素敵ではないだろうか。

この記事の目標の1つ目は、KdV方程式が好き勝手に非線形項を加えた汚い方程式ではなく、隠れた構造を備えた方程式であると説明することである。 もっともこの記事で扱う内容は表層であり、より深い数理については[1]など専門的な文献を参照してほしい。

2つ目の目標は、逆散乱法を用いてKdV方程式のソリトン解を具体的に求めることである。

さらに、逆散乱法で得た変換核を擬微分作用素で表し、自由波の微分との関係から KdV 階層の発展則と無限個の保存量を導く。散乱の逆問題を解くための変換が、時間発展を構成する仕組みにもなることを見る。

2. ソリトンと等スペクトル変形

2.1. 1ソリトン解と2ソリトン解

一つの波が形を保って進むとき、その波形はどのように決まるのだろうか。まず、形を保って速度 v>0v>0 で移動する進行波 η(x,t)=η(x−vt,0)\eta(x,t)=\eta(x-vt,0) を求めよう。この小節のプライムは、時刻0の波形 η(x,0)\eta(x,0) の xx 微分を表す。KdV 方程式に代入すると

η′′′=vη′−6ηη′.(2)\eta'''=v\eta'-6\eta\eta'. \tag{2}

η,η′,η′′\eta,\eta',\eta'' が両端で0に減衰すると仮定し、無限遠での値を使って積分すると

η′′=vη−3η2.(3)\eta''=v\eta-3\eta^2. \tag{3}

さらに 2η′2\eta' を掛けると、両辺が全微分になる。

ddx(η′)2=ddx(vη2−2η3).(4)\frac{d}{dx}(\eta')^2=\frac{d}{dx}(v\eta^2-2\eta^3). \tag{4}

もう一度無限遠の境界条件を使って積分すれば

(η′)2=vη2−2η3.(5)(\eta')^2=v\eta^2-2\eta^3. \tag{5}

この方程式には次の局在した波形がある。

η(x,0)=v2sech⁡2 ⁣(v2x).(6)\eta(x,0)=\frac v2\operatorname{sech}^2\!\left(\frac{\sqrt v}{2}x\right). \tag{6}

ここで sech⁡x=1/cosh⁡x\operatorname{sech}x=1/\cosh x である。3 時刻 tt では xx を x−vtx-vt に置き換える。振幅は v/2v/2、幅の尺度は 2/v2/\sqrt v なので、高い波ほど速く、幅は狭くなる。

η(x,t)=v2 sech⁡2 ⁣(v2(x−vt))\eta(x,t)=\dfrac{v}{2}\,\operatorname{sech}^{2}\!\left(\dfrac{\sqrt{v}}{2}(x-vt)\right)
Analytic one-soliton profile and its translation The surface displacement eta is shown at the selected speed and time.
η\eta
xx
22
00
−12-12
00
1212
解析式を直接プロットした。vv を変えると速度・高さ・幅が連動して変わり、tt は形を保ったまま平行移動させる。

二つのソリトンが衝突する解も書ける。速度 v1>v2>0v_1>v_2>0 と位置を指定する実定数 x1,x2x_1,x_2 を用い、θj=vj2(x−vjt−xj)\theta_j=\frac{\sqrt{v_j}}{2}(x-v_jt-x_j)(j=1,2j=1,2)と置くと、

η(x,t)=2∂x2log⁡[1+e2θ1+e2θ2+(v1−v2v1+v2)2e2(θ1+θ2)].(7)\eta(x,t)=2\partial_x^2\log\Bigl[1+e^{2\theta_1}+e^{2\theta_2} +\left(\frac{\sqrt{v_1}-\sqrt{v_2}}{\sqrt{v_1}+\sqrt{v_2}}\right)^2e^{2(\theta_1+\theta_2)}\Bigr]. \tag{7}

この式を KdV 方程式に代入すれば、確かに解だと確認できる。けれども、式を眺めても、なぜ非線形な相互作用を経て二つの波の形と速さが保たれるのかは、まだわからない。個々の解を書き下すことから、それらに共通する構造へ目を向けよう。波形が変化する間、何が保たれているのだろうか。

2.2. Lax表示

Lax 表示では、KdV 方程式を Schrödinger 演算子を含む二つの微分演算子の関係として表す。以下ではその具体形を与え、KdV 方程式との同値性と、時間発展で固有値が保たれることを確かめる。

量子力学では、周囲より低いポテンシャルが粒子の閉じ込めを生む。山状の波 η>0\eta>0 をその低いポテンシャルに対応させるため、ここで変数を

u(x,t)=−η(x,t)u(x,t)=-\eta(x,t)

に切り替え、以後はポテンシャル uu を使う。式 (1) に代入すると、その時間発展は

ut=6uux−uxxx(8)u_t=6uu_x-u_{xxx} \tag{8}

となる。この uu を用いて、次の二つの演算子を定める。

L(t)=−∂2+u,B(t)=−4∂3+6u∂+3ux(9)\begin{aligned} L(t) = -\partial^2 + u,\quad B(t) = -4\partial^3 + 6u\partial + 3u_x \end{aligned}\tag{9}

表記について注意をすると、∂\partialはxxに関する偏微分を表す演算子とする。 またuuと書いた場合、u(x,t)u(x,t)を左から掛ける演算子を表すことにする。uxu_xなどに関しても同様である。

L(t),B(t)L(t),B(t)をLax対と呼ぶ。 またL(t)L(t)はLax演算子と呼ばれ、今の場合1次元の量子力学のHamiltonianと同じ形をしている。 L(t),B(t)L(t), B(t)によって、KdV方程式(8)は

dLdt=[B(t),L(t)](10)\begin{aligned} \frac{\mathrm{d} L}{\mathrm{d} t} = [B(t), L(t)] \end{aligned}\tag{10}

と書き換えられる。これをLax方程式と呼ぶ。また与えられた方程式を(10)のように表すことをLax表示という。 Lax表示はKdV方程式に特有のものではなく、多くの可積分系に対するLax表示が知られている。

KdV方程式とLax方程式(10)が同値であることを証明しよう。 (10)の左辺は

dLdt=ut\begin{aligned} \frac{\mathrm{d} L}{\mathrm{d} t} = u_t \end{aligned}

となる。つぎに右辺を計算すると、

[B(t),L(t)]=[−4∂3+6u∂+3ux,−∂2+u]\begin{aligned} [B(t), L(t)] & = [-4\partial^3 + 6u\partial + 3u_x, -\partial^2 + u] \end{aligned} =−4(uxxx+3uxx∂+3ux∂2)+6uux\begin{aligned} & = -4(u_{xxx} + \cancel{3u_{xx}\partial} + \bcancel{3u_x\partial^2})+ 6uu_x \end{aligned} +6(uxx∂+2ux∂2)\begin{aligned} &\quad + 6(\cancel{u_{xx}\partial} +\bcancel{ 2u_x\partial^2}) \end{aligned} +3(uxxx+2uxx∂)\begin{aligned} &\quad + 3(u_{xxx} + \cancel{2u_{xx}\partial}) \end{aligned} =6uux−uxxx\begin{aligned} & = 6uu_x - u_{xxx} \end{aligned}

となる。両辺を等号で結ぶことでKdV方程式を得る。Lax方程式は演算子の等式であったが、両辺が微分演算子∂\partialを含まないために、uuに対する偏微分方程式とみなせる。

Lax方程式(10)では、B(t)B(t)は時間発展の生成子となっている。するとLax方程式は Hamiltonian L(t)L(t)のB(t)B(t)による時間発展を考えていることになる。 ここで、L(0)L(0)を対角化して

L(0)ψ(x,0)=λψ(x,0)(11)\begin{aligned} L(0)\psi(x, 0) = \lambda \psi(x, 0) \end{aligned}\tag{11}

と書く。ψ(x,0)\psi(x, 0)はL(0)L(0)の固有値λ\lambdaの固有関数である。これを時間発展させてみよう。 ψ(x,t)\psi(x, t)の時間発展を記述する方程式として、

ψ(x,t)=U(t)ψ(x,0),dU(t)dt=B(t)U(t),U(0)=I(12)\begin{aligned} \psi(x, t) = U(t)\psi(x, 0),\quad \frac{\mathrm{d} U(t)}{\mathrm{d} t} = B(t)U(t),\quad U(0) = I \end{aligned}\tag{12}

を課す。II は恒等演算子である。Lax 方程式を使い、ψ(x,t)\psi(x,t) が L(t)L(t) の固有関数でもあることを示そう。

(11)の両辺に左からU(t)U(t)を掛けると、

U(t)L(0)U(t)−1ψ(x,t)=λψ(x,t).(13)\begin{aligned} U(t)L(0)U(t)^{-1}\psi(x,t) = \lambda \psi(x,t). \end{aligned}\tag{13}

となる。ここで、U(t)L(0)U(t)−1U(t)L(0)U(t)^{-1}を時間微分する。 U(t)U(t)−1=IU(t)U(t)^{-1} = Iを時間微分すると

ddtU(t)−1=−U(t)−1B(t)(14)\begin{aligned} \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} t}U(t)^{-1} = - U(t)^{-1}B(t) \end{aligned}\tag{14}

が分かるので、

ddt(U(t)L(0)U(t)−1)=[B(t),U(t)L(0)U(t)−1](15)\begin{aligned} \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} t}\left(U(t)L(0)U(t)^{-1}\right) = [B(t), U(t)L(0)U(t)^{-1}] \end{aligned}\tag{15}

となる。これはLax方程式なので、初期条件U(0)L(0)U(0)−1=L(0)U(0)L(0)U(0)^{-1} = L(0)から、

U(t)L(0)U(t)−1=L(t)(16)\begin{aligned} U(t)L(0)U(t)^{-1} = L(t) \end{aligned}\tag{16}

となる。この両辺をψ(x,t)\psi(x,t)に作用させて、

L(t)ψ(x,t)=λψ(x,t)(17)\begin{aligned} L(t)\psi(x, t) = \lambda \psi(x, t) \end{aligned}\tag{17}

となる。 すなわち、B(t)B(t)によって時間発展する波動関数ψ(x,t)\psi(x, t)は、任意の時刻でL(t)L(t)の固有関数である。 さらに、ψ(x,t)\psi(x,t)に対するL(t)L(t)の固有値は常にλ\lambdaで時間に依存しない。 4

固有値保存に加えて、U(t)U(t) はユニタリなので波動関数のノルムも保つ。このユニタリ性は、発展方程式 dU/dt=B(t)U(t)\mathrm{d}U/\mathrm{d}t=B(t)U(t) の生成子 BB が反エルミートであることから従う。以下で B†=−BB^\dagger=-B を示す。

ここでは実数値の uu と、滑らかで無限遠で急減衰する関数を考える。部分積分で境界項が消えるため ∂†=−∂\partial^\dagger=-\partial であり、uu による掛け算は自己随伴である。

反エルミート性は、u∂u\partial と ∂u\partial u を対にした形に直すと見える。積の微分則 ∂u=u∂+ux\partial u=u\partial+u_x で BB を書き直し、積の随伴では順序を逆にすると、

B=−4∂3+3(u∂+∂u),B†=4∂3−3(∂u+u∂)=−B.\begin{aligned} B&=-4\partial^3+3(u\partial+\partial u),\\ B^\dagger&=4\partial^3-3(\partial u+u\partial)=-B. \end{aligned}

2.3. 逆散乱法の概観

Lax方程式がL(t)=−∂2+uL(t) = -\partial^2 + uの等スペクトル条件を意味することを見た。これを利用して、KdV方程式を量子力学における散乱の逆問題に置き換えることができる。この解法を逆散乱法と呼ぶ。

逆散乱法では、まず散乱データと呼ばれる量を求める。これはポテンシャルu(x,t)u(x, t)に対するスペクトルと、束縛解・散乱解の遠方での漸近的な振る舞いをまとめたものである。 実はt=0t = 0での散乱データが分かれば、任意のttでの散乱データは簡単に分かってしまう。スペクトルに関しては、これが時間変化しないことから明らかだろう。

散乱データからポテンシャルu(x,t)u(x, t)を復元するのは散乱の逆問題と呼ばれ、Gel’fand-Levitan-Marchenko方程式という積分方程式によって解かれる。求まったu(x,t)u(x, t)がKdV方程式の解となる。

2.4. 散乱データとその時間発展

以下では uu は実数値で滑らかとし、すべての導関数が両端で任意のべきより速く減衰すると仮定する。遠方では Schrödinger 方程式は自由方程式に近づく。負の固有値 −κn2-\kappa_n^2 に対する自由解は e±κnxe^{\pm\kappa_nx} であり、左端で減衰するのは eκnxe^{\kappa_nx} である。

Schrödinger 方程式 (−∂x2+u(x,t))ψ(x,t)=λψ(x,t)(-\partial_x^2+u(x,t))\psi(x,t)=\lambda\psi(x,t) の束縛状態の互いに異なる固有値を λ=−κn2\lambda=-\kappa_n^2(n=1,…,Nn=1,\ldots,N)とする。束縛状態を L2(R)L^2(\mathbb R) で規格化し、左端の漸近形が正の係数をもつよう位相を選ぶと

ψn(x,t)∼cn(t)eκnx(x→−∞),cn(t)>0.(18)\psi_n(x,t)\sim c_n(t)e^{\kappa_nx}\quad(x\to-\infty),\qquad c_n(t)>0. \tag{18}

この左端振幅 cn(t)c_n(t) が、束縛状態の規格化定数である。

c n is the normalized bound state's left-tail amplitude A localized normalized bound-state profile has its left tail highlighted. A leader connects this tail to c n of t times exp kappa n x, as x tends to minus infinity. The normalization integral equals one for the complete state.
∫R∣ψn(x,t)∣2 dx=1\int_{\mathbb R}|\psi_n(x,t)|^2\,dx=1
ψn(x,t)\psi_n(x,t)
cn(t) eκnxc_n(t)\,e^{\kappa_nx}
x→−∞x\to-\infty
xx
全体のノルムを1にそろえた束縛状態の、左端の尾に付く係数が cn(t)c_n(t) である。図は一つの束縛状態を模式的に示している。

散乱状態では λ=k2\lambda=k^2 とし、左から入射する解を選ぶ。その遠方での形を

ψ(x,t)∼{eikx+b(k,t)e−ikx,x→−∞,a(k,t)eikx,x→+∞(19)\psi(x,t)\sim \begin{cases} e^{ikx}+b(k,t)e^{-ikx},&x\to-\infty,\\ a(k,t)e^{ikx},&x\to+\infty \end{cases} \tag{19}

とする。aa は透過係数、bb は左反射係数である。κn,cn(t),a(k,t),b(k,t)\kappa_n,c_n(t),a(k,t),b(k,t)をまとめたものを散乱データと呼ぶ。

Transmission a, reflection b The incident wave points right from the upper left toward the potential. The transmitted wave a points right on a separate lower row to the right of the potential. The reflected wave b points left on the lowest row. Vertical offsets separate the three components schematically.
Incident\text{Incident}
eikxe^{ikx}
Transmitted\text{Transmitted}
a(k) eikxa(k)\,e^{ikx}
Reflected\text{Reflected}
b(k) e−ikxb(k)\,e^{-ikx}
u(x)u(x)
透過波の係数が aa、反射波の係数が bb である。三つの波を区別できるよう上下に分けた模式図で、入射波の係数は1としている。

遠方では B(t)=−4∂x3+6u∂x+3uxB(t)=-4\partial_x^3+6u\partial_x+3u_x の自由部分 −4∂x3-4\partial_x^3 が波の時間位相を決める。左端の束縛状態の尾 eκnxe^{\kappa_nx} には −4κn3-4\kappa_n^3 が掛かるので

cn(t)=e−4κn3tcn(0).(20)c_n(t)=e^{-4\kappa_n^3t}c_n(0). \tag{20}

散乱波では eikxe^{ikx} の時間因子が e4ik3te^{4ik^3t}、e−ikxe^{-ikx} の時間因子が e−4ik3te^{-4ik^3t} である。入射振幅をまだ1に戻していない時間発展解は左端で

e4ik3teikx+b(k,0)e−4ik3te−ikx,e^{4ik^3t}e^{ikx}+b(k,0)e^{-4ik^3t}e^{-ikx},

右端で a(k,0)e4ik3teikxa(k,0)e^{4ik^3t}e^{ikx} となる。入射係数を1に戻すため全体を e4ik3te^{4ik^3t} で割ると

a(k,t)=a(k,0),b(k,t)=e−8ik3tb(k,0).(21)a(k,t)=a(k,0),\qquad b(k,t)=e^{-8ik^3t}b(k,0). \tag{21}

よって固有値と透過係数は一定であり、左端振幅と左反射係数は (20)、(21) に従って変化する。

2.5. 束縛状態とソリトンの運動

散乱データの時間発展が求まったので、逆散乱問題を解けば u(x,t)u(x,t) が求まる。具体的な計算に入る前に、一つのポテンシャルが、異なる速度で移動する複数のソリトンへ分裂していく様子を、束縛状態の動きから感覚的に理解しておこう。

初期状態の左端と右端の尾の係数を、それぞれ cn(0)c_n(0)、c~n(0)\tilde c_n(0) と書くと、

ψn(x,t)∼{cn(0)eκn(x−4κn2t),x→−∞,c~n(0)e−κn(x−4κn2t),x→+∞(22)\psi_n(x,t)\sim \begin{cases} c_n(0)e^{\kappa_n(x-4\kappa_n^2t)},&x\to-\infty,\\[2pt] \tilde c_n(0)e^{-\kappa_n(x-4\kappa_n^2t)},&x\to+\infty \end{cases} \tag{22}

となる。左右の尾は、どちらも速度 4κn24\kappa_n^2 で右へ移動する。十分に遠方の尾が担うノルムは小さく、ほぼ全てのノルムはその間の主要部分にある。ノルムを 11 に保つには、この主要部分も両側の尾とともに移動しなければならない。

複数の束縛状態がある場合、それぞれの速度 4κn24\kappa_n^2 は異なる。それでも、別々の速度で移動する ψn(x,t)\psi_n(x,t) は、どの時刻でも全て同じポテンシャル u(x,t)u(x,t) の固有状態でなければならない。一つの u(x,t)u(x,t) が、異なる場所へ離れていく束縛状態を、それぞれの場所で局在させなければならないのである。このため、ポテンシャルも各束縛状態の移動に伴って複数の谷へ分裂していく。この移動する谷が、uu で表したソリトンである。

下図では、初めに中心をそろえた三つの束縛状態と、それらに共通するポテンシャルの時間発展を計算した。再生すると、束縛状態が異なる場所へ移動し、それに伴ってポテンシャルが三つの谷に分かれていく様子を確かめられる。

u(x,t)u(x,t)ψ1(x,t)\psi_1(x,t)ψ2(x,t)\psi_2(x,t)ψ3(x,t)\psi_3(x,t)
実線はポテンシャル u(x,t)u(x,t)、破線は三つの束縛状態の固有関数 ψn(x,t)\psi_n(x,t) である。固有値は λ1=−1,  λ2=−4,  λ3=−9\lambda_1=-1,\;\lambda_2=-4,\;\lambda_3=-9。細い点線が各固有値の高さを示す。再生すると、同じ位置にあったポテンシャルと固有状態が分かれて移動する。
計算方法と表示範囲

初期ポテンシャルは u(x,0)=−12sech⁡2xu(x,0)=-12\operatorname{sech}^2x。反射係数が0、κ1=1,  κ2=2,  κ3=3\kappa_1=1,\;\kappa_2=2,\;\kappa_3=3、左端振幅が (c1(0)2,c2(0)2,c3(0)2)=(12,60,60)(c_1(0)^2,c_2(0)^2,c_3(0)^2)=(12,60,60) の散乱データを使う。後の無反射の場合の復元式を3状態に適用し、各時刻のポテンシャルと規格化された固有関数をブラウザで計算する。初期ポテンシャルと各固有状態の確率密度は x=0x=0 に関して対称である。各固有関数の二乗積分は1である。横軸と縦軸は再生中も固定し、固有関数の符号も時間を通じてそろえている。表示時刻は 0≤t≤0.450\le t\le0.45。

NN-ソリトン解は、反射係数が b(k,t)=0b(k,t)=0 となる無反射ポテンシャルから得られる。以下ではまず一般の散乱データから復元方程式を導き、その後で無反射の場合を具体的に解く。

3. 散乱の逆問題

3.1. Jost解と変換核

時間を固定し、滑らかで、すべての導関数が無限遠で任意のべきより速く減衰する実ポテンシャル uu(Schwartz ポテンシャル)に対する

Lf=k2f,L=−∂x2+u(x)(23)Lf=k^2f,\qquad L=-\partial_x^2+u(x) \tag{23}

を考える。まず固定した uu に対して、左端で自由平面波 eikxe^{ikx} に一致する解 f−(x,k)f_-(x,k) を構成する。目標は、この波の変形を全波数に共通する積分核で表し、その核の方程式を散乱データから作って uu を戻すことである。それぞれの端で f±(x,k)∼eikxf_\pm(x,k)\sim e^{ikx}(x→±∞x\to\pm\infty)と規格化した解を Jost 解と呼ぶ。

Minus: left end. Plus: right end. Two separate rows show f minus and f plus. The left end of f minus is drawn and labeled e to the ikx as x tends to minus infinity. The right end of f plus is drawn and labeled with the same free wave as x tends to plus infinity. Only the normalized end is drawn as the real part of a free wave. A question mark replaces the unspecified profile in the rest of each row.
f−(x,k)f_-(x,k)
?\text{?}
eikxe^{ikx}
x→−∞x\to-\infty
f+(x,k)f_+(x,k)
?\text{?}
eikxe^{ikx}
x→+∞x\to+\infty
u(x)u(x)
f−f_- は左端、f+f_+ は右端で eikxe^{ikx} に一致する。曲線は自由波の実部の模式図で、「?」の領域の波形は示していない。

3.1.1. 相互作用描像

Schrödinger 方程式を fxx+k2f=uff_{xx}+k^2f=uf と書く。自由方程式による変化を先に取り除けば、残る変化はポテンシャルの作用だけになる。量子力学の相互作用描像と同じ手順を、時間ではなく位置 xx に沿って行おう。

まず値と傾きを並べた状態を f=(f,fx)T\boldsymbol f=(f,f_x)^{\mathsf T} と書く。自由解では fxx=−k2ff_{xx}=-k^2f なので、xx 微分はこの二つの成分を (fx,−k2f)T(f_x,-k^2f)^{\mathsf T} に移す。その作用を表す行列を D0D_0 と書く:

D0=(01−k20),dfdx=D0f(u=0).D_0=\begin{pmatrix}0&1\\-k^2&0\end{pmatrix},\qquad \frac{d\boldsymbol f}{dx}=D_0\boldsymbol f\quad(u=0).

DD は微分を、添字 00 は u=0u=0 の自由系を表す。ポテンシャルの作用を表す行列 V(x)V(x) を加えると、元の方程式は

dfdx=(D0+V(x))f,V(x)=(00u(x)0).(24)\frac{d\boldsymbol f}{dx}=(D_0+V(x))\boldsymbol f, \qquad V(x)=\begin{pmatrix}0&0\\u(x)&0\end{pmatrix}. \tag{24}

まず実数 k≠0k\ne0 を考え、k=0k=0 では sin⁡(kd)/k\sin(kd)/k を極限 dd で読む。自由系での有限な位置差 dd の伝播は、微分を表す行列の指数関数 edD0e^{dD_0} で与えられる。II を 2×22\times2 の単位行列とすると D02=−k2ID_0^2=-k^2I なので、指数関数の偶数次と奇数次をまとめると

edD0=cos⁡(kd)I+sin⁡(kd)kD0=(cos⁡(kd)sin⁡(kd)/k−ksin⁡(kd)cos⁡(kd)),(25)\begin{aligned} e^{dD_0}&=\cos(kd)I+\frac{\sin(kd)}{k}D_0\\ &=\begin{pmatrix} \cos(kd)&\sin(kd)/k\\ -k\sin(kd)&\cos(kd) \end{pmatrix}, \end{aligned} \tag{25}

となり、f(x)=e(x−x′)D0f(x′)\boldsymbol f(x)=e^{(x-x')D_0}\boldsymbol f(x')(u=0u=0)と伝わる。同じ行列の指数なので eaD0ebD0=e(a+b)D0e^{aD_0}e^{bD_0}=e^{(a+b)D_0} となり、逆向きの自由伝播は e−dD0e^{-dD_0} である。

有限な始点 x∗x_* を固定する。位置 xx の状態から、始点以来の自由伝播を逆にたどって取り除いたものが、相互作用描像の状態

fI(x)=e−(x−x∗)D0f(x)\boldsymbol f_I(x)=e^{-(x-x_*)D_0}\boldsymbol f(x)

である。u=0u=0 ならこれは始点の状態のまま変わらない。微分して式 (24) を使うと、e−(x−x∗)D0e^{-(x-x_*)D_0} の微分と自由方程式の項が打ち消し合い、

dfIdx=VI(x)fI(x),VI(x)=e−(x−x∗)D0V(x)e(x−x∗)D0\frac{d\boldsymbol f_I}{dx}=V_I(x)\boldsymbol f_I(x),\qquad V_I(x)=e^{-(x-x_*)D_0}V(x)e^{(x-x_*)D_0}

だけが残る。VIV_I は、位置 xx まで自由伝播し、そこでポテンシャルを作用させ、自由伝播を取り除く操作である。したがって、各位置の作用をこの共通の表示で積み重ねればよい。

P\mathcal P を、大きい位置の行列を左に置く位置順序とする。上の方程式を始点から解くと

fI(x)=Pexp⁡ ⁣[∫x∗xVI(x′) dx′]f(x∗).\boldsymbol f_I(x)=\mathcal P\exp\!\left[\int_{x_*}^xV_I(x')\,dx'\right]\boldsymbol f(x_*).

これは量子力学の Dyson 展開と同じ順序付きの積分であり、最初の三項は

fI(x)=[I+∫x∗xVI(x′) dx′+∫x∗x ⁣dx′∫x∗x′ ⁣dx′′ VI(x′)VI(x′′)+⋯]f(x∗).\boldsymbol f_I(x)=\Bigg[I +\int_{x_*}^x V_I(x')\,dx' +\int_{x_*}^x\!dx'\int_{x_*}^{x'}\!dx''\, V_I(x')V_I(x'')+\cdots\Bigg]\boldsymbol f(x_*).

二次の項では x′′≤x′x''\le x' で、先に通る位置 x′′x'' の行列が右に来る。高次でも、左から右へ進む間に出会うポテンシャルの作用を、その順序のまま重ねている。

3.1.2. Jost解の変換核表示

この順序付き発展を、積分核を取り出せる形に直そう。まず相互作用描像の微分方程式を一度積分し、左から e(x−x∗)D0e^{(x-x_*)D_0} を掛けて元の状態へ戻すと

f(x)=e(x−x∗)D0f(x∗)+∫x∗xe(x−x′)D0V(x′)f(x′) dx′.\boldsymbol f(x)=e^{(x-x_*)D_0}\boldsymbol f(x_*)+\int_{x_*}^x e^{(x-x')D_0}V(x')\boldsymbol f(x')\,dx'.

この積分項は、位置順序付き展開でポテンシャルが一回以上作用する各項を、最後の作用位置 x′x' ごとにまとめたものである。その位置に至るまでの作用を足し合わせた状態が f(x′)\boldsymbol f(x') であり、V(x′)V(x') が最後の一回の作用を表す。その後は自由伝播だけなので、位置 xx へ運ぶ因子が e(x−x′)D0e^{(x-x')D_0} となる。

この一回の作用を行列で計算すると

V(x′)f(x′)=(0u(x′)f(x′)).V(x')\boldsymbol f(x')= \begin{pmatrix}0\\u(x')f(x')\end{pmatrix}.

第二成分に現れた寄与を自由伝播させると、式 (25) から

e(x−x′)D0V(x′)f(x′)=u(x′)f(x′)(sin⁡k(x−x′)/kcos⁡k(x−x′)).e^{(x-x')D_0}V(x')\boldsymbol f(x')=u(x')f(x') \begin{pmatrix}\sin k(x-x')/k\\\cos k(x-x')\end{pmatrix}.

位置 x′x' の微小区間が与える補正は、このベクトルに dx′dx' を掛けたものである。求めたい波の値 f(x)f(x) は状態 f(x)\boldsymbol f(x) の第一成分なので、この積全体の第一成分を積分すればよい。初期状態からの自由伝播の項と合わせると

f(x)=f(x∗)cos⁡k(x−x∗)+fx(x∗)sin⁡k(x−x∗)k+∫x∗xsin⁡k(x−x′)ku(x′)f(x′) dx′.(26)f(x)={}f(x_*)\cos k(x-x_*) +f_x(x_*)\frac{\sin k(x-x_*)}{k} +\int_{x_*}^x\frac{\sin k(x-x')}{k}u(x')f(x')\,dx'. \tag{26}

正弦因子は、各位置でのポテンシャルの作用を、波の値の補正へ変える係数として現れる。

左端で自由波に一致する解 f−f_- を得るには、有限な x∗x_* で始点の状態を (eikx∗,ikeikx∗)T(e^{ikx_*},ik e^{ikx_*})^{\mathsf T} としてから x∗→−∞x_*\to-\infty とする。式 (26) の最初の二項は eikxe^{ikx} となり、Schwartz 条件の下で左端までの積分が収束するので

f−(x,k)=eikx+∫−∞xsin⁡k(x−x′)ku(x′)f−(x′,k) dx′.(27)f_-(x,k)=e^{ikx}+\int_{-\infty}^x\frac{\sin k(x-x')}{k}u(x')f_-(x',k)\,dx'. \tag{27}

この積分方程式は、相互作用描像で位置順に積み重ねたすべての作用を含む。uu を固定したとき、自由波から対応する解への変換は、入力波に対して線形である。各次数の補正を平面波 eikye^{iky} の重ね合わせに書き直し、その重みを全次数で足し合わせたものを変換核 K(x,y)K(x,y) と書く。これによって、位置順序付き発展を

f−(x,k)=eikx+∫−∞xK(x,y)eiky dy(28)f_-(x,k)=e^{ikx}+\int_{-\infty}^xK(x,y)e^{iky}\,dy \tag{28}

と表す。先頭の eikxe^{ikx} が自由波であり、積分項がポテンシャルによる全補正を表す。各補正をこの形に直せる仕組みが、正弦因子が平面波を有限区間上の平面波の重ね合わせに変える恒等式

sin⁡k(x−x′)keiky′=12∫y′−(x−x′)y′+(x−x′)eiky dy(29)\frac{\sin k(x-x')}{k}e^{iky'}=\frac12\int_{y'-(x-x')}^{y'+(x-x')}e^{iky}\,dy \tag{29}

である。自由波 eikx′e^{ikx'} に式 (27) の積分作用を一度加えると、恒等式 (29) で y′=x′y'=x' と置いた区間積分になる。固定した yy にこの補正が寄与するには y≤xy\le x かつ y≥2x′−xy\ge 2x'-x が必要なので、作用位置は x′≤(x+y)/2x'\le(x+y)/2 に限られる。自由波から生じる重みは、したがって 12∫−∞(x+y)/2u(x′) dx′\frac12\int_{-\infty}^{(x+y)/2}u(x')\,dx' である。

また、y′≤x′y'\le x' の成分に式 (29) を適用すると、区間の上端は y′+x−x′≤xy'+x-x'\le x である。したがって、作用を重ねても y≤xy\le x が保たれる。

二回以上の作用を含む寄与は、作用位置 x′x' での波の全補正に、最後の一回の作用を加えたものとしてまとめられる。式 (28) の補正 ∫−∞x′K(x′,y′)eiky′dy′\int_{-\infty}^{x'}K(x',y')e^{iky'}dy' を式 (27) に直接代入すると、その寄与は

∫−∞x ⁣dx′∫−∞x′ ⁣dy′ u(x′)K(x′,y′)sin⁡k(x−x′)keiky′.(30)\int_{-\infty}^x\!dx'\int_{-\infty}^{x'}\!dy'\, u(x')K(x',y')\frac{\sin k(x-x')}{k}e^{iky'}. \tag{30}

積分変数は x′≤xx'\le x と y′≤x′y'\le x' を満たし、正弦因子の恒等式から ∣y−y′∣≤x−x′|y-y'|\le x-x' となる。

Integration domain in the x-prime–y-prime plane The shaded region satisfies y-prime less than or equal to x-prime, x-prime less than or equal to x, and absolute y minus y-prime less than or equal to x minus x-prime. It extends toward minus infinity. As y approaches x, it collapses to the diagonal y-prime equals x-prime.
x′x'
y′y'
xx
  • y′≤x′y'\le x'
  • y′≥x′−(x−y)y'\ge x'-(x-y)
  • y′≤x+y−x′y'\le x+y-x'

色の付いた領域の内部を積分する。

横軸は作用位置 x′x'、縦軸は K(x′,y′)K(x',y') に含まれる平面波成分の座標 y′y'。x′≤xx'\le x の範囲で三つの不等式を満たす領域を塗っている。左下の矢印は領域が無限遠まで続くことを示す。y=xy=x では領域が y′=x′y'=x' の線に潰れ、再帰式の二重積分が消える。

恒等式で yy の区間積分に直し、yy を外側の積分変数にすると、固定した yy の重みにはこの三つの条件を満たす x′,y′x',y' だけが寄与する。全補正は、一回だけ作用する寄与と二回以上作用する寄与の和なので、その重み KK が満たす積分方程式は

K(x,y)=12∫−∞(x+y)/2u(x′) dx′+12∬y′≤x′≤x∣y−y′∣≤x−x′u(x′)K(x′,y′) dy′ dx′,y≤x.(31)K(x,y)=\frac12\int_{-\infty}^{(x+y)/2}u(x')\,dx' +\frac12\iint_{\substack{y'\le x'\le x\\|y-y'|\le x-x'}}u(x')K(x',y')\,dy'\,dx',\qquad y\le x. \tag{31}

第一項はポテンシャルが自由波に作用して生じる重み、第二項はすでに得た補正の重みに次の作用を加えた寄与をすべて足したものである。各作用は式 (29) によって波数に依らない重みに移るため、KK も波数に依らない。

位置順序付き発展に含まれるすべての補正は、この重み KK を用いた一つの積分にまとまる:

f−(x,k)=eikx+∫−∞xK(x,y)eiky dy(32)f_-(x,k)=e^{ikx}+\int_{-\infty}^xK(x,y)e^{iky}\,dy \tag{32}

式 (31) の反復代入は、この全補正の重みを作用回数ごとに計算する操作である。Schwartz 条件の下では、重みの和は対角まで連続な関数となる。和の収束と連続性は補足で確かめる。

変換核の級数表示の収束と連続性

この補足では、ポテンシャルが nn 回作用した寄与の重みを KnK_n と書く。一回の作用では

K1(x,y)=12∫−∞(x+y)/2u(x′) dx′K_1(x,y)=\frac12\int_{-\infty}^{(x+y)/2}u(x')\,dx'

とし、n≥1n\ge1 に対して

Kn+1(x,y)=12∬y′≤x′≤x∣y−y′∣≤x−x′u(x′)Kn(x′,y′) dy′ dx′K_{n+1}(x,y)=\frac12\iint_{\substack{y'\le x'\le x\\|y-y'|\le x-x'}}u(x')K_n(x',y')\,dy'\,dx'

と定める。全補正を足した重みは K=∑n≥1KnK=\sum_{n\ge1}K_n である。位置順序と各内側区間の長さ 2(x−x′)2(x-x') を使うと、帰納的に

∣Kn(x,y)∣≤12(n−1)!(∫−∞x∣u(z)∣ dz)(∫−∞x(x−z)∣u(z)∣ dz)n−1,y≤x,|K_n(x,y)|\le\frac1{2(n-1)!} \left(\int_{-\infty}^x|u(z)|\,dz\right) \left(\int_{-\infty}^x(x-z)|u(z)|\,dz\right)^{n-1},\qquad y\le x,

と評価できる。固定した xx でこの評価は y≤xy\le x に一様であり、核級数の局所一様収束を与える。各反復項は連続なので和も対角まで連続である。対角では式 (31) の二重積分が消えるため、和の対角値は第一項の明示積分に等しい。

絶対値を取った反復積分にも同じ評価が使える。核の可積分性とフーリエ表示は、Schwartz 条件下の変換作用素の標準結果を用いる。対応する構成は Egorova ほか、§2 にある。

3.1.3. 変換核の対角値

式 (31) で y=xy=x とすると、二重積分の条件は y′≤x′y'\le x' と ∣x−y′∣≤x−x′|x-y'|\le x-x' である。後者の下側から y′≥x′y'\ge x' が従うため y′=x′y'=x' に限られ、この領域は面積ゼロである。したがって対角では二重積分が消え、自由波からの第一項だけが残る。

K(x,x)=12∫−∞xu(x′) dx′,u(x)=2ddxK(x,x).(33)K(x,x)=\frac12\int_{-\infty}^xu(x')\,dx',\qquad u(x)=2\frac{d}{dx}K(x,x). \tag{33}

微分は xx と二つ目の引数を同時に動かす対角方向の全微分である。Schwartz 条件の下で明示積分を微分すれば、ポテンシャルが直接得られる。後で散乱データから GLM 方程式を解いてこの同じ核 KK を得るので、式 (33) によりポテンシャルを復元できる。

3.2. GLM方程式

3.2.1. 散乱関係の逆フーリエ変換

ここで散乱データを導入する。k>0k>0 の左入射波は左端で入射波 f−(x,k)f_-(x,k) と反射波 b(k)f−(x,−k)b(k)f_-(x,-k) の和、右端で透過波 a(k)f+(x,k)a(k)f_+(x,k) と書ける。aa は透過係数、bb は左反射係数であり、同じ解の二つの表示から実軸上

a(k)f+(x,k)=f−(x,k)+b(k)f−(x,−k).(34)a(k)f_+(x,k)=f_-(x,k)+b(k)f_-(x,-k). \tag{34}

実ポテンシャルでは f±(x,−k)=f±(x,k)‾f_\pm(x,-k)=\overline{f_\pm(x,k)}、a(−k)=a(k)‾a(-k)=\overline{a(k)}、b(−k)=b(k)‾b(-k)=\overline{b(k)} なので、この関係は負の実 kk にも成り立つ。

式 (34) の入射側に注目する。既知の自由波を引くと、式 (32) から

f−(x,k)−eikx=∫−∞xK(x,z)eikz dz.(35)f_-(x,k)-e^{ikx}=\int_{-\infty}^xK(x,z)e^{ikz}\,dz. \tag{35}

逆フーリエ変換で、平面波の重ね合わせの重み K(x,y)K(x,y) を取り出す。y<xy<x では、

lim⁡R→∞12π∫−RR[f−(x,k)−eikx]e−iky dk=K(x,y).\lim_{R\to\infty}\frac{1}{2\pi}\int_{-R}^R[f_-(x,k)-e^{ikx}]e^{-iky}\,dk=K(x,y).

同じ操作を散乱関係の両辺に行い、残る二項も核と散乱データで表そう。反射係数 bb のフーリエ変換を

b^(s)=∫Rb(k)e−iks dk(36)\widehat b(s)=\int_{\mathbb R}b(k)e^{-iks}\,dk \tag{36}

と置く。ここでは実軸上の反射データ b(k)b(k) を用いる。式 (32) から反射項の変換は

12π∫Rb(k)f−(x,−k)e−iky dk=b^(x+y)/(2π)+∫−∞xK(x,z)b^(z+y)/(2π) dz.(37)\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}b(k)f_-(x,-k)e^{-iky}\,dk =\widehat b(x+y)/(2\pi)+\int_{-\infty}^xK(x,z)\widehat b(z+y)/(2\pi)\,dz. \tag{37}

自由波では指数が e−ik(x+y)e^{-ik(x+y)}、核の項では e−ik(z+y)e^{-ik(z+y)} となるため、それぞれ b^\widehat b の引数が x+y,z+yx+y,z+y になる。積分交換は K(x,⋅)K(x,\cdot) の可積分性と反射係数の減衰で許される。

3.2.2. 透過項の留数積分

反射項は、式 (37) により、既知の反射係数 bb と、求めたい核 KK で表せた。一方、透過項 a(k)f+(x,k)a(k)f_+(x,k) には、未知のポテンシャルに依存する右 Jost 解 f+f_+ が残っている。この項も既知の散乱データと同じ核 KK で表せれば、KK の方程式が閉じる。そこで、透過項の逆フーリエ変換を、複素波数の極の留数から求めよう。

式 (35) で入射波と自由波の差から K(x,y)K(x,y) を取り出したのと同じように、透過波についても自由波との差を考える。逆フーリエ変換の被積分関数を次のように書くと、自由波に対する補正と、積分路を選ぶ手がかりが分かれる。

[a(k)f+(x,k)−eikx]e−iky=[a(k)f+(x,k)e−ikx−1]eik(x−y).[a(k)f_+(x,k)-e^{ikx}]e^{-iky} =[a(k)f_+(x,k)e^{-ikx}-1]e^{ik(x-y)}.

波数が大きいと、Schrödinger 方程式 fxx+(k2−u(x))f=0f_{xx}+(k^2-u(x))f=0 では k2k^2 に対するポテンシャル u(x)u(x) の影響が小さくなり、透過波は自由波に近づく。上の括弧内は、自由波に対する補正を表しており、大きな ∣k∣|k| で小さくなる。

さらに、y<xy<x では

∣eik(x−y)∣=e−Im⁡k (x−y)|e^{ik(x-y)}|=e^{-\operatorname{Im}k\,(x-y)}

なので、上半平面の奥へ進むほど、この絶対値も小さくなる。この二つの性質により、実軸を左から右へ進み、上半円で戻る積分路では、無限遠を回る部分の寄与が消える。

原点 k=0k=0 では、散乱の基準となる二つの自由波 eikxe^{ikx} と e−ikxe^{-ikx} が一致するため、散乱係数の表示を別途確かめる必要がある。そこで、まず原点を小半円で避けておく。この被積分関数は原点近傍でも有界なので、小半円を縮めると、その積分の寄与も消える。

透過項は上半平面で、孤立した極以外では正則である。従って、無限遠と原点からの寄与を除けば、実軸上の積分には内部の極の留数だけが残る。ここではこれらの性質を用いて先へ進む。解析性と円弧の寄与が消えるための厳密な評価は、後に示す。

Upper half-plane contour The real segment runs from minus R to R; the upper arc returns from R to minus R counterclockwise. A small clockwise upper semicircle avoids the origin. The contour does not specify pole locations. The exponential decays above the real line when y is less than x.
Re⁡k\operatorname{Re}k
Im⁡k\operatorname{Im}k
−R-R
RR
00
y<xy<x
∣eik(x−y)∣=e−Im⁡k(x−y)|e^{ik(x-y)}|=e^{-\operatorname{Im}k(x-y)}
実軸を左から右へ進み、大きな上半円で戻る正向きの積分路。原点は小さな上半円で避ける。指数因子の減衰により、大半円の寄与は消える。

従って、求める積分は上半平面にある極の留数の和になる。

lim⁡R→∞12π∫−RR[a(k)f+(x,k)−eikx]e−iky dk=i∑上半平面の各極Res⁡ ⁣[(a(k)f+(x,k)−eikx)e−iky].(38)\begin{aligned} &\lim_{R\to\infty}\frac1{2\pi}\int_{-R}^R[a(k)f_+(x,k)-e^{ikx}]e^{-iky}\,dk\\ &\qquad=i\sum_{\text{上半平面の各極}}\operatorname*{Res}\!\left[(a(k)f_+(x,k)-e^{ikx})e^{-iky}\right]. \end{aligned} \tag{38}

右辺では、各極での被積分関数全体の留数を足している。積分を具体的に求めるために残るのは、極がどこにあり、その留数がいくらかという問題である。

3.2.3. 透過項の極と束縛状態

実波数の散乱では、左から入る波の振幅を1にしたとき、右へ抜ける波の振幅が a(k)a(k) である。逆に、右へ抜ける波の振幅を1にそろえた解が f+f_+ なので、その左側の入射波の振幅は 1/a(k)1/a(k) になる。実軸上の散乱関係 (34) をこの規格化で書けば

f+(x,k)=1a(k)f−(x,k)+b(k)a(k)f−(x,−k).f_+(x,k)=\frac1{a(k)}f_-(x,k)+\frac{b(k)}{a(k)}f_-(x,-k).

この入射振幅の意味から、複素波数での極を考えよう。k=iκk=i\kappa、κ>0\kappa>0 では、右端の自由波 eikx=e−κxe^{ikx}=e^{-\kappa x} は右へ行くほど小さくなる。一方、この自由波は左へ行くほど大きくなる。右端で規格化した f+f_+ が左端でも小さくなるには、左側で大きくなる成分の係数 1/a(k)1/a(k) が0にならなければならない。右端の振幅を1に保ったまま、必要な入射振幅が0になると、a(k)a(k) に極が現れる。この両端で小さくなる波形が束縛状態である。以下で、入射振幅を計算してこの関係を確かめる。

入射振幅 1/a(k)1/a(k) を取り出すには、上の散乱関係から反射成分を消せばよい。反射波と同じ解 f−(x,−k)f_-(x,-k) を第一列に置き、値と傾きからなる行列式

W(x,k)=det⁡(f−(x,−k)f+(x,k)∂xf−(x,−k)∂xf+(x,k))(39)W(x,k)=\det\begin{pmatrix} f_-(x,-k)&f_+(x,k)\\ \partial_xf_-(x,-k)&\partial_xf_+(x,k) \end{pmatrix} \tag{39}

を考える。この行列式は Wronskian である。第二列に散乱関係を代入すると、反射項では二列が比例するため、その行列式は0になる。従って実波数では、入射項だけが残って

W(x,k)=1a(k)det⁡(f−(x,−k)f−(x,k)∂xf−(x,−k)∂xf−(x,k)).W(x,k)=\frac1{a(k)}\det\begin{pmatrix} f_-(x,-k)&f_-(x,k)\\ \partial_xf_-(x,-k)&\partial_xf_-(x,k) \end{pmatrix}.

この Wronskian は、波数 kk を固定すると位置 xx によらない。

行列式の微分は、一行ずつ微分した行列式の和である。式 (39) で上の行を微分すると下の行と同じになるので、この項は0になる。

一方、両解は fxx=(u(x)−k2)ff_{xx}=(u(x)-k^2)f を満たすため、下の行を微分すると、上の行の u(x)−k2u(x)-k^2 倍になる。この項も二行が比例するので0である。従って ∂xW(x,k)=0\partial_xW(x,k)=0 となる。以後は xx を省略して W(k)W(k) と書く。

従って、反射項を消した先の表示で左端の極限を取り、Jost 解とその微分を自由波の表示に置き換えれば

W(k)=1a(k)det⁡(e−ikxeikx−ike−ikxikeikx)=2ika(k),a(k)=2ikW(k).W(k)=\frac1{a(k)}\det\begin{pmatrix} e^{-ikx}&e^{ikx}\\ -ik e^{-ikx}&ik e^{ikx} \end{pmatrix} =\frac{2ik}{a(k)},\qquad a(k)=\frac{2ik}{W(k)}.

上半平面では f−(x,−k)f_-(x,-k) と f+(x,k)f_+(x,k) は正則であり、それぞれ左端と右端で小さくなる解である。上の商により aa を上半平面へ延長すると、原点以外で極が現れるのは W(k)=0W(k)=0 のときである。この条件は二つの解の値と傾きが比例することを意味する。同じ微分方程式の解は値と傾きで決まるため、二つの解は全区間で比例し、両端で小さくなる一つの波形につながる。これが、入射振幅が0になる条件と束縛状態との正確な結び付きである。

例として、u(x)=−2sech⁡2xu(x)=-2\operatorname{sech}^2x を考える。この場合、E=−1E=-1 で左右の Jost 解はともに 12sech⁡x\tfrac12\operatorname{sech}x となる。次の図でエネルギーを動かすと、この値で二つの波形が全区間で一致し、W=0W=0 になる様子を確かめられる。

W(k)=W(k)=0
f−(x,−k)f_-(x,-k)
f+(x,k)f_+(x,k)
−4-4
00
44
−16-16
−8-8
−4-4
−2-2
−1-1
−0.5-0.5
−0.25-0.25
00
0.250.25
0.50.5
11
22
44
88
1616
xx

実線は f−(x,−k)f_-(x,-k)、破線は f+(x,k)f_+(x,k)。左端で f−(x,−k)∼e−ikxf_-(x,-k)\sim e^{-ikx}、右端で f+(x,k)∼eikxf_+(x,k)\sim e^{ikx} となるように振幅を定めている。E=−1E=-1 では全区間で一致する。縦軸の範囲は波形に合わせて調整する。
図に示したポテンシャルの厳密解

k=iκk=i\kappa(κ>0\kappa>0)に対して

f+(x,iκ)=e−κxκ+tanh⁡xκ+1,f−(x,−iκ)=eκxκ−tanh⁡xκ+1.f_+(x,i\kappa)=e^{-\kappa x}\frac{\kappa+\tanh x}{\kappa+1}, \qquad f_-(x,-i\kappa)=e^{\kappa x}\frac{\kappa-\tanh x}{\kappa+1}.

これらは L=−∂x2−2sech⁡2xL=-\partial_x^2-2\operatorname{sech}^2x の固有値方程式を満たし、それぞれの端で所定の自由波に漸近する。x=0x=0 で値と微分を評価すると、

W(iκ)=κκ+1(1−κ)−(κ−1)κκ+1=−2κκ−1κ+1.W(i\kappa) =\frac{\kappa}{\kappa+1}(1-\kappa) -(\kappa-1)\frac{\kappa}{\kappa+1} =-2\kappa\frac{\kappa-1}{\kappa+1}.

従って κ=1\kappa=1、すなわち E=−1E=-1 で W=0W=0 となり、

f−(x,−i)=f+(x,i)=12sech⁡x.f_-(x,-i)=f_+(x,i)=\tfrac12\operatorname{sech}x.

二つの Jost 解が同じ、両端で減衰する波形を表している。

両端で指数関数的に小さくなるこの解は平方可積分である。LL の自己共役性により固有値 k2k^2 は実数なので、上半平面の零点は k=iκnk=i\kappa_n(κn>0\kappa_n>0)に限られ、固有値は −κn2-\kappa_n^2 となる。Schwartz ポテンシャルでは負の固有値は有限個である。次の小節では、これらの点での留数を求める。

透過項の解析性と円弧積分の評価

先ほどの積分路の議論で用いた三点、すなわち上半平面での有理型性、大半円の寄与が消えること、原点での有界性を確かめる。以下では xx と y<xy<x を固定する。

上半平面での解析性。 左 Jost 解の積分方程式 (27) で kk を −k-k に置き換え、自由波 e−ikxe^{-ikx} で割ると

eikxf−(x,−k)=1+∫−∞xe2ik(x−z)−12iku(z)eikzf−(z,−k) dz.e^{ikx}f_-(x,-k)=1+\int_{-\infty}^x\frac{e^{2ik(x-z)}-1}{2ik}u(z)e^{ikz}f_-(z,-k)\,dz.

この積分核は、z≤xz\le x に対して

e2ik(x−z)−12ik=∫0x−ze2iks ds\frac{e^{2ik(x-z)}-1}{2ik}=\int_0^{x-z}e^{2iks}\,ds

と書ける。閉上半平面では ∣e2iks∣≤1|e^{2iks}|\le1 なので、核の絶対値は x−zx-z 以下、kk 微分の絶対値は (x−z)2(x-z)^2 以下である。従って原点でも核に特異性はない。

逐次代入の第 jj 項の絶対値は、積分変数の順序によって

1j!(∫−∞x(x−z)∣u(z)∣ dz)j\frac1{j!}\left(\int_{-\infty}^x(x-z)|u(z)|\,dz\right)^j

以下になる。Schwartz 条件の下でこの級数は局所一様に収束し、kk 微分にも上の二次の重みの評価を使える。右 Jost 解も、右端からの積分方程式で同じ評価を満たす。従って両解とその xx 微分は上半平面で正則、実軸まで kk に関して連続微分可能である。これにより WW も同じ性質を持ち、a=2ik/Wa=2ik/W と透過項は上半平面で有理型になる。

無限遠での評価。 閉上半平面では ∣e2ik(x−z)−1∣≤2|e^{2ik(x-z)}-1|\le2 なので、大きな ∣k∣|k| では積分核の絶対値は 1/∣k∣1/|k| 以下になる。従って自由波で割った両 Jost 解は 1+O(∣k∣−1)1+O(|k|^{-1}) である。また、その補正を xx で微分すると、核の微分は e2ik(x−z)e^{2ik(x-z)} となり、絶対値は1以下なので、補正の xx 微分は O(1)O(1) である。これらを Wronskian に代入すれば

W(k)=2ik[1+O(∣k∣−1)],a(k)=1+O(∣k∣−1),a(k)f+(x,k)e−ikx−1=O(∣k∣−1).W(k)=2ik[1+O(|k|^{-1})],\qquad a(k)=1+O(|k|^{-1}),\qquad a(k)f_+(x,k)e^{-ikx}-1=O(|k|^{-1}).

大半円 k=Reiθk=Re^{i\theta}(0≤θ≤π0\le\theta\le\pi)では、最後の評価と ∣eik(x−y)∣=e−R(x−y)sin⁡θ|e^{ik(x-y)}|=e^{-R(x-y)\sin\theta} より、円弧上の積分は

∣∫大半円[a(k)f+(x,k)−eikx]e−iky dk∣≤C∫0πe−R(x−y)sin⁡θ dθ≤CπR(x−y)⟶0\left|\int_{\text{大半円}}[a(k)f_+(x,k)-e^{ikx}]e^{-iky}\,dk\right| \le C\int_0^\pi e^{-R(x-y)\sin\theta}\,d\theta \le\frac{C\pi}{R(x-y)}\longrightarrow0

を満たす。CC は RR に依存しない定数であり、最後の不等式には 0≤θ≤π/20\le\theta\le\pi/2 で sin⁡θ≥2θ/π\sin\theta\ge2\theta/\pi と積分の対称性を使った。

原点での評価。 必要なのは a(k)a(k) の有界性である。実波数の散乱解では、Schrödinger 方程式から Im⁡(f‾ ∂xf)\operatorname{Im}(\overline f\,\partial_xf) が xx によらない。入射振幅を1とした解について両端での自由波の漸近形を用いると、k≠0k\ne0 で

k(1−∣b(k)∣2)=k∣a(k)∣2,∣a(k)∣≤1.k(1-|b(k)|^2)=k|a(k)|^2,\qquad |a(k)|\le1.

従って aW=2ikaW=2ik より、実軸上で ∣W(k)∣≥2∣k∣|W(k)|\ge2|k| となる。

W(0)≠0W(0)\ne0 なら a=2ik/Wa=2ik/W は原点近傍で有界である。W(0)=0W(0)=0 の場合も、既に示した ∂kW\partial_k W の連続性により、原点から kk までの線分で積分して

W(k)=k∫01(∂kW)(sk) ds=∂kW(0)k+o(∣k∣)W(k)=k\int_0^1(\partial_k W)(sk)\,ds=\partial_k W(0)k+o(|k|)

となる。実軸上の ∣W(k)∣≥2∣k∣|W(k)|\ge2|k| から ∣∂kW(0)∣≥2|\partial_k W(0)|\ge2 なので、上半平面から近づいても a(k)→2i∂kW(0)a(k)\to\frac{2i}{\partial_k W(0)} は有限である。

従って原点では a(k)a(k) も f+(x,k)f_+(x,k) も有界である。半径 ϵ\epsilon の小半円では被積分関数も有界なので、その積分の絶対値は O(ϵ)O(\epsilon) であり、ϵ→0\epsilon\to0 でゼロになる。以上で、留数の和以外に円弧からの寄与がないことが確かめられた。

両 Jost 解の積分方程式による構成と評価については、Egorova ほか、§2 の (2.1)–(2.4) も参照。

3.2.4. 減衰解の接続条件

前の小節で極の位置が分かったので、次は透過項 a(k)f+(x,k)a(k)f_+(x,k) の留数を求める。固有エネルギーから少し離れると、左右の減衰解はそのままではつながらない。その不一致を傾きの差として表し、透過項の分母と結び付けよう。

以下では E=k2<0E=k^2<0、Im⁡k>0\operatorname{Im}k>0 とし、束縛状態のエネルギー En=−κn2E_n=-\kappa_n^2 の近傍を考える。左右の解を接続点での値で割り、値を1にそろえたい。そのため、対応する束縛状態 ψn\psi_n が0でない点を接続点 x0x_0 に選ぶ。固有エネルギーでは両 Jost 解が ψn\psi_n に比例するので、f−(x0,−iκn)f_-(x_0,-i\kappa_n) と f+(x0,iκn)f_+(x_0,i\kappa_n) はともに0でない。連続性により、EnE_n の十分小さい近傍でも両者は0でなく、次の表示を使える。以後 x0x_0 は固定する。

f(x;E)=f−(x,−k)f−(x0,−k)Θ(x0−x)+f+(x,k)f+(x0,k)Θ(x−x0).(40)f(x;E)=\frac{f_-(x,-k)}{f_-(x_0,-k)}\Theta(x_0-x) +\frac{f_+(x,k)}{f_+(x_0,k)}\Theta(x-x_0). \tag{40}

Θ\Theta は Heaviside 関数であり、Θ(0)=1/2\Theta(0)=1/2 とする。この波形は f(x0;E)=1f(x_0;E)=1 で連続だが、一般には左右の傾きが異なる。その差を

Δ(E):=∂xf(x0+;E)−∂xf(x0−;E)=∂xf+(x0,k)f+(x0,k)−∂xf−(x0,−k)f−(x0,−k)(41)\begin{aligned} \Delta(E)&:=\partial_xf(x_0^+;E)-\partial_xf(x_0^-;E)\\ &=\frac{\partial_xf_+(x_0,k)}{f_+(x_0,k)} -\frac{\partial_xf_-(x_0,-k)}{f_-(x_0,-k)} \end{aligned} \tag{41}

と定める。次の図は u(x)=−2sech⁡2xu(x)=-2\operatorname{sech}^2x、x0=0x_0=0 の例である。E=−1E=-1 で傾きも一致し、両端で減衰する束縛状態になる。

f(x;E)f(x;E)
x0=0,f(x0;E)=1x_0=0,\quad f(x_0;E)=1
−4-4
00
44
00
0.250.25
0.50.5
0.750.75
11
1.251.25
1.51.5
22
xx

u(x)=−2sech⁡2xu(x)=-2\operatorname{sech}^2x、x0=0x_0=0 の例。実線は接続点より左、破線は右の波形。接続点での値はともに1であり、E=−1E=-1 では左右の傾きも一致する。

式 (39) により、

Δ(E)=f−(x0,−k)∂xf+(x0,k)−∂xf−(x0,−k)f+(x0,k)⏞W(k)f−(x0,−k)f+(x0,k).(42)\Delta(E)= \frac{\overbrace{f_-(x_0,-k)\partial_xf_+(x_0,k)-\partial_xf_-(x_0,-k)f_+(x_0,k)}^{W(k)}} {f_-(x_0,-k)f_+(x_0,k)}. \tag{42}

従って a=2ik/Wa=2ik/W を使うと、

a(k)f+(x,k)=2ikΔ(E) f+(x,k)f−(x0,−k)f+(x0,k).(43)a(k)f_+(x,k)=\frac{2ik}{\Delta(E)}\, \frac{f_+(x,k)}{f_-(x_0,-k)f_+(x_0,k)}. \tag{43}

となる。右辺の比は EnE_n で有限であり、極の係数は Δ(E)\Delta(E) の零点近傍の変化で決まる。

3.2.5. 傾きの跳びと点ポテンシャル

透過項の留数を決めるには、Δ(E)\Delta(E) が固有エネルギー EnE_n の近くでどう変化するかを知ればよい。この変化は、点ポテンシャルに対する束縛状態のエネルギー応答から求められる。式 (40) の接続波形は連続で、傾きの跳びは Δ(E)\Delta(E) なので、二階の分布微分は

∂x2f=(u−E)f+Δ(E)δ(x−x0)\partial_x^2 f=(u-E)f+\Delta(E)\delta(x-x_0)

となる。従って、f(x0;E)=1f(x_0;E)=1 を使うと

[L+Δ(E)δ(x−x0)]f=Ef.(44)[L+\Delta(E)\delta(x-x_0)]f=Ef. \tag{44}

Δ(E)\Delta(E) は、この波形をエネルギー EE の固有関数にする点ポテンシャルの強さである。

点ポテンシャルによるエネルギーの一次の変化は、その位置での束縛状態の確率密度に比例する。実数値の束縛状態 ψn\psi_n を Lψn=EnψnL\psi_n=E_n\psi_n、∫Rψn(x)2dx=1\int_{\mathbb R}\psi_n(x)^2dx=1 と規格化すると、

E−En=∫Rψn(x) [Δ(E)δ(x−x0)] ψn(x) dx+O(Δ(E)2)=Δ(E) ∣ψn(x0)∣2+O(Δ(E)2).(45)\begin{aligned} E-E_n &=\int_{\mathbb R}\psi_n(x)\,[\Delta(E)\delta(x-x_0)]\,\psi_n(x)\,dx +O(\Delta(E)^2)\\ &=\Delta(E)\,|\psi_n(x_0)|^2+O(\Delta(E)^2). \end{aligned} \tag{45}

一次の計算を下に示す。接続点での確率密度 ∣ψn(x0)∣2|\psi_n(x_0)|^2 が、点ポテンシャルの強さとエネルギーのずれを結んでいる。

エネルギーの一次の変化

点ポテンシャルを加えた固有関数と固有エネルギーを、一次まで ψn+δψ\psi_n+\delta\psi、En+δEE_n+\delta E と書く。固有値方程式の一次の項は

(L−En)δψ+Δ(E)δ(x−x0)ψn=δE ψn.(L-E_n)\delta\psi+\Delta(E)\delta(x-x_0)\psi_n =\delta E\,\psi_n.

ψn\psi_n との内積では、固有関数の変化 δψ\delta\psi の項は

∫Rψn(L−En)δψ dx=∫R[(L−En)ψn] δψ dx=0\int_{\mathbb R}\psi_n(L-E_n)\delta\psi\,dx =\int_{\mathbb R}[(L-E_n)\psi_n]\,\delta\psi\,dx=0

となる。ここでは LL の自己共役性と (L−En)ψn=0(L-E_n)\psi_n=0 を使った。

残る項は、規格化条件とデルタ関数により

δE∫Rψn(x)2dx⏟1=Δ(E)∫Rψn(x)2δ(x−x0)dx=Δ(E)∣ψn(x0)∣2.\delta E\underbrace{\int_{\mathbb R}\psi_n(x)^2dx}_{1} =\Delta(E)\int_{\mathbb R}\psi_n(x)^2\delta(x-x_0)dx =\Delta(E)|\psi_n(x_0)|^2.

従って一次のエネルギー変化には、もとの束縛状態の確率密度だけが必要になる。

式 (45) を透過項の分母に使う形にすると、

1Δ(E)=∣ψn(x0)∣2E−En+O(1).\frac1{\Delta(E)}=\frac{|\psi_n(x_0)|^2}{E-E_n}+O(1).

接続点での確率密度が、1/Δ(E)1/\Delta(E) の極の係数になる。これを式 (43) に代入して、透過項の留数を求めよう。

3.2.6. 透過項の留数

束縛状態では両 Jost 解は同じ固有関数に比例する。左 Jost 解に合わせて符号を選んだ実規格化固有関数を

ψn(x)=cnf−(x,−iκn),cn>0,cn−2=∫Rf−(z,−iκn)2 dz(46)\begin{gathered} \psi_n(x)=c_nf_-(x,-i\kappa_n),\qquad c_n>0,\\ c_n^{-2}=\int_{\mathbb R}f_-(z,-i\kappa_n)^2\,dz \end{gathered} \tag{46}

とする。求めたいのは 1/(E−En)1/(E-E_n) の係数である。透過項を

a(k)f+(x,k)2ik=f+(x,k)f+(x0,k) 1f−(x0,−k) 1Δ(E)\frac{a(k)f_+(x,k)}{2ik} =\frac{f_+(x,k)}{f_+(x_0,k)}\, \frac1{f_-(x_0,-k)}\, \frac1{\Delta(E)}

と分けると、極をもつのは最後の 1/Δ(E)1/\Delta(E) だけで、その係数は ψn(x0)2\psi_n(x_0)^2 であった。残る二つの因子をそれぞれ k=iκnk=i\kappa_n で評価し、ψn(x0)2\psi_n(x_0)^2 と掛け合わせる。

右Jost解は、束縛状態では ψn\psi_n に比例する。分子と分母に同じ比例係数が付くので、

f+(x,k)f+(x0,k)⟶ψn(x)ψn(x0)(k→iκn).\frac{f_+(x,k)}{f_+(x_0,k)} \longrightarrow\frac{\psi_n(x)}{\psi_n(x_0)} \qquad(k\to i\kappa_n).

従って、1/(E−En)1/(E-E_n) の係数は

ψn(x)ψn(x0) 1f−(x0,−iκn) ψn(x0)2=ψn(x) ψn(x0)f−(x0,−iκn)=cnψn(x).\begin{aligned} \frac{\psi_n(x)}{\psi_n(x_0)}\, \frac1{f_-(x_0,-i\kappa_n)}\, \psi_n(x_0)^2 &=\psi_n(x)\,\frac{\psi_n(x_0)}{f_-(x_0,-i\kappa_n)}\\ &=c_n\psi_n(x). \end{aligned}

最後の等号では、規格化の関係 ψn(x0)=cnf−(x0,−iκn)\psi_n(x_0)=c_nf_-(x_0,-i\kappa_n) を使った。これで透過項は

a(k)f+(x,k)2ik=cnψn(x)E−En+O(1).(47)\frac{a(k)f_+(x,k)}{2ik} =\frac{c_n\psi_n(x)}{E-E_n}+O(1). \tag{47}

極係数 cnψn(x)c_n\psi_n(x) は、接続点 x0x_0 の選択に依存しない。 最後に E−En=(k−iκn)(k+iκn)E-E_n=(k-i\kappa_n)(k+i\kappa_n) なので

2ikE−En=ik−iκn+O(1).\frac{2ik}{E-E_n}=\frac{i}{k-i\kappa_n}+O(1).

したがって a(k)a(k) は k=iκnk=i\kappa_n に単純極を持ち、透過項の留数は

Res⁡k=iκn[a(k)f+(x,k)]=icnψn(x)=icn2f−(x,−iκn).(48)\operatorname*{Res}_{k=i\kappa_n}[a(k)f_+(x,k)] =i c_n\psi_n(x)=i c_n^2f_-(x,-i\kappa_n). \tag{48}

式 (38) で、各極 k=iκnk=i\kappa_n における留数は、式 (48) に eκnye^{\kappa_n y} を掛けたものである。従って、

lim⁡R→∞12π∫−RR[a(k)f+(x,k)−eikx]e−iky dk=−∑n=1Ncn2f−(x,−iκn)eκny.(49)\lim_{R\to\infty}\frac1{2\pi}\int_{-R}^R[a(k)f_+(x,k)-e^{ikx}]e^{-iky}\,dk =-\sum_{n=1}^N c_n^2f_-(x,-i\kappa_n)e^{\kappa_n y}. \tag{49}

となる。負号は極の係数の ii とフーリエ積分の ii の積から生じる。

単純極の留数積分

上半平面の極 iκni\kappa_n に対して、

12π∫Reik(x−y)k−iκn dk=ie−κn(x−y),y<x.(50)\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}\frac{e^{ik(x-y)}}{k-i\kappa_n}\,dk =i e^{-\kappa_n(x-y)},\qquad y<x. \tag{50}

正向きの留数定理を 2π2\pi で割った因子 ii と、極での指数関数の値が現れる。

3.2.7. GLM方程式の導出

式 (37) の反射項は既知データと核で表せている。式 (49) を散乱関係の変換へ代入するため、束縛状態の波形にも同じ核表示 (32) を使うと

f−(x,−iκn)eκny=eκn(x+y)+∫−∞xK(x,z)eκn(z+y) dz.(51)f_-(x,-i\kappa_n)e^{\kappa_n y} =e^{\kappa_n(x+y)}+\int_{-\infty}^xK(x,z)e^{\kappa_n(z+y)}\,dz. \tag{51}

反射項には b^(s)/(2π)\widehat b(s)/(2\pi)、束縛状態項には ∑n=1Ncn2eκns\sum_{n=1}^N c_n^2e^{\kappa_ns} が現れる。どちらも、積分の外では s=x+ys=x+y、核の積分内では s=z+ys=z+y という同じ引数で評価される。そこで、この二つの既知データの和を一つの関数にまとめる:

F(s)=12π∫Rb(k)e−iks dk⏟b^(s)/(2π)+∑n=1Ncn2eκns.(52)F(s)=\underbrace{\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}b(k)e^{-iks}\,dk}_{\widehat b(s)/(2\pi)} +\sum_{n=1}^Nc_n^2e^{\kappa_ns}. \tag{52}

入射項と反射項の変換の和から透過項の変換を引くと0になる。式 (37)、(49)、(51) を代入すると、透過項を引く負号と式 (49) の負号により、束縛状態項は正となる:

0=K(x,y)+b^(x+y)2π+∑n=1Ncn2eκn(x+y)⏟F(x+y)+∫−∞xK(x,z) [b^(z+y)2π+∑n=1Ncn2eκn(z+y)⏟F(z+y)] dz.(53)\begin{aligned} 0={}&K(x,y)+\underbrace{\frac{\widehat b(x+y)}{2\pi} +\sum_{n=1}^Nc_n^2e^{\kappa_n(x+y)}}_{F(x+y)}\\ &+\int_{-\infty}^xK(x,z)\,\Bigl[\underbrace{\frac{\widehat b(z+y)}{2\pi} +\sum_{n=1}^Nc_n^2e^{\kappa_n(z+y)}}_{F(z+y)}\Bigr]\,dz. \end{aligned} \tag{53}

となる。積分の外の二項は F(x+y)F(x+y)、積分内の二項は F(z+y)F(z+y) そのものである。従って、

0=K(x,y)+F(x+y)+∫−∞xK(x,z)F(z+y) dz.y<x.(54)\boxed{0=K(x,y)+F(x+y)+\int_{-\infty}^xK(x,z)F(z+y)\,dz.}\qquad y<x. \tag{54}

となる。これが左 GLM 方程式である。既知の FF に対して、これは K(x,⋅)K(x,\cdot) の線形積分方程式である。実際のポテンシャルから得た散乱データには、ここまで構成した核が解として存在する。補足で示す一意性により、その核を散乱データから決められる。解を対角へ連続に延長し、式 (33) の対角微分を取れば uu が復元される。

左 GLM 方程式の解の一意性

固定した xx で、二つの解の差 gg が (−∞,x)(-\infty,x) 上で 絶対可積分かつ二乗可積分(L1∩L2L^1\cap L^2)とする。その差は

g(y)+∫−∞xg(z)F(z+y) dz=0,y<xg(y)+\int_{-\infty}^x g(z)F(z+y)\,dz=0,\qquad y<x

を満たす。gg を y≥xy\ge x で0に延長し、そのフーリエ変換 g^(k)=∫−∞xg(z)e−ikz dz\widehat g(k)=\int_{-\infty}^xg(z)e^{-ikz}\,dz を用い、式 (52) を代入して差の式に g(y)‾\overline{g(y)} を掛け、y<xy<x で積分する。Fubini と Plancherel の等式を使い、実部を取ると

0=∫−∞x∣g(y)∣2dy+12π∫Rb(k)g^(k)g^(−k)‾ dk+∑n=1Ncn2∣∫−∞xg(y)eκnydy∣2.0=\int_{-\infty}^x|g(y)|^2dy+\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}b(k)\widehat g(k)\overline{\widehat g(-k)}\,dk +\sum_{n=1}^N c_n^2\left|\int_{-\infty}^x g(y)e^{\kappa_n y}dy\right|^2.

最後の和は非負である。反射項は b(−k)=b(k)‾b(-k)=\overline{b(k)} と 2∣g^(k)g^(−k)∣≤∣g^(k)∣2+∣g^(−k)∣22|\widehat g(k)\widehat g(-k)|\le |\widehat g(k)|^2+|\widehat g(-k)|^2 から、絶対値が

12π∫R∣b(k)∣ ∣g^(k)∣2dk\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}|b(k)|\,|\widehat g(k)|^2dk

以下である。さらに

∫−∞x∣g(y)∣2dy=12π∫R∣g^(k)∣2dk.\int_{-\infty}^x|g(y)|^2dy=\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}|\widehat g(k)|^2dk.

流束保存は 1=∣a(k)∣2+∣b(k)∣21=|a(k)|^2+|b(k)|^2 を与える。また a(k)W(k)=2ika(k)W(k)=2ik なので、実数 k≠0k\ne0 で a(k)≠0a(k)\ne0 である。従って ∣b(k)∣<1|b(k)|<1 となり、実部の等式から

12π∫R(1−∣b(k)∣)∣g^(k)∣2dk+∑n=1Ncn2∣∫−∞xg(y)eκnydy∣2≤0.\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}(1-|b(k)|)|\widehat g(k)|^2dk+\sum_{n=1}^Nc_n^2\left|\int_{-\infty}^xg(y)e^{\kappa_ny}dy\right|^2\le0.

左辺は非負なので g^=0\widehat g=0 ほとんど至る所、Plancherel により g=0g=0 である。これによりここで指定した関数クラスで解が一意である。

3.3. 無反射ポテンシャルとソリトン

3.3.1. 1ソリトン解

反射がなく、束縛状態が一つだけの場合に GLM 方程式を解いてみよう。散乱データは固有値 −κ12-\kappa_1^2 と規格化定数 c1>0c_1>0 であり、まず時刻を固定する。束縛状態の左端での形を全空間へ延ばした指数関数を

e1(x)=c1eκ1xe_1(x)=c_1e^{\kappa_1x}

と書く。Jost 解の核表示に k=−iκ1k=-i\kappa_1 を代入し、c1c_1 を掛けると、規格化された束縛状態 ψ1=c1f−(x,−iκ1)\psi_1=c_1f_-(x,-i\kappa_1) は

ψ1(x)=e1(x)+∫−∞xK(x,z)e1(z) dz.(55)\begin{aligned} \psi_1(x)=e_1(x)+\int_{-\infty}^xK(x,z)e_1(z)\,dz. \end{aligned} \tag{55}

と表される。

ここで散乱データ関数は F(x+y)=e1(x)e1(y)F(x+y)=e_1(x)e_1(y) と分離できる。GLM 方程式 (54) は

K(x,y)+e1(y)[e1(x)+∫−∞xK(x,z)e1(z) dz]=0.K(x,y)+e_1(y)\left[e_1(x)+\int_{-\infty}^xK(x,z)e_1(z)\,dz\right]=0.

角括弧は式 (55) の ψ1(x)\psi_1(x) なので、

K(x,y)=−ψ1(x)e1(y).(56)K(x,y)=-\psi_1(x)e_1(y). \tag{56}

固定した xx では、未知の核を求める問題が一つの値 ψ1(x)\psi_1(x) を求める問題になった。これを式 (55) に戻すと、

ψ1(x)=e1(x)−ψ1(x)∫−∞xe1(z)2 dz.\psi_1(x)=e_1(x)-\psi_1(x)\int_{-\infty}^xe_1(z)^2\,dz.

積分は e1(x)2/(2κ1)e_1(x)^2/(2\kappa_1) だから、

ψ1(x)=e1(x)1+e1(x)2/(2κ1).(57)\boxed{\psi_1(x)=\frac{e_1(x)}{1+e_1(x)^2/(2\kappa_1)}.} \tag{57}

自由方程式の解 e1e_1 は右へ向かって増大するが、この分母によって ψ1\psi_1 は右端でも減衰する。左端の指数的な形から、両端で減衰する束縛状態の波形が復元された。

ポテンシャルは核の対角値から得られる。式 (56) と (57) より

K(x,x)=−e1(x)21+e1(x)2/(2κ1).(58)K(x,x)=-\frac{e_1(x)^2}{1+e_1(x)^2/(2\kappa_1)}. \tag{58}

波形の中心を読み取るため、分母の二項が等しくなる位置を x0x_0 とする。すなわち c12e2κ1x0/(2κ1)=1c_1^2e^{2\kappa_1x_0}/(2\kappa_1)=1 と置くと

e1(x)22κ1=e2κ1(x−x0),K(x,x)=−κ1[1+tanh⁡ ⁣(κ1(x−x0))].(59)\frac{e_1(x)^2}{2\kappa_1}=e^{2\kappa_1(x-x_0)},\qquad K(x,x)=-\kappa_1\left[1+\tanh\!\bigl(\kappa_1(x-x_0)\bigr)\right]. \tag{59}

対角復元式 u=2 dK(x,x)/dxu=2\,dK(x,x)/dx で微分すれば、

u(x)=−2κ12sech⁡2 ⁣(κ1(x−x0)).(60)\boxed{u(x)=-2\kappa_1^2\operatorname{sech}^2\!\bigl(\kappa_1(x-x_0)\bigr).} \tag{60}

固有値を指定する κ1\kappa_1 が最小値 −2κ12-2\kappa_1^2 と幅の尺度 1/κ11/\kappa_1 を決め、規格化定数 c1c_1 が中心 x0x_0 を決める。

第2節の時間発展 c1(t)=c1(0)e−4κ13tc_1(t)=c_1(0)e^{-4\kappa_1^3t} を戻すと、中心を定める条件 c1(t)2e2κ1x0(t)/(2κ1)=1c_1(t)^2e^{2\kappa_1x_0(t)}/(2\kappa_1)=1 から

x0(t)=x0(0)+4κ12t(61)x_0(t)=x_0(0)+4\kappa_1^2t \tag{61}

となる。κ1\kappa_1 は時間に依らないので、復元した波は形を保ち、速度 4κ124\kappa_1^2 で移動する。これが一ソリトン解である。 水面の変位は η=−u\eta=-u なので、その波は高さ 2κ122\kappa_1^2 の山として進む。

最小値 −2.00 / 幅の尺度 1.00 / 規格化定数の二乗 2.00

u(x)u(x)
xx
−6-6
00
66
00
−2-2
−6-6
K(x,x)K(x,x)
xx
−6-6
00
66
00
−2-2
−6-6
u(x)=2ddxK(x,x)u(x)=2\dfrac{d}{dx}K(x,x)c12=2κ1e−2κ1x0c_1^2=2\kappa_1 e^{-2\kappa_1 x_0}t=0t=0
上段はポテンシャル、下段は変換核の対角値。破線は中心位置を示す。いずれも固定した時刻の再構成である。

3.3.2. GLM方程式の行列表示

一つの束縛状態からソリトンを復元できた。同じ構成を NN 個の束縛状態へ広げよう。反射がないとき、散乱データに残るのは固有値 −κn2-\kappa_n^2 と左端の規格化定数 cnc_n である。各束縛状態の符号を左端の係数 cn>0c_n>0 となるように選ぶ。まず時刻を固定し、指数関数の中身を

θn(x)=κnx+log⁡cn,n=1,…,N(62)\theta_n(x)=\kappa_nx+\log c_n,\qquad n=1,\ldots,N \tag{62}

と書く。従って、左端での形は eθn(x)=cneκnxe^{\theta_n(x)}=c_ne^{\kappa_nx} である。

束縛状態の波形も、この指数関数と核 KK で表せる。Jost 解の核表示は

f−(x,k)=eikx+∫−∞xK(x,z)eikz dzf_-(x,k)=e^{ikx}+\int_{-\infty}^xK(x,z)e^{ikz}\,dz

である。k=−iκnk=-i\kappa_n を代入して cnc_n を掛けると、規格化された束縛状態 ψn=cnf−(x,−iκn)\psi_n=c_nf_-(x,-i\kappa_n) は

ψn(x)=eθn(x)+∫−∞xK(x,z)eθn(z) dz.(63)\psi_n(x)=e^{\theta_n(x)}+\int_{-\infty}^xK(x,z)e^{\theta_n(z)}\,dz. \tag{63}

eθne^{\theta_n} は左端の形を全空間へ延ばした指数関数であり、ψn\psi_n はポテンシャルに対応する束縛状態の波形である。

核を求める GLM 方程式の既知関数 FF は、無反射の場合には束縛状態の散乱データだけで決まり、

F(s)=∑n=1Ncn2eκns,F(x+y)=∑n=1Neθn(x)eθn(y)\begin{aligned} F(s)&=\sum_{n=1}^N c_n^2e^{\kappa_ns},\\ F(x+y)&=\sum_{n=1}^N e^{\theta_n(x)}e^{\theta_n(y)} \end{aligned}

となる。この FF から未知の KK を求める GLM 方程式は

K(x,y)+F(x+y)+∫−∞xK(x,z)F(z+y) dz=0,y<x.K(x,y)+F(x+y)+\int_{-\infty}^xK(x,z)F(z+y)\,dz=0,\qquad y<x.

ここに上の指数関数の和を代入し、eθn(y)e^{\theta_n(y)} ごとにまとめると、

K(x,y)+∑n=1Neθn(y)[eθn(x)+∫−∞xK(x,z)eθn(z) dz]=0.(64)K(x,y)+\sum_{n=1}^N e^{\theta_n(y)}\Bigl[e^{\theta_n(x)}+\int_{-\infty}^xK(x,z)e^{\theta_n(z)}\,dz\Bigr]=0. \tag{64}

角括弧は式 (63) の ψn(x)\psi_n(x) なので、

K(x,y)=−∑n=1Nψn(x)eθn(y).(65)\boxed{K(x,y)=-\sum_{n=1}^N\psi_n(x)e^{\theta_n(y)}.} \tag{65}

指数関数を束縛状態へ変える核が、その束縛状態自身で書けた。固定した xx では、核の yy 依存性は既知の NN 個の指数関数で決まり、未知なのは NN 個の値 ψn(x)\psi_n(x) だけである。

この核を ψm\psi_m の積分表示 (63) に戻すと、束縛状態を決める方程式が閉じる。

ψm(x)+∑n=1N[∫−∞xeθm(z)+θn(z) dz]ψn(x)=eθm(x).(66)\psi_m(x)+\sum_{n=1}^N \left[\int_{-\infty}^x e^{\theta_m(z)+\theta_n(z)}\,dz\right]\psi_n(x)=e^{\theta_m(x)}. \tag{66}

角括弧は、二つの指数関数の積を左端から xx まで積分した既知の量である。これを行列の成分

Cmn(x)=∫−∞xeθm(z)+θn(z) dz=eθm(x)+θn(x)κm+κn(67)\begin{aligned} C_{mn}(x)&=\int_{-\infty}^x e^{\theta_m(z)+\theta_n(z)}\,dz\\ &=\frac{e^{\theta_m(x)+\theta_n(x)}}{\kappa_m+\kappa_n} \end{aligned} \tag{67}

ここで θ=(θ1,…,θN)T\boldsymbol\theta=(\theta_1,\ldots,\theta_N)^{\mathsf T} とし、eθe^{\boldsymbol\theta} は成分ごとの指数関数を並べた列ベクトルとする。式 (66) は

(I+C)ψ=eθ,ψ=(ψ1,…,ψN)T,eθ=(eθ1,…,eθN)T.(68)\begin{gathered} (I+C)\boldsymbol\psi=e^{\boldsymbol\theta},\\ \boldsymbol\psi=(\psi_1,\ldots,\psi_N)^{\mathsf T},\\ e^{\boldsymbol\theta}=(e^{\theta_1},\ldots,e^{\theta_N})^{\mathsf T}. \end{gathered} \tag{68}

となる。II は NN 次の単位行列である。CC は、区間 (−∞,x](-\infty,x] 上の指数関数 eθ1,…,eθNe^{\theta_1},\ldots,e^{\theta_N} のグラム行列であり、各成分は上の積分で定まる内積である。従って CC の固有値は非負で、I+CI+C の固有値は全て 11 以上となり、I+CI+C は可逆である。各 xx で連立方程式を解けば、束縛状態 ψ=(I+C)−1eθ\boldsymbol\psi=(I+C)^{-1}e^{\boldsymbol\theta} と核 (65) が得られる。

非対角成分 CmnC_{mn} があるため、第 mm の方程式にも他の ψn\psi_n が現れる。束縛状態はそれぞれを独立に求めるのではなく、この一つの連立方程式から求める。

連立方程式の一意可解性

実列ベクトル α=(α1,…,αN)T≠0\boldsymbol\alpha=(\alpha_1,\ldots,\alpha_N)^{\mathsf T}\ne0 に対し、CC の積分表示から

αTCα=∫−∞x(∑nαneθn(z))2dz>0.\boldsymbol\alpha^{\mathsf T}C\boldsymbol\alpha=\int_{-\infty}^x\left(\sum_n\alpha_ne^{\theta_n(z)}\right)^2dz>0.

固有値に対応する κn\kappa_n は互いに異なり、指数関数 eκnze^{\kappa_nz} は線形独立なので、不等号は厳密である。従って CC と I+CI+C は正定値であり、逆行列をもつ。

3.3.3. 多ソリトン解の行列式表示

ポテンシャルの復元に必要なのは核の対角値である。式 (65) で y=xy=x とすれば

K(x,x)=−(eθ)Tψ,u(x)=−2ddx((eθ)Tψ).(69)\begin{gathered} K(x,x)=-\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi, \\ u(x)=-2\frac{d}{dx}(\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi). \end{gathered} \tag{69}

ここまでは連立方程式で ψ\boldsymbol\psi を求めてからポテンシャルを計算する形だった。ポテンシャルだけなら、既知の行列 CC を使って直接

u(x)=−2d2dx2log⁡det⁡(I+C(x))(70)\boxed{u(x)=-2\frac{d^2}{dx^2}\log\det(I+C(x))} \tag{70}

と表せる。これなら各束縛状態の波形 ψn\psi_n を求めずに、散乱データからポテンシャルを得られる。

この式を確かめるには、対角値に現れた (eθ)Tψ\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi が log⁡det⁡(I+C)\log\det(I+C) の微分に等しいことを示せばよい。CC の積分表示から dCdx=eθ(eθ)T\frac{dC}{dx}=e^{\boldsymbol\theta}\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T} なので、行列式の微分公式と ψ=(I+C)−1eθ\boldsymbol\psi=(I+C)^{-1}e^{\boldsymbol\theta} により

ddxlog⁡det⁡(I+C)=tr⁡ ⁣((I+C)−1∂xC)=(eθ)T(I+C)−1eθ=(eθ)Tψ.(71)\begin{aligned} \frac{d}{dx}\log\det(I+C) &=\operatorname{tr}\!\left((I+C)^{-1}\partial_x C\right)\\ &=\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}(I+C)^{-1} e^{\boldsymbol\theta}\\ &=\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi. \end{aligned} \tag{71}

これを対角復元式 (69) に代入すれば、上のポテンシャルの表示が得られる。

時間発展を戻すには、第2節で求めた cn(t)=cn(0)e−4κn3tc_n(t)=c_n(0)e^{-4\kappa_n^3t} を使えばよい。すなわち

θn(x,t)=κnx−4κn3t+log⁡cn(0),Cmn(x,t)=eθm(x,t)+θn(x,t)κm+κn(72)\begin{gathered} \theta_n(x,t)=\kappa_nx-4\kappa_n^3t+\log c_n(0),\\ C_{mn}(x,t)=\frac{e^{\theta_m(x,t)+\theta_n(x,t)}}{\kappa_m+\kappa_n} \end{gathered} \tag{72}

を式 (70) に入れると、NN ソリトン解が得られる。散乱データの指数関数的な時間発展が、同じ行列の成分を通じて波形の時間発展に変わる。N=1N=1 では det⁡(I+C)=1+c(t)2e2κx/(2κ)\det(I+C)=1+c(t)^2e^{2\kappa x}/(2\kappa) となり、先ほどの一ソリトン解を再現する。

3.3.4. ソリトンの衝突と位置のずれ

二つの束縛状態があるとき、二ソリトン解と、一ソリトンを二つ足した波形はどこが違うのだろうか。行列式を展開すると、

det⁡(I+C)=1+C11+C22+C11C22−C122=1+C11+C22+(κ1−κ2κ1+κ2)2C11C22.(73)\begin{aligned} \det(I+C) &=1+C_{11}+C_{22}+C_{11}C_{22}-C_{12}^2\\ &=1+C_{11}+C_{22} +\left(\frac{\kappa_1-\kappa_2}{\kappa_1+\kappa_2}\right)^2C_{11}C_{22}. \end{aligned} \tag{73}

となる。二行目では C122/(C11C22)=4κ1κ2/(κ1+κ2)2C_{12}^2/(C_{11}C_{22})=4\kappa_1\kappa_2/(\kappa_1+\kappa_2)^2 を使った。

これを (1+C11)(1+C22)(1+C_{11})(1+C_{22}) と比較しよう。もしこの積なら、

−2∂x2log⁡[(1+C11)(1+C22)]=−2∂x2log⁡(1+C11)−2∂x2log⁡(1+C22),-2\partial_x^2\log[(1+C_{11})(1+C_{22})] =-2\partial_x^2\log(1+C_{11})-2\partial_x^2\log(1+C_{22}),

となり、ポテンシャルは二つの一ソリトンの単純な和になる。実際の行列式では、C11C22C_{11}C_{22} の係数が 11 から ((κ1−κ2)/(κ1+κ2))2((\kappa_1-\kappa_2)/(\kappa_1+\kappa_2))^2 に変わる。この係数が、二ソリトン解を単純な和と異なる波形にする。

その違いを、衝突前後の位置のずれとして読んでみよう。二つのソリトンが十分離れたとき、第1のソリトンの中心付近で C22C_{22} が十分小さければ、行列式は 1+C111+C_{11} に近い。一方、C22C_{22} が十分大きければ、

det⁡(I+C)≃C22[1+(κ1−κ2κ1+κ2)2C11].\det(I+C)\simeq C_{22}\left[1+ \left(\frac{\kappa_1-\kappa_2}{\kappa_1+\kappa_2}\right)^2 C_{11}\right].

log⁡C22\log C_{22} は xx の一次式なので、その二階微分は 00 である。従って、第1のソリトンの近くの波形は、どちらの場合も −2∂x2log⁡(1+定数×C11)-2\partial_x^2\log(1+\text{定数}\times C_{11}) という一ソリトンの形になる。

まず、一ソリトンの谷の中心を式で確かめよう。C11C_{11} の xx 依存性は e2κ1xe^{2\kappa_1x} に比例するので、

−2∂x2log⁡(1+C11)=−8κ12C11(1+C11)2.-2\partial_x^2\log(1+C_{11}) =-8\kappa_1^2\frac{C_{11}}{(1+C_{11})^2}.

C11>0C_{11}>0 では C11/(1+C11)2C_{11}/(1+C_{11})^2 が最大になるのは C11=1C_{11}=1 のときであり、そこがポテンシャルの最小点、すなわち谷の中心となる。

C11∝e2κ1x−8κ13tC_{11}\propto e^{2\kappa_1x-8\kappa_1^3t} なので、この定数倍は形や速度を変えず、中心の位置を変える。二つの領域での中心条件はそれぞれ

C11=1,(κ1−κ2κ1+κ2)2C11=1C_{11}=1,\qquad \left(\frac{\kappa_1-\kappa_2}{\kappa_1+\kappa_2}\right)^2 C_{11}=1

であり、後者の中心は前者より

−12κ1log⁡(κ1−κ2κ1+κ2)2-\frac{1}{2\kappa_1}\log\left(\frac{\kappa_1-\kappa_2}{\kappa_1+\kappa_2}\right)^2

だけ右にある。ここでは二つの領域の位置を比較した。時間の順序も、x≃4κ12t+定数x\simeq4\kappa_1^2t+\text{定数} に沿って C22∝exp⁡[8κ2(κ12−κ22)t]C_{22}\propto\exp[8\kappa_2(\kappa_1^2-\kappa_2^2)t] と書けばわかる。κ1>κ2\kappa_1>\kappa_2 なら第1のソリトンは衝突後にこの距離だけ前進し、κ1<κ2\kappa_1<\kappa_2 なら逆の順序をたどって後退する。衝突後に形と速度が保たれることも、中心の位置がずれることも、行列式のこの係数からわかる。

u(x,t)u(x,t)
Fraction of det⁡(I+C)\text{Fraction of }\det(I+C)
11C11C_{11}C22C_{22}(κ1−κ2κ1+κ2)2C11C22\left(\frac{\kappa_1-\kappa_2}{\kappa_1+\kappa_2}\right)^2 C_{11}C_{22}
−16-16−8-800881616xx
上段は行列式から計算した二ソリトンのポテンシャル。下段は行列式の四つの項を、それぞれ行列式全体で割った値(0から1)である。時刻を変えると、二つの谷の移動と、各項の寄与が変わる位置を同じ横軸で比較できる。κ1=1,  κ2=2,  C11(x,0)=3e2x,  C22(x,0)=3e4x\kappa_1=1,\;\kappa_2=2,\;C_{11}(x,0)=3e^{2x},\;C_{22}(x,0)=3e^{4x}。

一般の NN では、行列式の各項は部分集合 S⊆{1,…,N}S\subseteq\{1,\ldots,N\} に対応する主小行列式の和になる。それぞれの係数は、二ソリトンで現れた ((κi−κj)/(κi+κj))2((\kappa_i-\kappa_j)/(\kappa_i+\kappa_j))^2 を、その集合に含まれる全ての組について掛けたものである。一般式と計算を次の補足に示す。

主小行列式と相互作用因子

CS,SC_{S,S} を、SS に属する行と列だけを残した行列とする。I+CI+C の行列式を各列についての多重線形性で展開すると、各列で II の列か CC の列を選ぶことになる。CC の列を選んだ添字の集合を SS とすれば、残りの単位行列の列に沿う余因子展開により、その項は det⁡CS,S\det C_{S,S} になる。空集合の主小行列式を 11 と約束すると、

det⁡(I+C)=∑S⊆{1,…,N}det⁡CS,S(74)\det(I+C)=\sum_{S\subseteq\{1,\ldots,N\}}\det C_{S,S} \tag{74}

である。各行と各列から eθie^{\theta_i} をくくり出すと、

det⁡CS,S=(∏i∈Se2θi)det⁡[1κi+κj]i,j∈S.\det C_{S,S}=\left(\prod_{i\in S}e^{2\theta_i}\right)\det\left[\frac{1}{\kappa_i+\kappa_j}\right]_{i,j\in S}.

残った行列式は Cauchy の行列式であり、

det⁡[1κi+κj]i,j∈S=(∏i∈S12κi)∏i<ji,j∈S(κi−κjκi+κj)2\det\left[\frac{1}{\kappa_i+\kappa_j}\right]_{i,j\in S} =\left(\prod_{i\in S}\frac{1}{2\kappa_i}\right) \prod_{\substack{i<j\\i,j\in S}} \left(\frac{\kappa_i-\kappa_j}{\kappa_i+\kappa_j}\right)^2

となる。従って、

det⁡CS,S=∏i∈SCii∏i<ji,j∈S(κi−κjκi+κj)2.(75)\det C_{S,S} =\prod_{i\in S}C_{ii} \prod_{\substack{i<j\\i,j\in S}} \left(\frac{\kappa_i-\kappa_j}{\kappa_i+\kappa_j}\right)^2. \tag{75}

各部分集合の項には、その中の全ての組の係数が一つずつ現れる。

Cauchy の行列式の公式も、行の基本変形で確認できる。まず添字全体 1,…,N1,\ldots,N で計算しよう。第 mm 行(m≥2m\ge2)から、第1行の 2κ1/(κm+κ1)2\kappa_1/(\kappa_m+\kappa_1) 倍を引くと、第一列の第2行以降は 00 になる。残る m,n≥2m,n\ge2 の成分は

1κm+κn−2κ1(κm+κ1)(κ1+κn)=κm−κ1κm+κ11κm+κnκn−κ1κn+κ1.\begin{aligned} \frac{1}{\kappa_m+\kappa_n} -\frac{2\kappa_1}{(\kappa_m+\kappa_1)(\kappa_1+\kappa_n)} &=\frac{\kappa_m-\kappa_1}{\kappa_m+\kappa_1} \frac{1}{\kappa_m+\kappa_n} \frac{\kappa_n-\kappa_1}{\kappa_n+\kappa_1}. \end{aligned}

第一列で余因子展開し、残る行と列から左右の因子をそれぞれくくり出すと、

det⁡[1κm+κn]m,n=1N=12κ1∏n=2N(κn−κ1κn+κ1)2det⁡[1κm+κn]m,n=2N.\det\left[\frac{1}{\kappa_m+\kappa_n}\right]_{m,n=1}^N =\frac{1}{2\kappa_1} \prod_{n=2}^N\left(\frac{\kappa_n-\kappa_1}{\kappa_n+\kappa_1}\right)^2 \det\left[\frac{1}{\kappa_m+\kappa_n}\right]_{m,n=2}^N.

同じ操作を繰り返すと、各添字から 1/(2κi)1/(2\kappa_i) が一つ、各組から差と和の比の二乗が一つずつ現れる。任意の部分集合 SS にも同じ計算が適用でき、上の公式を得る。

復元したポテンシャルは、束縛状態の波形を使って

u(x,t)=−4∑n=1Nκnψn(x,t)2(76)u(x,t)=-4\sum_{n=1}^N\kappa_n\psi_n(x,t)^2 \tag{76}

とも表せる。左端の指数関数から連立方程式で求めた ψn\psi_n は、規格化された束縛状態であり、その二乗の重み付き和がポテンシャルを与える。この表示の導出と規格化の確認を以下の補足に示す。

束縛状態の固有方程式と規格化

式 (63) は ψn=cnf−(x,−iκn)\psi_n=c_nf_-(x,-i\kappa_n) の核表示である。この複素波数では指数関数が左端で減衰し、左積分は収束する。Lf−(x,k)=k2f−(x,k)Lf_-(x,k)=k^2f_-(x,k) より

Lψn=−κn2ψn.L\psi_n=-\kappa_n^2\psi_n.

規格化は連立方程式からも確かめられる。dCdx=eθ(eθ)T\frac{dC}{dx}=e^{\boldsymbol\theta}\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T} と逆行列の微分公式から

ddx(I+C)−1=−(I+C)−1eθ(eθ)T(I+C)−1=−ψψT.(77)\begin{aligned} \frac{d}{dx}(I+C)^{-1} &=-(I+C)^{-1}e^{\boldsymbol\theta}\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}(I+C)^{-1}\\ &=-\boldsymbol\psi\boldsymbol\psi^{\mathsf T}. \end{aligned} \tag{77}

x→−∞x\to-\infty では C→0C\to0 なので (I+C)−1→I(I+C)^{-1}\to I。他方、Cmn(x)=eκmxCmn(0)eκnxC_{mn}(x)=e^{\kappa_mx}C_{mn}(0)e^{\kappa_nx} より

[C(x)−1]mn=e−κmx[C(0)−1]mne−κnx⟶0(x→+∞).[C(x)^{-1}]_{mn}=e^{-\kappa_mx}[C(0)^{-1}]_{mn}e^{-\kappa_nx}\longrightarrow0 \qquad(x\to+\infty).

従って (I+C)−1=C−1(I+C−1)−1→0(I+C)^{-1}=C^{-1}(I+C^{-1})^{-1}\to0 である。式 (77) を両端の間で積分すると

∫Rψm(x)ψn(x) dx=δmn(78)\int_{\mathbb R}\psi_m(x)\psi_n(x)\,dx=\delta_{mn} \tag{78}

を得る。ここで δmn\delta_{mn} は m=nm=n のとき1、それ以外で0である。

束縛状態の二乗和によるポテンシャルの表示

eθn=ψn+∑mCnmψme^{\theta_n}=\psi_n+\sum_mC_{nm}\psi_m、Cmn=CnmC_{mn}=C_{nm} および (κm+κn)Cmn=eθm+θn(\kappa_m+\kappa_n)C_{mn}=e^{\theta_m+\theta_n} より

2∑nκneθnψn=2∑nκnψn2+∑m,neθm+θnψmψn=2∑nκnψn2+((eθ)Tψ)2.(79)\begin{aligned} 2\sum_n\kappa_ne^{\theta_n}\psi_n &=2\sum_n\kappa_n\psi_n^2+\sum_{m,n}e^{\theta_m+\theta_n}\psi_m\psi_n\\ &=2\sum_n\kappa_n\psi_n^2+(\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi)^2. \end{aligned} \tag{79}

一方、(eθ)Tψ=(eθ)T(I+C)−1eθ\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi=\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}(I+C)^{-1}e^{\boldsymbol\theta} を微分する。∂xθn=κn\partial_x\theta_n=\kappa_n なので、左右の指数関数を微分した寄与を足し、逆行列の微分 (77) を使うと

ddx((eθ)Tψ)=2∑nκneθnψn−[(eθ)Tψ]2=2∑nκnψn2.(80)\begin{aligned} \frac{d}{dx}(\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi) &=2\sum_n\kappa_ne^{\theta_n}\psi_n-\left[\bigl(e^{\boldsymbol\theta}\bigr)^{\mathsf T}\boldsymbol\psi\right]^2\\ &=2\sum_n\kappa_n\psi_n^2. \end{aligned} \tag{80}

これを対角復元式 (69) に代入すれば u=−4∑nκnψn2u=-4\sum_n\kappa_n\psi_n^2 が従う。

4. KdV階層と保存量

4.1. 積分変換と擬微分作用素

KdV の Lax 方程式に現れた B=−4∂x3+6u∂x+3uxB=-4\partial_x^3+6u\partial_x+3u_x には、uu とその微分が特定の係数で現れた。これらの係数を一つの構造から決め、同じ仕組みでより高い微分を含む発展則も作れるだろうか。手掛かりは、前章で使った、自由波を Jost 解へ変える核 KK にある。

前節までに、固定したポテンシャル u(x,t)u(x,t) に対する左 Jost 解は

f−(x,k)=eikx+∫−∞xK(x,y)eiky dy(81)f_-(x,k)=e^{ikx}+\int_{-\infty}^xK(x,y)e^{iky}\,dy \tag{81}

と表され、その同じ核の対角値から u=2 dK(x,x)/dxu=2\,dK(x,x)/dx が復元されることを見た。時刻 tt を固定し、自由波だけでなく積分が収束する十分滑らかな入力 gg にも同じ積分変換を作用させて

(Sg)(x):=g(x)+∫−∞xK(x,y)g(y) dy(82)(Sg)(x):=g(x)+\int_{-\infty}^xK(x,y)g(y)\,dy \tag{82}

と書く。したがって Seikx=f−(x,k)S e^{ikx}=f_-(x,k) である。SS は既習の核 KK が定める、自由波からポテンシャル付きの波への変換を表す。

この変換で微分はどう表されるだろうか。自由波を微分してから SS を作用させる操作を、変換後の波に作用する演算子 PP で表せれば、

P(Sg)=S(∂xg)P(Sg)=S(\partial_x g)

となる。以下ではこの関係を擬微分作用素で具体化し、PP の二乗が既知の Schrödinger 演算子 −L-L になることを示す。

まず負の微分冪を使う意味を、積分変換と結び付けておく。左端で十分速く消える関数 gg には

(∂x−1g)(x):=∫−∞xg(s) ds(\partial_x^{-1}g)(x):=\int_{-\infty}^xg(s)\,ds

と置ける。このとき左端の境界項は消え、∂x∂x−1g=g\partial_x\partial_x^{-1}g=g である。以後、擬微分作用素の負冪は形式級数として扱い、積則と係数比較で定める。

係数関数と微分の積は可換ではない。たとえば、任意の滑らかな gg に対して

∂x(αg)=α∂xg+αxg\partial_x(\alpha g)=\alpha\partial_xg+\alpha_xg

なので、演算子の積では ∂xα=α∂x+αx\partial_x\alpha=\alpha\partial_x+\alpha_x と扱う。∂=∂x\partial=\partial_x と略記し、負冪を含む擬微分作用素を

A=∑j=−∞mαj(x)∂jA=\sum_{j=-\infty}^{m}\alpha_j(x)\partial^j

という、次数に上限をもつ形式級数として導入する。その積は一般化 Leibniz 則

∂mα=∑j≥0(mj)(∂xjα)∂m−j,(mj)=m(m−1)⋯(m−j+1)j!,(m0)=1\partial^m\alpha=\sum_{j\ge0}\binom{m}{j}(\partial_x^j\alpha)\partial^{m-j},\qquad \binom{m}{j}=\frac{m(m-1)\cdots(m-j+1)}{j!},\quad \binom m0=1

で定める。たとえば ∂−1α=α∂−1−αx∂−2+αxx∂−3−⋯\partial^{-1}\alpha=\alpha\partial^{-1}-\alpha_x\partial^{-2}+\alpha_{xx}\partial^{-3}-\cdots となる。定積分として定めた ∂x−1\partial_x^{-1} は、境界条件を満たす関数への具体的な積分作用である。擬微分作用素の平面波上の (ik)−r(ik)^{-r} は、その形式級数を大波数で比較する記号として用いる。

核 KK と必要な導関数が左端で十分速く減衰するとき、変換 SS の積分核表示を平面波に作用させ、yy について部分積分を繰り返すと、左端の境界項が消え、上端 y=xy=x の値と導関数が順に現れる。従って SS の形式擬微分表示は

S=1+K(x,x)∂−1−(∂yK)(x,x)∂−2+⋯ .(83)S=1+K(x,x)\partial^{-1}-(\partial_yK)(x,x)\partial^{-2}+\cdots. \tag{83}

この等式は、散乱問題で KK が定める積分変換の大波数展開を形式級数で表す。対角値が先頭の負冪係数となる点は、既に得た u=2 dK(x,x)/dxu=2\,dK(x,x)/dx との接点でもある。部分積分の各段の境界条件と係数確認は補足に示す。

この演算子を使う理由は、LL と自由微分の作用を、同じ変換後の波で直接比べられることにある。Jost 解の定義から、任意の実波数 kk について

L(Seikx)=k2Seikx=S(−∂2eikx).L(S e^{ikx})=k^2S e^{ikx}=S(-\partial^2 e^{ikx}).

つまり両辺は全ての実波数 kk で、同じ変換後の固有関数に同じ固有値 k2k^2 で作用する。この全波数の関係を大波数で展開して形式級数の各係数を比べると、形式擬微分作用素として

LS=S(−∂2)(84)LS=S(-\partial^2) \tag{84}

を得る。

形式表示の SS は 11 と負冪部分の和なので、形式積の中で逆をもつ。実際、Q:=S−1Q:=S-1 の次数は −1-1 以下なので、逆級数は

S−1=1−Q+Q2−Q3+⋯S^{-1}=1-Q+Q^2-Q^3+\cdots

となる。QQ の次数が負なので、各固定次数の係数には有限個の項だけが寄与する。従ってこれは収束を要しない形式逆である。ここで

P:=S∂S−1(85)P:=S\partial S^{-1} \tag{85}

と定めれば、PS=S∂PS=S\partial、さらに (84) より

P2=S∂2S−1=−L.P^2=S\partial^2S^{-1}=-L.

したがって PP は、自由波の微分を変換後の波に移す、最高次項が ∂\partial である −L-L の形式平方根である。

左列で微分してから SS を作用させる経路と、先に SS を作用させて右列で PP を作用させる経路は、同じ関数 S(∂xg)S(\partial_xg) に至る。

核の展開 (83) と P2=−LP^2=-L の係数を比較すると

P=(−L)1/2=∂−u2∂−1+ux4∂−2+⋯ .(86)P=(-L)^{1/2}=\partial-\frac{u}{2}\partial^{-1}+\frac{u_x}{4}\partial^{-2}+\cdots. \tag{86}

となり、最初の負冪係数にも対角復元式と同じポテンシャルが現れる。係数を順に定める計算は補足に置く。

変換核の展開と形式平方根の係数

平面波 g(y)=eikyg(y)=e^{iky} に積分変換の補正を作用させる。KK と必要な導関数が左端で十分速く消えるとき、部分積分を行うごとに左端の境界項は消え、上端から

∫−∞xK(x,y)eiky dy∼eikx[K(x,x)ik−Ky(x,x)(ik)2+⋯ ]\int_{-\infty}^x K(x,y)e^{iky}\,dy \sim e^{ikx}\left[\frac{K(x,x)}{ik}-\frac{K_y(x,x)}{(ik)^2}+\cdots\right]

を得る。平面波上では ∂−r\partial^{-r} が (ik)−r(ik)^{-r} として作用するので、これが (83) の係数を与える。これはこの積分変換の大波数漸近展開である。

次に P=∂+a1∂−1+a2∂−2+⋯P=\partial+a_1\partial^{-1}+a_2\partial^{-2}+\cdots と置く。非可換積の規則 ∂a=a∂+ax\partial a=a\partial+a_x を用いると、P2P^2 の ∂0\partial^0 係数は 2a12a_1、∂−1\partial^{-1} 係数は 2a2+(a1)x2a_2+(a_1)_x である。これらを P2=∂2−uP^2=\partial^2-u と比較して

a1=−u2,a2=ux4a_1=-\frac{u}{2},\qquad a_2=\frac{u_x}{4}

となる。以後も同じ係数比較で一つずつ決まる。

4.2. KdV階層

前節までの KdV 方程式では物理時間 tt を使い、

L=−∂x2+u(x,t),Lt=[−4∂x3+6u∂x+3ux,L]L=-\partial_x^2+u(x,t),\qquad L_t=[-4\partial_x^3+6u\partial_x+3u_x,L]

という Lax 方程式で表された。ここで交換子は [A,C]=AC−CA[A,C]=AC-CA である。以後、この節では階層時間 tnt_n を使い、t3=−4tt_3=-4t とする。したがって ∂t3=−(1/4)∂t\partial_{t_3}=-(1/4)\partial_t であり、同じ物理的な KdV 発展は

∂u∂t3=uxxx−6uux4\frac{\partial u}{\partial t_3}=\frac{u_{xxx}-6uu_x}{4}

と書ける。この節では、得られた一つの演算子 PP から無限個の時間発展を作り、それぞれに保存量があることを示す。

L=−∂2+uL=-\partial^2+u の各階層時間に沿う変化は、掛け算演算子 utnu_{t_n} である。したがって、Lax 方程式で発展を作るには、交換子 [B,L][B,L] に微分演算子が残らないような BB が必要になる。

PnP^n は L=−P2L=-P^2 と可換なので、そのまま BB にしても自明な流れしか生じない。ところが、PnP^n の非負冪だけを残すと、その部分と LL の交換子は掛け算演算子になる。この性質を使って時間発展を作る。

A≥0A_{\ge0} を AA の非負の冪 ∂j\partial^j(j≥0j\ge0)からなる部分、A<0A_{<0} を残りの負冪部分と書き、

Bn=(Pn)≥0,n=1,2,…(87)B_n=\bigl(P^n\bigr)_{\ge0},\qquad n=1,2,\ldots \tag{87}

と定める。P2=−LP^2=-L なので偶数乗 P2m=(−L)mP^{2m}=(-L)^m は LL と可換し、対応する流れは自明である。n=1n=1 では B1=∂B_1=\partial となり、t1=xt_1=x と同一視される。この流れは xx 方向の平行移動を表し、独立の時間変数を加えない。KdV の非自明な流れは奇数 n≥3n\ge3 に現れる。まず n=3n=3 で、この正規化の B3B_3 を求めよう。展開で P3P^3 の非負冪を集めると

B3=(P3)≥0=∂3−32u∂−34ux,(88)B_3=(P^3)_{\ge0}=\partial^3-\frac32u\partial-\frac34u_x, \tag{88}

となる。これは物理時間 tt の発展を定める BB の −1/4-1/4 倍である。

PnP^n 全体は LL と可換なので、BnB_n と LL の交換子は負冪部分 (Pn)<0\bigl(P^n\bigr)_{<0} との交換子だけで決まる。

[L,Bn]=−[L,(Pn)<0].(89)[L,B_n]=-[L,\bigl(P^n\bigr)_{<0}]. \tag{89}

負冪部分の最高次数は ∂−1\partial^{-1} である。L=−∂2+uL=-\partial^2+u と負冪項の交換子では、たとえば [−∂2,α∂−1]=−2αx−αxx∂−1[-\partial^2,\alpha\partial^{-1}]=-2\alpha_x-\alpha_{xx}\partial^{-1} のように最高次項が相殺し、次数は 00 以下となる。一方、左辺は微分作用素なので負の冪を含まない。両辺が一致するには次数 00 の項だけが残るため、交換子は掛け算演算子となる。したがって各 BnB_n は LL との Lax 方程式

∂L∂tn=[Bn,L](90)\frac{\partial L}{\partial t_n}=[B_n,L] \tag{90}

を与える。偶数 nn は自明な流れであり、奇数 n≥3n\ge3 が KdV 階層の非自明な発展を与える。tnt_n は各発展に割り当てた階層時間である。

4.3. 無限個の保存量

4.3.1. 演算子の冪のLax方程式

ここでは t3t_3 に沿う発展を考える。変換核から得た PP を使って保存量を求めるため、まず PP とその冪の時間変化を求めよう。一つの発展則でこれらを追えれば、個々の式を展開せずに、無限個の量をまとめて調べられる。

P2=−LP^2=-L を時間微分すると

Pt3P+PPt3=−Lt3P_{t_3}P+PP_{t_3}=-L_{t_3}

である。一方、Lax 方程式 Lt3=[B3,L]L_{t_3}=[B_3,L] と P2=−LP^2=-L から

[B3,P]P+P[B3,P]=[B3,P2]=−Lt3[B_3,P]P+P[B_3,P]=[B_3,P^2]=-L_{t_3}

となる。両式の差を取れば

(Pt3−[B3,P])P+P(Pt3−[B3,P])=0.\bigl(P_{t_3}-[B_3,P]\bigr)P+P\bigl(P_{t_3}-[B_3,P]\bigr)=0.

PP の最高次項は ∂\partial なので、差 Pt3−[B3,P]P_{t_3}-[B_3,P] が非零なら、左辺の最高次項はその係数の2倍となり、消えない。したがって

Pt3=[B3,P].(91)P_{t_3}=[B_3,P]. \tag{91}

積の微分則を使うと、各正整数 nn の奇数冪についても

∂∂t3P2n−1=[B3,P2n−1](92)\frac{\partial}{\partial t_3}P^{2n-1}=[B_3,P^{2n-1}] \tag{92}

が得られる。

4.3.2. 擬微分作用素の留数と保存則

これで、各奇数冪の t3t_3 発展は交換子として書けた。保存量を得るには、ここから時間微分が xx の全微分になる量を取り出せばよい。空間積分すると、境界項だけが残るからである。

ここで役立つのが、擬微分演算子の交換子では、∂−1\partial^{-1} の係数が xx の全微分になるという性質である。この係数を取り出す操作を

A=∑jαj∂j,res⁡∂A=α−1(93)A=\sum_j\alpha_j\partial^j,\qquad \operatorname{res}_{\partial}A=\alpha_{-1} \tag{93}

と書き、AA の留数と呼ぶ。すると、既に求めた発展則 (92) から

∂∂t3res⁡∂P2n−1=res⁡∂[B3,P2n−1].(94)\frac{\partial}{\partial t_3}\operatorname{res}_{\partial}P^{2n-1} =\operatorname{res}_{\partial}[B_3,P^{2n-1}]. \tag{94}

右辺が全微分になることを、以下で確かめよう。

この確認では演算子全体を展開する必要はない。二つの単項式 α∂m\alpha\partial^m と β∂n\beta\partial^n を取り、積の中から留数に寄与する項だけを拾う。一般化 Leibniz 則で ∂mβ\partial^m\beta を展開すると、∂m+n−r\partial^{m+n-r} の項が現れる。これが ∂−1\partial^{-1} になるには r=m+n+1r=m+n+1 でなければならない。r<0r<0 なら微分回数が負となるので寄与はなく、r=0r=0 なら係数は αβ−βα=0\alpha\beta-\beta\alpha=0 で相殺する。したがって r≥1r\ge1 の場合だけを調べればよい。

留数に寄与する項は有限個なので、B3B_3 と P2n−1P^{2n-1} の級数にも項ごとに適用でき、留数全体も全微分となる。

そこで、この留数を

Rn(x,t3)=res⁡∂P2n−1,n=1,2,…(95)R_n(x,t_3)=\operatorname{res}_{\partial}P^{2n-1},\qquad n=1,2,\ldots \tag{95}

と書く。たとえば PP の ∂−1\partial^{-1} 係数から R1=−u/2R_1=-u/2 を得る。各 RnR_n は uu とその空間微分だけで書ける。式 (94) の右辺が全微分になることから、ある局所関数 Jn(x,t3)J_n(x,t_3) が存在して

∂Rn∂t3=∂Jn∂x.(96)\frac{\partial R_n}{\partial t_3}=\frac{\partial J_n}{\partial x}. \tag{96}

uu とその導関数が x→±∞x\to\pm\infty で十分速く減衰すれば JnJ_n の境界値の差は消える。したがって

In(t3)=∫−∞∞Rn(x,t3) dx(97)I_n(t_3)=\int_{-\infty}^{\infty}R_n(x,t_3)\,dx \tag{97}

は t3t_3 に依存しない。すべての n≥1n\ge1 でこの議論が成り立つため、KdV 方程式には無限個の保存量がある。

交換子の留数と全微分

一般化二項係数を (qr)=q(q−1)⋯(q−r+1)/r!\binom{q}{r}=q(q-1)\cdots(q-r+1)/r!(r≥1r\ge1)、(q0)=1\binom{q}{0}=1 と定める。整数 qq に対し負の qq でもこの定義を使うと

∂qβ=∑r≥0(qr)β(r)∂q−r\partial^q\beta=\sum_{r\ge0}\binom{q}{r}\beta^{(r)}\partial^{q-r}

は擬微分演算子の形式積の Leibniz 則である。ここで β(r)=∂xrβ\beta^{(r)}=\partial_x^r\beta とし、和は形式級数として扱う。

単項式 α∂m\alpha\partial^m と β∂n\beta\partial^n の交換子の留数を計算する。r=m+n+1r=m+n+1 とおく。r<0r<0 では ∂−1\partial^{-1} を作る項がなく、r=0r=0 では交換子の係数は αβ−βα=0\alpha\beta-\beta\alpha=0 である。r≥1r\ge1 なら

res⁡∂[α∂m,β∂n]=(mr)αβ(r)−(nr)βα(r).(98)\operatorname{res}_{\partial}[\alpha\partial^m,\beta\partial^n] =\binom{m}{r}\alpha\beta^{(r)}-\binom{n}{r}\beta\alpha^{(r)}. \tag{98}

このとき n=r−m−1n=r-m-1 なので、積の定義から (nr)=(−1)r(mr)\binom{n}{r}=(-1)^r\binom{m}{r} となる。実際、n(n−1)⋯(n−r+1)n(n-1)\cdots(n-r+1) の因子は r−m−1,r−m−2,…,−mr-m-1,r-m-2,\ldots,-m で、これは (−1)rm(m−1)⋯(m−r+1)(-1)^r m(m-1)\cdots(m-r+1) と同じ積である。したがって

res⁡∂[α∂m,β∂n]=(mr)(αβ(r)−(−1)rα(r)β).(99)\operatorname{res}_{\partial}[\alpha\partial^m,\beta\partial^n] =\binom{m}{r}\left(\alpha\beta^{(r)}-(-1)^r\alpha^{(r)}\beta\right). \tag{99}

一方、積の微分を展開すると中間項が隣り合って相殺し、

∂∂x(∑j=0r−1(−1)jα(j)β(r−1−j))=αβ(r)−(−1)rα(r)β.(100)\frac{\partial}{\partial x}\left(\sum_{j=0}^{r-1}(-1)^j\alpha^{(j)}\beta^{(r-1-j)}\right) =\alpha\beta^{(r)}-(-1)^r\alpha^{(r)}\beta. \tag{100}

したがって (99) は全微分である。r=0r=0 の場合は対応する和を空和と見れば微分は 00 となり、先の直接計算と一致する。r<0r<0 では寄与も和もない。

一般の擬微分演算子は単項式の和である。各固定された次数で留数に寄与する単項式の組は有限個なので、この結果を項ごとに足せる。これを (94) に適用すれば (96) が従う。この形式計算については Batlle, §2.1 の命題2.6・2.8および §2.2 も参照できる。

参考文献

[1] 中村佳正, 高崎金久, & 辻本諭. (2018). 可積分系の数理 (解析学百科 2). 朝倉書店.

[2] 及川正行. (2013). 第 5 章 逆散乱法. ながれ: 日本流体力学会誌, 32(23), 39-53.

[3] Miura, R. M., Gardner, C. S., & Kruskal, M. D. (1968). Korteweg-de vries equation and generalizations. II. Existence of conservation laws and constants of motion. Journal of Mathematical physics, 9(30), 1204-1209.

Footnotes

  1. 浅水波の方程式からこの形にする際は、線形波の速さで動く座標を使う。以下の速度は、この座標で測った速度である。 ↩

  2. 厳密なソリトン解を構成するためには、もちろん線形な重ね合わせではいけない。 ↩

  3. 式 (6) を微分すると

    η′(x,0)=−v3/22sech⁡2 ⁣(v2x)tanh⁡ ⁣(v2x).(101)\eta'(x,0)=-\frac{v^{3/2}}{2}\operatorname{sech}^2\!\left(\frac{\sqrt v}{2}x\right)\tanh\!\left(\frac{\sqrt v}{2}x\right). \tag{101}

    従って tanh⁡2=1−sech⁡2\tanh^2=1-\operatorname{sech}^2 より

    (η′)2=v34sech⁡4 ⁣(v2x)[1−sech⁡2 ⁣(v2x)]=vη2−2η3.(102)(\eta')^2=\frac{v^3}{4}\operatorname{sech}^4\!\left(\frac{\sqrt v}{2}x\right)\left[1-\operatorname{sech}^2\!\left(\frac{\sqrt v}{2}x\right)\right]=v\eta^2-2\eta^3. \tag{102} ↩
  4. 逆にL(t)L(t)の固有値が時間変化しない条件としてLax方程式を導ける。 ↩

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